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伊藤 美和先生 プロフィール |
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栗田 春美さん(仮名)のご相談
共働きの夫、9歳の娘と3人で賃貸暮らしをしています。1人娘の学費は何とか確保できそうですが、自分達の老後に向けた準備が全然できていません。子どもはいずれ独立するので、夫婦2人きりならば老後もずっと賃貸でいいかな、と思っています。気がかりは遠方に住む夫の両親の介護の問題です。今後、同居をしなくても遠距離介護で家計が圧迫されるのではと心配しています。このような状況で、これからどのように老後資金を準備していけばいいでしょうか?
栗田さん(仮名)のプロフィール | |
35歳、会社員。39歳のご主人(会社員)と9歳になるお嬢様との3人家族。お住まいは賃貸(団地) |
収支の状況
1.収入 | |||
月収(夫/手取り) | 390,000 円 | ボーナス(夫/手取り) | 120万×年2回 |
月収(妻/手取り) | 150,000 円 | ボーナス(妻/手取り) | 5万×年2回 |
2.月間支出費用 | |||
住宅費(駐車場2台分込) | 42,000 円 | 車費用 | 25,000 円 |
食費(外食代込) | 70,000 円 | 水道・光熱費 | 20,000 円 |
通信費(携帯電話代込) | 10,500 円 | 医療費(歯の矯正ほか) | 15,000 円 |
子ども費 (塾・習い事ほか) |
42,500 円 | 夫こづかい | 30,000 円 |
貯蓄 | 200,000 円 | 生命保険 | 23,000 円 |
その他(被服費ほか) | 22,000 円 | ||
3.ボーナスの出費(年間) | |||
貯蓄(普通預金) | 1,400,000 円 | 夫小遣い | 200,000 円 |
年払い保険料 | 250,000 円 | 帰省費 | 200,000 円 |
税金・レジャー・ゆとり | 450,000 円 |
現在の貯蓄等
●子供用
総額 | |
普通預金 | 50万円 |
定期 | 40万円 |
通常貯金・ニュー定期(郵便局) | 500万円 |
学資保険(満期時) | 300万円 |
国債 | 200万円 |
公社債 | 30万円 |
●夫の両親用(両親が困った時・遊びに来た時使っている)
総額 | |
通常貯金(郵便局) | 140万円 |
●夫婦用・老後用
総額 | |
通常貯金・ニュー定期(郵便局) | 1000万円 |
定期(銀行) | 150万円 |
USドルMMF | 110万円 |
豪ドルMMF | 25万円 |
るいとう(株) | 240万円 |
公社債 | 100万円 |
国債 | 100万円 |
養老保険(平成20年満期・払込済) | 150万円 |
今後の予定&ライフプラン
時期 | 予定 | 必要額 |
平成17年 | 顎の矯正(長女) | 40万円 |
平成17年 | 海外旅行(妻) | 10万円 |
平成19年 | 車の買替え(妻) | 150万円 |
平成21年 | 歯の矯正(長女) | 150万円 |
平成25年 | 車の買替え(夫) | 300万円 |
※ 病気や不足の事態にならない限り共働きを続ける
※ 子どもの進路は高校までは公立、大学は県外の国公立(私立は検討)
※ 大学進学費用として1300万円を目標に貯めている(年250万×4年+α)
※ 老後は贅沢は望んでいないが経済的に困らない暮らしがしたい
※ 夫は一生賃貸暮らしでいいと思っているが、妻は平屋の一戸建てを購入希望
※ 購入にあたっては妻の実家から500万円援助が見込めそう(夫は拒否)
※ 夫の両親の介護を手伝うことになりそう(金銭的な援助になるかも?)
収支&資産運用の方針
- 毎月の貯金・内訳は、(1)銀行2万円(老後用・はじめたばかり)、(2)るいとう2万円、(3)郵貯2万円(夫の両親用)、(4)銀行積立10万円(教育費用)など
- 被服費や交際費が足りない時には、ゆとり費(ボーナスで積立)崩している
- 食費・レジャー費・カード利用金額が多い(夫はカード派・たまに口論も)
- 元本割れが怖いので、安全性の高い金融商品を利用したい
その他の相談事項
- 老後に向けて個人年金に入った方がいい?満期になる養老保険を個人年金にあてようか考えている。
- 結婚した時に預けたニュー定期(郵便局)が続々と満期を迎えています。安全な投資としてお勧め商品は?
- 教育費の貯蓄目標(1300万円)は適正でしょうか?自分が大学に行った時1000万円近くかかったと言われているので、そのぐらいを目標にしています。
- 遠距離介護の対策は?義弟は経済的に余裕がないので私達に負担がかかりそう。
‘一生賃貸で’と考えるなら、’リタイア迄に3000万円’が一つの目安!
