夫が海外で働いています。 年金や住居、保険など、将来の対策を教えてください。


鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール
 
  • 自営業者の妻は、自分の年金を充実させましょう。
  • 住宅購入はライフプランに合わせて考えましょう。
  • 世帯収入を増やすことも検討しましょう。

猫田 薫さん(仮名 41歳 パート)のご相談

夫が海外で仕事をしているため、10年以上国民年金保険料が全額免除されていますが、老後資金のため月に5万円、その他にも最低月5万円は貯蓄しています。 ただ、それなら国民年金保険料を払うべきなのか、それとも個人年金か何か別の方法にするべきか悩んでいます。
また、住居も賃貸マンションで月14万円の家賃を払っています。「日本では所得が無い扱いだから、たぶんローンが通らない」というのもありますが、このまま賃貸を続けるか、今の年齢から中古でもマンションを買う必要があるのかわからないでいます。
今は主人がかなり頑張ってくれているおかげで大丈夫ですが、将来は大変不安です。保険類は高額ではありませんが人並みに加入しています。
こういう世帯の年金、住居、保険など将来の対策方法を教えてください。

猫田 薫さん(仮名 41歳 パート)のプロフィール

世帯年収(税引き後) : 540万円
家族構成 : 夫 43歳 自営業(海外で就業)
妻 41歳 パート
子 14歳 学生
住居 : 賃貸
国民年金 : 申請にて全額免除中
ローン : 自動車ローン 月額5万円(平成22年9月まで)

※以下「ボーナス時」は年間合計額

【収入(税引き後手取り】
毎月 ボーナス時
350,000
100,000
収入合計 450,000 0
【支出〈固定費)】
毎月 ボーナス時
住居維持費 106,300
車維持費 30,000 59,500
車ローン 55,000
保険料 34,100 44,000
第1子関連費 50,000
小遣い 100,000
固定費合計 285,400 103,500
【支出(やりくり)】
食費 20,000
水道・光熱費 20,000
通信費 15,000
交際費
教養娯楽費 6,000
その他
やりくり費合計 61,000 0
支出合計 346,400 103,500
【貯蓄】
商品名 毎月貯蓄額 ボーナス時
103,600 -103,500
貯蓄額合計 103,600 -103,500
【貯蓄残高】
商品名 合計
たんす預金 1,200,000
預金 1,150,000
金融資産合計 2,350,000

国民年金の保険料を支払う方が効率的。
働いて収入を増やすことを検討しましょう。

1.受給できる年金は何かを確認してみましょう。

少子高齢化が進み、支給される年金額は親の世代よりずっと少ない現役世代。年金制度に対する不信感を持つ人も少なくありません。しかし、国民年金の是非を考える前に、もっと重要なことをお話しておきましょう。

国民年金には「老齢基礎年金」、「遺族基礎年金」、「障害年金」があります。薫さんが今後も障害状態にはならなかったとして、その場合受給できる年金は、「ご自身の老齢年金」ですが、ではご主人に万が一のことがあった場合はどうでしょう。

「遺族基礎年金」を受給できるのは、「子のある妻、もしくは子」に限られますが、この場合の「子」というのは18歳未満の子です。したがって、今ご主人に万が一のことがあっても、薫さんが遺族基礎年金を受給できるのは数年間だけです。
「遺族厚生年金」についてはお子様が18歳を過ぎても受給できますが、猫田さんのご主人は厚生年金加入期間が短いため、遺族厚生年金はおそらく年額で20万円には満たないと思われます。
ちなみにもし離婚をした場合、年金分割できるのは「婚姻中に加入していた夫の厚生年金の一部」についてですので、やはり薫さんが経済的に非常に厳しい立場となってしまいます。

このように、仕事を持たない妻は自分の年金を少しでも充実させておくことが大切ですが、自営業者の妻はなおさらだということを認識しましょう。

2.費用対効果で比較してみましょう

では国民年金保険料を払うことについて、預貯金や個人年金と比較しながら見ていきましょう。
まず、国民年金の最大のメリットは終身年金であることです。
現在は「長生きもリスク」と言われるように、贅沢でないにしろ、生きている間はお金の心配をしなくて済むよう準備しておく必要があります。「何歳まで生きるかわからない」ことがリスクですから、終身にわたり支給される国民年金は、大きな安心です。
ちょっと試算をしてみましょう。

国民年金保険料を支払う場合

薫さんの年金加入歴

国民年金 厚生年金 船員 加入合計
1号 3号 合計
126 72 198 40 238

(H22.6現在)
※国民年金126ヶ月全額免除

<条件>(平成22年6月現在)
・薫さん生年月日:昭和43年7月4日
・老齢基礎年金満額は平成22年度(792,100円)で計算
・国民年金保険料:
平成29年3月まで … 月額15,800円で計算(現在から平成29年3月までの段階的引上げ額平均)
平成29年4月以降 … 月額16,900円で計算
追納分の保険料 … 月額14,600円で計算(過去10年の保険料平均)
・保険料全額免除期間の年金額:
平成21年3月分まで … 満額の3分の1
平成21年4月分以降 … 満額の2分の1
・全額免除期間:126ヶ月
平成21年3月まで … 111ヶ月
平成21年4月以降 … 15ヶ月
・今後60歳までの加入可能期間:216ヶ月
・加入可能期間:40年(480ヶ月)

