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合併を機に早期退職に応募しようと思っています。
今後の生活の見通しについて教えて下さい。
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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石原 聡さん(仮名 49歳 会社員)のご相談
勤め先の会社が別の会社と合併することになります。色々と考えましたが、今後の自分のキャリアプランのために心機一転を図り、早期退職制度に応募する決意をしました。退職時期は約半年後になります。
現在は家賃補助を受けての賃貸暮らしなので、新築マンションの購入も予定しています。また、退職後1年間は人材バンクの登録料を会社に負担してもらえるので、この制度を利用して転職先を探していくつもりでいます。
ただし、現在の収入と同じ水準を望むのは難しいと思いますので、今後の生活の見通しがどうなるのか不安を感じています。まだ未確定な要素が多くて計画を立てにくいかもしれませんが、アドバイスをお願いいたします。
石原 聡さん(仮名 49歳 会社員)のプロフィール
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転職後の手取り年収は540万円が死守ライン。
無理そうなら生活水準の引き下げを。
無理そうなら生活水準の引き下げを。
キャッシュフロー表を作成しましょう
石原様、ご相談ありがとうございます。このたびは新天地を目指すご決断をされたとのこと。50歳といえばまだまだこれからです。石原様の今後の有意義なキャリア形成を心よりお祈りしております。
一方、転職やマンション購入などライフイベント上の重大な転換がいきなり重なり、ご心配も多いことでしょう。今がこれから先の生活設計を見直す重要なタイミングですね。そのためのアプローチはいくつか考えられますが、最もシンプルに、以下のような手順で考えられてはいかがでしょうか。
手順1: 今後の暮らし方をイメージして数値化しましょう
さて、石原様の家計において現時点で明らかなのは次の3点です。
- 手取り収入の約4分の1を貯蓄に回しており、比較的堅実な家計である
- 現在の収支水準を維持できれば、概ね将来的にも大きな不安はないと思われる
- 退職金を受け取ると、マンションの自己資金を差し引いても約3,600万円の金融資産が手元に残る
しかし、今後の収入の予想を今は立てられない中、転職により家計がどのような影響を受けるのか、ある程度のモノサシを持っておくことが賢明です。
どうせ収入も支出も確定することができませんので、まずは望まれる暮らし方または現状維持の暮らし方を基に、今後の支出見込み額から見積もっていきます。
- 日常生活やレジャー等の水準は落とさない
- 教育費は進学コースにより変わるので、ひとまず中学から私立とする
- 住宅ローンの適用金利は5年後に見直されるので、ひとまず4%程度上昇とする
- その他、年金見込み額や今後の物価上昇は任意の設定とする
以上より、将来の収支を予測したものが以下のキャッシュフロー表(奥さま90歳まで)です。なお、会社都合による退職の場合に見込まれる雇用保険の「求職者給付の基本手当」を概算額にて330日分見込み、株式等の将来価値は便宜上増減しないものとしています。
ここではまだ、今後の給与収入額は見込んでいません。つまり、万一収入のない状態が続くと、潤沢と思えた金融資産が僅か5年後には枯渇してしまう可能性のあることがわかります。
想定はしていないと思いますが、家計にメイン収入(就労収入)をもたらせるよう、まだまだ石原さんには頑張っていただく必要があるということですね。
手順2: 貯蓄の枯渇を避けるための最低限の収入目標を設定しましょう
次に、見込んだ期間を通して貯蓄残高がマイナスにならないために、いくらの収入が必要なのかを考えてみます。
仮に65歳まで働かないでいると、65歳時点の貯蓄残高予測が▲7,000万円強ですから、これをぴったりカバーするためには15年間で平均約467万円(7,000万円÷15年間)の収入が必要です。
しかし、65歳以後にもいくつか大きな出費が見込まれていることも考慮すると、少なくとも約540万円の収入による補てんが求められます。
ちなみにこの金額は税金や社会保険料を引いた後の手取り収入ですので、手取り割合を現状程度の80%と仮定すれば、額面年収ではおよそ675万円程度となります。
現在より転職後の収入が下がる可能性があるとしても、7割減までを死守したいところです。
手順3: 懸念されるリスクを踏まえた収支改善策の検討も必要
さらに、石原さんの場合は住宅ローンの金利上昇による返済額のアップには憂慮しておきたいところです。
石原さんは万一のために手持ち資金の一部を残しつつも、返済期間はなるべく短く、返済方法も元金均等返済方式を選ぶなど、ローンの組み方も堅実です。しかし、財形住宅融資の適用金利は、5年間は固定金利ですがその後は5年ごとに見直されるため、将来の金利変動リスクを負っています。
そこで、金利情勢などを踏まえながら将来的に繰り上げ返済の実行をお勧めしたいと思います。
下記図表は、5年後に10年間の期間短縮型の繰り上げ返済を行う場合の予測です。
資金的にはもう少し繰り入れ返済資金を充てることも可能ですが、住宅ローン控除を目いっぱい受けるために、ひとまずは10年短縮(総返済期間10年)としてみました。
実際には、5年後の金利や貯蓄残高を踏まえて考えていただくのが良いでしょう。
その他に、早めにご検討いただきたいこと
当面は仕事の残務処理や引継ぎ等で大変かと思われます。ですが、できれば転職先として目指される業種や会社、または仕事内容等についてのイメージを、少しずつでも明確にしていただきたいと思います。石原さんの場合、雇用保険の手当は退職後ほどなく受け取れるはずですので、早々に転職先を見つける必要性はありません。むしろ、必要なスキルの整理や習得にじっくりと時間を費やしてください。
そして、今回試算した収入ラインを見込むのが難しく思われる状況になったら、次段階としては支出の削減を検討する必要があります。
一般的に支出削減として生命保険料の引き下げ(保険の減額や解約)が真っ先に思い浮かびますが、このような見直しは適切でない場合も多々あります。
むしろ家計に長く大きく影響を及ぼすのは家庭の消費性向を映す変動費部分です。すなわち、外食やファッション、余暇など“潤いある生活の質”の水準を下げる努力を検討しなくてはなりません。
その際には、奥さまやお子さまも含め家族全員で協力し合わねば、思うような結果は得られないでしょう。全てをお一人で抱えるのではなく、時に金銭的な痛みも協力しあうことで、経済的な豊かさ以上の価値を共有できることもあります。個人のキャリアプランは、家族全員が共通して望むライフプランあってのものです。普段とは雰囲気を変えて、外食時に定期的に家族会議を開いてみるのも良いかもしれませんね。