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義父の家を二世帯住宅に建て替える予定です。
注意すべき点は何ですか?
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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足立 結子さん(仮名 38歳)のご相談
夫の両親の家を二世帯住宅に建て替えて同居することになりました。現在、間取り等について話し合っており、多少費用が高くても各世帯の居住スペースが独立した形態にする方向に落ち着きそうです。
二世帯住宅建築に伴って考えておくべき点は他にありますでしょうか。
足立 結子さん(仮名 38歳)のプロフィール
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二世帯住宅を建てる際の準備では、
通常は考えない先まで想定する必要があります
通常は考えない先まで想定する必要があります
遠い先に起こり得ることから順に考えていくと整理がしやすくなります
足立様、ご相談ありがとうございます。
二世帯住宅は親子両世代が様々な面で助け合える暮らし方のひとつです。
老朽化した親の住宅のリフォームや子の住居費負担等の資金面だけでなく、介護の問題や子育ての問題など生活面でもお互いを補完できる利点は大きいですね。
反面、二世帯住宅はクリアしておくべき課題も少なくなく、バリエーションが多様なのも悩みどころで、通常の住宅よりも長いスパンで検討する必要があります。各々に長所も短所もあり、簡単に「自分達に適した選択をしましょう」と言われても、なかなか容易なことではないですね。
そこで、いまいまではなく、遠い先に想定される事態から優先して考え、そこから順に遡って整理していくのが良いと思われます。
親亡き後の住宅をどう利用するか
最も遠い先の問題といえば足立様ご夫婦の老後ですが、老後の暮らしにも影響し、それ以前に確実に訪れるのが二世帯で住まなくなるという事態です。
親世帯が高齢者施設等に転居または亡くなると、広い家だけが残りますが、二世帯住宅は一般的な住宅より居室数が多く間取りも独特なので、売却するにも貸すにも相手を選びます。通常の住宅より高い建築費を払うのですから、更地にして売却する以外に手はないとならぬよう、将来の選択肢を少しでも多く残しておきたいところです。
したがって、まずは“住居形態”の選択がポイントとなりますが、資金的に問題がないのであれば、玄関やリビング、バス等の一部を共有する半同居タイプではなく、やはり各住環境が完全に分離したタイプ(建物内部で行き来できないもの)を選んでおくのが無難です。
将来的にお子様や義姉家族との二世帯暮らしを想定するにしても、プライバシーの確保問題はおそらく今よりも深刻でしょうし、他人に貸すのであればなおさらのことです。
また、完全分離型であれ各住居部分の切り売りは難しく、売却するにしても一棟売りが基本となりますので、売りやすい構造にしておく必要があります。
各住居が横並びの住宅(いわゆるテラスハウス型)を建てられる敷地がなければ、必然的に上下階で分離する構造とならざるを得ません。その際にトラブルの原因となるのが“音”なので、バス・トイレ等の水回りや寝室の配置を上下階で揃えておく等の工夫は必須です。ただし、完全分離型の二世帯住宅は各世帯が普通の生活を送ることを前提とします。
片親となり、しかも要介護期ともなると親世帯の住居部分の大半は使われないデッドスペースとなりますので、子世帯の住居部分で暮らせるよう予め居室数を多めに確保しておくことも一考です。
相続対策をどうするか
親の暮らしていた住居が空いてしまう、一歩手前に訪れるのが相続の問題です。
相続というと税金の対策だけをイメージしがちですが、二世帯住宅を建てるということは、原則として、将来はその子世帯に土地や建物の所有権を集中させるのが前提となります。
むしろ円滑な承継のためにも、以下のような点に気を付けましょう。
・相続時に他の相続人(義姉等)と揉めないようにしておく
・子の世代以後の承継にも禍根を残さないようにする
・相続税負担を軽減するための特例を最大限活用できるようにする
さて、相続において重要なポイントは名義関係です。足立様の場合、順当に考えればまず義父の一次相続があり、次いで義母の二次相続が訪れることになります。土地の名義は義父ですので、できれば一次相続時にその全てをご主人が単独で取得したいところです。
いったん義母名義にしても構いませんが、これは二次相続に問題を先送りにするだけです。この時、義姉との間に軋轢が生じぬよう、義父には遺言を遺しておいてもらうとともに、義姉に公平な遺産分けがおこなわれるための準備が必要となります。
他に財産があれば問題はありませんが、財産がない場合でも生命保険を使うことも考えられます。仮に新たに加入するのが難しくても、既加入保険の一部受取人を義姉に変更する手もあります。次の代(孫世代)に面倒を残さないためにも、土地の名義を義姉と分けるのはできる限り避けるのが無難でしょう。
次に、建築費は双方で負担されるとのことですので、贈与税の課税を避けるためにも、建物の名義は出資額に応じた割合で分けることになります(床面積の割合ではありません)。
その際の“登記”の方法についても、“区分所有”か“共有”かの選択を迫られます。
ここで、“区分所有”とは分譲マンションに似たイメージで、各々の居住部分を別の建物として登記する方法です。建物の所有者を明確にできる上、建物に係る不動産取得税や固定資産税等も区分持分ごとの計算になるので、広い住宅の場合は税の軽減効果があります。
対する“共有”の登記とは1個の建物を割合に応じ共所有する方法です。“区分所有”の場合のメリットは薄くなりますが、建物は1つなので登記の際の手続きや費用が軽く済みます。
しかし、将来の相続対策を念頭におく場合、無難なのは後者の“共有”です。何故なら、相続税を算出する上での軽減措置(宅地の評価額を8割減に抑えられる“小規模宅地の評価減の特例“)を最大限活用できるためです。仮に建物を”区分所有“にしてしまうと、この特例の要件である「同居」の条件を満たさず、かつマイホームを所有する子が宅地を取得することになるので、軽減措置が適用されなくなってしまいます(一次相続時に土地の全てを義母が取得したとしても、適用を受けられるのは一部分だけです)。
相続税は必ずかかるわけではありませんが、不安要素は軽くしておきたいものですね。
円満に暮らしていくための工夫も
これから一緒に暮らしていくという時に、なかなか切り出しにくい話ばかりかと思います。
ですが、親が亡くなる時にこそ、二世帯住宅にしたばかりにという問題が持ち上がります。
どのような住宅を建てるのかを今決めねばならない訳ですし、ただでさえ話しにくい親の相続について向き合う良い機会でもあります。ご主人とよくご相談されてください。
最後に、親子とはいえ生活習慣も価値観も基本的に異なる別の世帯です。長きに渡って円満に暮らすためにも居住空間を分けるだけでなく、お金の負担も明確に分けておくと良いでしょう。取得時の資金負担だけでなく、日々の光熱費等も相応分で分担できるようメーターを個別に設置しておくのもひとつの方法です。