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父が亡くなり、相続について母と兄弟で話し合いました・・・。
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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林賢二さん(仮名 50歳 会社員)のご相談
先日父が亡くなり相続をどうするかという話し合いが、母と兄弟でありました。母が半分を相続し、残りを兄弟で分けると、母の手元には自宅しか残りません。いずれ母が亡くなったら、私たち兄弟が相続することになるので、すべて母親が相続しても構わないのですが、そうすると相続税が高くなるのでしょうか?3人ともわからず、困っています。
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お母様のこれから必要となる金額を考慮して、相続割合を決めましょう。
1.相続人の合意で、相続する財産や金額を決めます。
お父様の残された財産を、ご家族でどのように分けるか、つまりどう相続するかで悩んでおられるのですね。お父様の遺言書がないとのことで、遺族の話し合いで、誰が何を相続するかを決めることになります。
民法で定めた法定相続割合では、配偶者とお子様二人が相続人の場合は、配偶者が1/2、子どもが1/4ずつとなっています。ただし、遺族の合意があればこだわる必要はありません。
次に、相続税のことを考えます。相続があっても、ある程度の金額までは相続税はかかりません。その金額を「基礎控除額」といいます。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
今回の林様のご相続では相続人が3人なので、基礎控除額は4800万円となります。一方、配偶者が相続する場合は、自宅の土地については80%を減額した金額とすることができます。その結果、
自宅建物800万円+自宅土地640万円+金融資産4000万円=5440万円
5440万円-基礎控除額4800万円=640万円
となり、640万円が課税の対象となります。この金額を、法定相続割合で相続するものとして相続税の総額を計算し、それを実際に相続する割合で按分して負担します。
ただし、配偶者については、「法定相続割合」または「1億6000万円」までのどちらか少ない金額までは、相続税が非課税となる制度があります。このため、法定相続割合で分けた場合はもちろん、配偶者が多く相続したとしても、その金額が1億6000万円までなら、配偶者には相続税がかからないことになります。林様の場合、お父様の財産をすべてお母様が相続されれば、ご遺族での相続税の支払いはなくなります
もっとも、この時点では相続税がかからなくても、いずれお母様からの相続があります。この時に相続税がかかると思われますので、必ずしも〝お得になる〟というわけではありません。その時点での相続税額は、お母様の財産額によりますので一概には言えませんが、ご自宅の土地が本来の評価額となる上、基礎控除額が小さくなる(相続人が2人)ため、かえってトータルでの相続税額は大きくなる可能性もあります。
2.お母様のこれからの生活費、介護・医療費を確保することが大切です。
税金の支払い額の面から考えると、税理士に詳細に計算してもらえば、次の相続も含めて有利な金額が求められるかもしれません。しかし、それはいくつかの前提を置いての話ですので、思惑どおりになるとは限りません。
それよりは、今後のお母様の生活資金が足りるかを考慮して相続割合を決める方が大切です。お母様はご自宅を相続される予定ですが、それだけだと、今後に不安があるのではないでしょうか?
お父様の遺族厚生年金を受給しても、それだけで生活費を賄えなければ、貯蓄を取り崩していくことになります。さらに、有料老人ホームヘの入居費など、介護の費用も必要です。資金的に余裕があれば、選択肢が広がり、ご希望に沿う施設を選ぶことができます。もちろん、医療に対する備えも確保しておきたいところです。
お母様がこれから有料老人ホームに入居されるとして、月額20万円の費用がかかるとします。遺族厚生年金も含めた年金の受給額が月15万円であれば、毎月5万円、1年間で60万円が不足することになります。90歳まで生きるとすると、480万円が必要です。それに、有料老人ホームの入居一時金として余裕を持って600万円、医療費などの予備費300万円を確保すると、1380万円の預貯金が必要となります。
金融資産のうち、1400万円程度をお母様がご相続され、残りの2600万円をお兄様とお二人でご相続されてはいかがでしょうか。場合によっては、お母様が亡くなられた際の相続税が増える可能性はありますが、お母様のご安心を考えると、必要な出費とも考えることができます。
お母様の生活資金や介護・医療費が不足してからお子様が援助する、ということも可能ですが、できればお母様がご自身の貯蓄で賄えるようにしておいた方がよいでしょう。資金的な余裕がないと、お母様も不安を抱えた状態で今後のことを考えることになってしまいます。