アドバイス1:教育資金の貯蓄目標額(1300万円)は、十分すぎる金額です
栗田家の場合、大学進学となると下宿生活になるとのこと。文部科学省の学生生活費調査によると、年間にかかるお金の平均は公立で学寮に住む場合でも140万円、私立で下宿に住む場合は270万円ほどとかなりの出費となります。でも‘医学部に進学’‘海外に留学’というような特別な進路をご希望でなければ、今までに貯めた820万円+学資保険(満期300万円)の積み立てを続ければ十分かと思います。
歯や顎の矯正治療に100万円以上のお金をかけ、毎月4~5万円もの教育費を負担していることを考えると、大学時代のプラスα分の出費は、奨学金やアルバイトなどでお子さんに自身に負担してもらいましょう。現在の30~40代は公的年金の支給額が先細りになる可能性が大です。親の世代とは違うということを自覚し、できるだけ早く厚く老後資金の準備を行うことが大切です。
アドバイス2:ご両親の介護が始まる前に、自分達の老後資金にメドを
核家族化が進んでいる今、多くの人にとって親の介護は‘避けては通れない道’となっています。栗田さんの場合、ご長男であるご主人のご両親の介護や先祖のお墓の管理の問題を不安に思っていらっしゃるとのこと。栗田さんの場合は‘親の介護やお墓の管理にいくらかかるか’を考えるより、まず自分達の老後資金の準備にメドをつける方が先決です。
ご両親の介護が始まれば、貯蓄に回せるお金はかなり減る可能性もありますし、場合によってはご夫婦どちらかが勤めを辞めることになることになるかもしれません。ご夫婦が老後資金を十分に貯めることができなければ、現在のお二人と同じような心配を将来お嬢さんが1人で背負うことになります。教育費にメドがついた今、これからはご夫婦の老後資金を前倒しで貯めていくことが肝要かと思います。
遠距離介護の対策は何といっても事前の情報収集です。共稼ぎの場合はイザという時に短時間で情報を集めることは難しいので、特に大切です。必要な介護の状況に応じて、ご両親が地元でどのようなサービスを受けられるのかについて、帰省のたびに少しずつ調べていくようにしておきたいものです。お住まいの地域の情報も集めておけば‘呼び寄せて介護をする’という選択肢も慌てずに検討できますし、ご自分達の老後への備えにもつながるので一石二鳥です。
「義弟には貯蓄がないから自分達に負担がかかりそう」とのことですが、栗原家とて余裕のある状態ではありません。将来後悔することのないよう、「夫婦の老後の経済的自立」「教育費」「親の介護にかけるお金」のバランスをよく考えましょう。
アドバイス3:マイホームを買わない分、老後の蓄えの上乗せを!
デフレの今は‘一生賃貸住まいの方が合理的’と考える人が増えています。でもマイホームを持たない場合は、老後の備えについてより慎重に考える必要があります。年金暮らしになってから、現在の住まいを退去する必要に迫られた場合、次の住まいを見つけるのは困難という現実があります。またマイホームを持っていれば、イザという時売却して介護費用や老人ホームの入居費用のお金を工面することができますが、賃貸に住んでいる場合は、そういう選択肢がないということになります。
‘一生賃貸で’と考えるなら、リタイア時に‘夫婦二人で住めるバリアフリーの新築マンションを購入できる金額+老後の生活費’分を、貯めておきたいもの。地域にもよりますが‘2000万円+1000万円=3000万円’というのが一つの目安です。マンションを買わない場合でも、年の半分を海外で暮らしたり、老人ホームの入居費用に充てたりなど老後生活に様々な選択肢が生まれますね。
マンションを想定する理由は「老後の生活費+一戸建ての購入資金を貯める」という目標は一般的には現実的ではないからです。また老後は一戸建てよりバリアフリーのマンションの方が維持・管理しやすいし、介護も楽な場合が多いということもあります。‘新築’にこだわりたいのは、バリアフリーに対応している物件が多いこと、また年金生活中に‘大規模リフォーム’の費用を負担することは極力避けたい、という思惑からです。
ただしこれは最低限の目安と考えた方がいいでしょう。総務省の‘家計調査年報’によると夫婦二人の年金生活世帯の平均的支出額は月25~26万円、対する年金収入の平均手取りは約20万円ほどです(ただし元自営業世帯の基礎年金額は満額でも夫婦二人で月13万円強)。毎月約5万円赤字となっており、多くはそれを貯蓄で埋めていると思われます。月5万円ですから年60万円、15年で900万円、20年で1200万円となります。レジャー代や家電代、車の購入費、介護費用などは別枠で用意が必要です。栗原さんの場合、毎月10万円・ボーナスから30万円ずつ貯めていけば、50歳までに約3800万円(現在の夫婦用・両親用の貯蓄約2000万を含めて)、60歳までに約5600万円+退職金分、を老後資金として確保することができます。
アドバイス4:’安全な投資商品’はありません
元本の安全な預貯金は‘インフレに弱い’など、金融商品は必ず何らかのリスクを抱えています。ですから‘安全な投資商品’は存在しません。だからこそ、それぞれ抱えるリスクの異なった商品を利用しての分散投資が大切なのです。なお個人年金は現在予定利率がかなり低く設定されているので個人的にはお勧め商品ではありません。
でも栗原さんの場合‘リスクはとりたくない’という言葉とは裏腹に、預貯金のほかに国債・公社債・外貨建てMMF・るいとうを利用して、比較的バランスの良い資産運用を行っていると思います。今後も今のスタンスで少しずつ運用の幅を広げていかれるといいでしょう。