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将来、父の認知症が不安です。
介護しながらでも貯蓄は可能でしょうか?
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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吉田誠さん(仮名 33歳 契約社員)のご相談
認知症の症状などについて最近知りました。父は今のところ問題ありませんが、将来的には不安です。もし認知症になった場合、養いながらの生活でも、現在の年収で生活・貯蓄も可能でしょうか?
・父に私たち以外の身寄りはおりません。
・子供は大学まで卒業させたいと思っていますが、あくまで希望です。
ご相談者のプロフィール
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認知症になると決めつけず、準備だけはしておきましょう。
有料老人ホームに入居すると家計の破たんも予想されます。
1.有料老人ホームに入居すると、家計の破たんが予想されます。
こんにちは、吉田様。最近、認知症の高齢者による事故などがあり、マスコミなどで取り上げられることが増えています。報道に接すると、「認知症になったらどうするのか?」「有料老人ホームに入る費用はどうすればいいのか?」と心配になりますね。吉田様は、現在はお父様が認知症だというわけではありませんが、将来が心配とのこと。実際、どれくらいの費用を考えておけばいいのでしょうか。
「何歳から認知症の症状が出るか?」「介護にどれくらいの費用がかかるか?」「何歳まで生きるか?」など、その時になってみないとわからないことばかりです。それを承知で、モデルケースで将来の家計の状況を推測してみましょう。条件は以下のとおりと仮定します。
<前提条件>
お父様は80歳で認知症となり、85歳まで生きるものとします。
お子様は高校までは公立で、大学は私立文系・自宅通学とします。
住居費は、今の家賃が生涯続くものとします。
自動車は15年おきに200万円で購入します。
お父様の施設入居、お子様の卒業の時点で、生活費を2割減とします。
お父様が認知症となった時点で中レベルの有料老人ホームに入居し、その後の5年間をそこで暮らします。入居一時金が800万円、毎月の入居費用は20万円とします。その結果、将来の家計の状況は以下のグラフのように推計されました。
貯蓄残高は、大きく増減を繰り返します。当面は支出が多くありませんので、貯蓄が増えていきます。しかし、お父様が有料老人ホームに入居し、そしてご長男が大学に進学すると一挙に支出が増え、貯蓄は急速に減っていきます。48歳の時点で貯蓄残高はマイナスになってしまいます。家計が破たんするという状況です。
介護費用と教育費が終わると、収支は改善しますが、定年を迎えるとまた貯蓄が減少し、老後は厳しい生活となることが予想されます。このようにならないために、今のうちから対策を立てておく必要があります。
2.特別養護老人ホームに入居できれば、家計の破たんを回避できそうです。
有料老人ホームの費用が高い、という問題もありますが、「お父様の介護費用がかかる時期」と「お子様の教育費がかかる時期」が重なっていることが一番の問題です。時期を分散できれば、貯蓄が底をついてしまう事態は避けられます。しかし、こればかりは調整できるものではありません。
家計が破たんしないためには、その前の段階でできる限り貯蓄を増やしておくことが大切です。順調にいけば、40代前半に1,300万円ぐらいの貯蓄残高になる計算ですが、その後に支出が増えることを考えると、さらに貯蓄を増やしておきたいものです。
次に、特別養護老人ホームに入所した場合のケースを考えます。特別養護老人ホームであれば、有料老人ホームに比べて安上がりです。入居一時金はなく、毎月の費用は高いものであっても12万円程度ですみます。
支出が増える時期の貯蓄の減り方が緩やかになり、一定の貯蓄残高を維持することができます。家計の破たんが避けられるのはもちろんですが、この程度の貯蓄があれば、多少の状況変化があっても心配ありません。ただ、現状では特別養護老人ホームに入所するのは簡単なことではありません。希望してもなかなか入所できないことが少なくありません。
先のシミュレーションでは、有料老人ホームに入居すると、貯蓄がマイナスになってしまう結果となりましたが、有料老人ホームは〝ピンキリ〟です。入居費用が安い施設もありますので、けっして有料老人ホームへの入居が無理だというわけではありません。
3.認知症の症状は、その人によってさまざまです。
ここで今一度、認知症について考えてみましょう。将来のことを考えると、「親が認知症になったらどうするのだ」と不安になってしまいます。しかし、「認知症」と一言で言っても、その症状や程度はさまざまで、人によって異なります。ですから、一概に「親が認知症になったら、1ヶ月に○万円の費用がかかる」と決まっているわけではありません。認知症になって、老人ホームなどに入所することもあれば、そのまま家族とともに自宅で暮らすこともあります。
どうしても深刻なケースが報道されますので、「認知症になると家族の手に負えない」と思いがちです。しかし、認知症でもそれほど家族の負担にならない場合もあります。また、家族で協力してなんとか対応しているケースもあります。ご自宅で過ごすことができれば、介護保険のサービスを利用することで、経済的には大きな負担になりません。もちろん、精神的、肉体的な負担は小さくありませんので、ご家族での協力が必要となります。
また、どこまでが「加齢に伴う物忘れ」で、どこからが「認知症」と言えるのかも、はっきりと区別できるものではありません。ある日突然に「認知症にかかる」わけではなく、少しずつ症状が出てくるようになります。認知症と思われる症状に気がついたら病院で検査を受ける、特別養護老人ホームへの申込みをしておく、などの対策を早めに立てておけば、効果があるでしょう。
もちろん、認知症にならないことも多く、介護の必要がない場合も少なくありません。今からやみくもに心配する必要はありません。今できることは、家計のムダを見直し、少しでも多くの貯蓄を積み上げていくことです。