上記の条件で、以下3つのケースで計算しながら比較していきます。
(1)今後も全額免除を継続
(2)今後は保険料を納付
(3)過去10年分を追納

※過去に遡っての追納は10年を限度に認められます

試算すると、これまでの納付分に加えて年金額増額は以下のようになります。
(1) 今後も全額免除を継続した場合の年金額(年額増額)
792,100円×1/2×216ヶ月÷480ヶ月≒178,200円
(2) 今後保険料を納付した場合の年金額(年額増額)
792,100円×216ヶ月÷480ヶ月≒356,400円
(3) 過去10年分を追納した場合の年金額(年額増額)
792,100円×120ヶ月÷480ヶ月≒198,000円
ちなみにこの時、払いこみ保険料は以下のとおりです。
(1) 全額免除のため0円
(2) 15,800円× 81ヶ月=1,279,800円
16,900円×135ヶ月=2,281,500円
(3) 14,600円×120ヶ月=1,752,000円

今後保険料を納付する場合、約356万円の保険料を納付していくことで、全額免除を継続する場合と比べて年額178,200円の増額(合計356,400円増額)、さらに過去10年分を遡って追納した場合、約531万円の保険料を納付することで、年額376,200円の増額(合計554,400円増額)が見込まれます
かなりの保険料を納付すると驚かれるかもしれませんが、薫さんが女性の平均寿命まで生きたとすると、65歳時から86歳まで国民年金を受給する期間は21年となりますので、累計するとこれほどの額(約1,163万円)をもらえることになるのです。

(単位:万円)

保険料払込額 増額分(年額) 65歳から86歳 までの増額累計
全額免除継続 0 17.8 373.8
今後納付 356.1 35.6 747.6
追納 175.2 19.8 415.8
追納+今後納付 531.3 55.4 1,163.4

またこの場合、国民年金保険料は16,900円ですから、貯蓄に回している10万円のうち残りの83,100円は別の運用が可能となります。これを仮に貯蓄に回したとすると、216ヶ月で約1,800万円になります。

預貯金のまま継続した場合

現在、毎月10万円ほど貯蓄をしていらっしゃいます。国民年金保険料を払わずに60歳まで継続したとすると、216ヶ月分で2,160万円となります。

個人年金に加入した場合

<条件>

  • 65歳からの受給とする(国民年金保険受給年齢と合わせました)
  • 終身年金(猫田さんご夫婦が死亡保障のため加入しているA社のもの)
  • 保険料払込期間:23年

この場合の保険金額(21年分)と保険料(23年分の払込総額)は以下のとおりです。

保険金額 … 年48万円(合計1,008万円)
保険料払込総額 … 年34,600円(合計約955万円)

国民年金より受給額が少ないにもかかわらず、払いこみ保険料は倍近くとなることがわかります。また、10万円の貯蓄のうち残りの65,400円を貯蓄したとすると、216ヶ月で約1,413万円となります。

国民年金+個人年金

それでは上記国民年金保険料を支払い、残りの83,100円は貯金ではなく、個人年金にも加入した場合をみてみましょう。ただしこの場合の個人年金は60歳支給開始とします。(猫田さんの世帯では厚生年金が少ないので、その分をカバーするため)

この場合の保険金額(26年分)と保険料(18年分の払込総額)は以下のとおりです。
保険金額 … 年48万円(合計1,248万円)
保険料払込総額 … 年52,240円(合計約1,129万円)

他の例と同様、貯蓄のうち残りの30,860円を貯蓄したとすると、216ヶ月で約667万円となります。

これらの試算を整理してみましょう。

(単位:万円)

年金受給額 貯蓄額 合計額
国民年金 1,164 1,800 2,964
預貯金 2,160 2,160
個人年金 1,008 1,413 2,421
国民年金+個人年金 2,412 667 3,079

国民年金は社会保険ですが、社会保険は国が管理監督をしている事業ですので、民間企業の保険よりは割安なのです。つまり、まずは社会保険をしっかり利用し、それでまかないきれない分を個人年金保険や貯蓄で補う、と考えるとよいでしょう。

注意点としては、
(1)今回の試算に使用した金額などはおおよその数字であり、年金計算はケースバイケースです。特に追納や納付をした場合は、年金額は計算し直しとなりますので、現状の「ねんきん定期便」に記載されている受給見込み額に単純に増額されるわけではないことをご了承ください。また追納する場合は申請が必要ですので、いずれにしても一度最寄りの年金事務所(旧社会保険事務所)へご相談に行ってください。
(2)追納する場合も、一度に10年分となるとかなりの負担ですし、それで貯蓄を使い果たしてしまうのは危険です。生活予備費を残すなど、家計とのバランスを考えながら何回かに分けて追納するという方法もあります。
(3)猫田さんのご主人は、二ヶ国間協定により年金保険料の支払いが免除となっていますが、加入している相手国によって、扱い(外国人でも加入期間に応じ、相手国からも年金支給があるのか?もしくは脱退一時金などがあるのか?など)が違いますので、こちらについても年金事務所で確認しておくとよいでしょう。

3.自宅購入は、まずライフスタイルを検討してから

住居に関しては、中古物件の購入を迷っておられるとのことですが、2つの観点から検討してみましょう。

将来どのようなライフスタイルを望んでいるか

自宅を所有するか賃貸かというのは、どちらが良い悪いではなく、まさにご家族の価値観が優先です。まず気持ちの問題はさておいて、一般的なメリット・デメリットを比較してみましょう。

  メリット デメリット
賃貸 ・入居前の初期費用が少なくてすむ
・気軽に転居できる
・メンテナンスを家主がしてくれる
・比較的便利なエリアで物件を選べる
・家賃は払い捨て
・一生涯家賃を払い続けなければならない
・勝手に内装をいじれない
購入 ・不動産という財産が手に入る
・ローンの支払いは一定期間で終了
・内装も好きなようにいじれる
・頭金など、初期費用がかかる
・固定資産税などのランニングコストもかかる
・買い替えが困難
・自分でメンテナンスする必要がある。
・予算の都合で、物件探しは多少不便なエリアになる場合も

購入か賃貸かは費用面だけでなく、手間、暮らし方によっても向き・不向きがあります。たとえば猫田さんご夫婦が将来どこを本拠にしていきたいのかによっても違いますし、都会暮らしか田舎暮らしかによっても物件価格は大きく違いますので、選択肢も変わるはずです。またご主人が同居か別居かによって物件の大きさが違うかもしれません。
まずはご夫婦で、現在そして将来どのような生活を送りたいのかを明確にすることが先決でしょう。

次に資金面から見てみましょう。
現在年間100万円超のペースで貯蓄をしているのは立派です。しかし現状の金融資産合計は235万円。ご自身でも指摘されているように、現状では住宅ローンは使えないと思われますので現金で購入することを考えると、それだけの資金のあてはありますでしょうか?親御さんからの贈与があれば可能性はあるかもしれませんが、現在貯金している10万円から住居維持費も捻出していかなければなりません。そうすると、当然先ほどの年金試算も違ってきます。また貯蓄分を年金保険料と住居維持費にまわすことができても、それ以外のために残す余裕はそれほど多くは見込めません。お子様の今後の教育資金も大きな負担となってきます。したがって資金面からいえば、現状で住宅を購入することは無理があると考えます。

4.妻が収入を得て家計を改善することも視野に入れて

猫田家の収支を見ると、食費を含めたやりくり費が驚くほど少なく、しっかり管理されている反面、固定費が多いことがわかります。
たとえば、お住まいのエリアがわかりませんので一概には言えませんが、家賃が10万円超というのは、このコーナーでご相談される方たちの中でも比較的大きいほうだと思います。
また、これもエリアによって必需品なのかもしれませんが、車にかかる費用が大きいですね。自動車ローンが来年終わったとしても維持費はかかります。もし交通の利便性の良いエリアにお住いであれば、思い切って車を処分し、その分教育費や住宅資金準備に回すという考え方もあります。

保険に関しては、ご主人の死亡保障が現状で900万円(来年からは1,700万円)とのことで、遺族年金が少ないので本来であればもう少し欲しいところですが、現状の貯金可能額を考慮すると、保険料アップも簡単ではないでしょう。

可能であれば、薫さんの収入をもっとアップさせるという方法をお勧めします。
お子様も高校生になれば、お母様が働いていても大丈夫でしょう。また現在は約100万円程度の収入ですが、ご主人が国内で所得が無い状態(非課税扱い)ですから「扶養の範囲内」を気にする必要はありません。また所得控除といって、以下のものは所得から差し引くことができます(ただし保険料は自分で契約者となって支払っていることが前提です)。

  • 基礎控除(38万円)
  • 給与所得控除(65万円)
  • 社会保険料(国民年金保険料や健康保険料の払込額全額)
  • 生命保険料控除、個人年金保険料控除(それぞれ上限5万円まで)
  • 医療費控除

自分名義の生命保険などはご主人が契約者となっても、もともと非課税扱いですから何の控除もありませんが、薫さんが契約者になるなどの工夫で、所得控除の利用が可能になります。上記の控除分の合計までの所得であれば、所得控除後の所得はゼロとなり、所得税はかかりません。
ただし、所得税がかかったとしても200万円くらいの所得を得ようとするほうが、世帯収入としては大きく改善しますし、薫さん自身の経済的な自信にもつながります

海外と国内での二重生活というイレギュラーなケースではありますが、これを機に、一度ご夫婦で将来の展望をしっかりと話し合い、それに向けた対応に着手していってください。