ライフプランの変化に対応できる家計運営・貯蓄法は?


伊藤美和先生 プロフィール
貯蓄や投資を始めてしばらくすると、誰の頭にも思い浮かぶのが1000万円という夢の数字。「1000万円お金を貯める」ということはハードル走に似ています。100万円、300万円とハードルをクリアするごとに貯まるスピードはどんどん加速していきます。この「貯める・殖やす」のコーナーでは、皆さんがハードルを楽に越え、早くゴールにたどりつけるよう、お手伝いができればと思います。何でもお気軽にご相談ください。

竹下 知沙さん(仮名)のご相談

私はシステムエンジニア、夫は研究所勤務の共働き夫婦で、新婚6ヶ月です。数年先に出産したいと思っていますが(できれば2人)、2年後に車、5年後にマイホームの購入も考えています。毎月の収支は黒字ですが計画的に貯蓄できないのが悩み。これからは住宅取得に向けて年間400万円を貯蓄し、運用で殖やしていきたいです。出産後も共働きでと考えていますが、退職・転職する可能性もあります。どのようにライフプランを立てておけば変化に対応できますか?アドバイスをお願いいたします。

竹下 知沙さん(仮名)のプロフィール

29歳、会社員。同い年のご主人(研究所勤務)と賃貸マンションに2人暮らし。

・収支の状況

1.月間収入(手取り)
 夫 275,000 円  妻 275,000 円
2.月間支出費用
 住居費 77,000 円  食費 30,000 円
 外食費 15,000 円  水道・光熱費 20,000 円
 通信費 (携帯電話代を除く) 4,000 円  携帯電話代 16,000 円
 日用・雑貨費 15,000 円  医療費 3,000 円
 こづかい (夫・社食代5千円込) 35,000 円  こづかい (妻・社食代1万円込) 40,000 円
 教養・娯楽 38,000 円  被服費 10,000 円
 交際費 5,000 円  車費用 (駐車場代7000円込) 17,000 円
 貯蓄 71,000 円  生命保険 0 円
 損害保険 3,000 円  残(普通預金に入れたまま) 151,000 円
3.ボーナス収入(手取り)
 夫 75万円×年2回  妻 70万円×年2回
4.ボーナスからの支出
 貯蓄 213,000円×年2回  帰省費 50,000円×年2回

・現在の貯蓄等(合計536万円)

毎月の積立額 貯蓄総額 備考
 普通預金(銀行) —-  400万円 4口座合計
 定期預金(銀行) —-  100万円 —-
 一般財形 6万円  30万円 ボーナス時18万円
 持ち株(夫) 1000円  3万円 ボーナス時3000円
 持ち株(妻) 1万円  3万円 ボーナス時 3万円

※これまで投資経験はない。
※住宅購入のため資産運用にチャレンジしたい(運用期間は3~5年)。
※夏のボーナスは50~100万円を運用に回したいが、大損はイヤ。

・毎月・ボーナスの支出について

  • 被服費は毎月1万円が予算だが、超えることも多い。
  • 交際費は月5000円積み立ててその中から支出しているが、今年は冠婚葬祭が多いため年間40万円ほどかかる予定。
  • 不定期な支出や予算オーバーの支出は生活費の余ったお金から出している。
  • 電気代・電話代・アルコール代が高いのが悩み。
  • ほとんどの支出がクレジットカード払いなので、口座の残高と家計簿(excelで管理)の数字に開きがありわかりにくい。

・今後のライフプラン&支出予定

支出予定額 ライフプラン
2005年 30万円 ペット購入
2006年 300万円 車の買い替え
2007年 50万円 第1子出産
2008年 50万円 第2子出産
2009年 1500~2000万円 住宅の頭金

※毎年海外旅行に行きたい(予算50万円)。
※子供の進学は「公立中→公立高→国公立大学(大学は私立も検討)」を希望。
※動物が好きで一生飼い続けたい。
※住宅は4500万円ぐらいの一戸建てが欲しい(両親から資金援助500万円)。
※老後は夫婦2人とペットで暮らしたい。

ライフプランの優先順位を考え、ご主人の収入で基礎生活費をまかなって

ステップ1:結婚1年目は毎月の支出データを集めることに専念。カード払いは必要最小限に

結婚1年目は夏にエアコン・冬に暖房器具を買ったり、収納用品や生活雑貨をそろえたりで、毎月の支出は中々安定しません。ですからそうした出費は別会計にして、基本的な生活費がいくらかかっているのか、データ収集できていればまずはOKです。冷暖房費など季節によって変動する費目もあるので、年間を通した毎月の支出をざっくりとつかんでいきましょう。

竹下さんの家計運営の悩みは「ほとんどの支払いがクレジットカード払いなので、口座の残高とエクセルの家計簿の残高が合わず、わかりにくい」とのこと。支出を安定させ、節約を身につけることが必要な主婦1年生の家計管理の基本は「現金払い」。少なくなったお財布の中身を見ておかずのグレードを落とすというような経験をせずに何でもカードで払っていたのでは、中々節約しようという気持ちになれません。家計運営に慣れるまでは、カードの利用は必要最小限にとどめましょう。

ステップ2:ライフプランの優先順位をご主人様と相談しましょう

「庭付きの一戸建てで家庭菜園を楽しみ、子供達とペットを慈しみながら年1回は海外旅行に行きたい」というのが竹下さんの希望するライフプランのおおよそです。理想が1つでも多く現実になるように努力していかれるわけですが、中々思うようにいかないのが人生です。実現したい夢の優先順位を整理することが、マネープランを立てる第一歩です。

ステップ3:ご主人の収入で基礎的な生活費をカバーしていく

毎月の支出が落ち着いてきたら、予算を立てて支出し、見直していくというプロセスが家計管理の基本です。これから出産→退職→再就職と生活環境が変わる中で、家計運営をしていくには、ご主人の収入で基礎的な生活費をカバーしていくことが大切です。「基礎生活費+ライフプランの中で優先順位の高い夢の実現にかかる支出」は、ご主人の収入の中でまかなうようにして、奥様の収入は貯蓄や生活のゆとりを実現する支出にあてましょう。2人世帯の標準生計費の金額や支出割合を参考に予算プランを考えてみましょう。

チェック!2人世帯の標準生計費(2003年4月)

チェック!生活環境の変化に対応するための家計運営のコツ

ステップ4:住宅取得のプランニング

4500万円の住宅を買うには諸経費(ローンの経費・税金・引越し・家具購入ほか)を含めて4700~4800万円必要になります。奥様が今後退職するかもしれないので、竹下家の借り入れ適正金額は2500~2800万円ほど。またローンを組む時には、すぐ引き出せる預金(病気やケガに備えて/手取り月収の半年~1年分ほど)を残しておく必要もあります。

以上を考えると、頭金を用意するには、奥様の手取り収入をすべて貯めても3~4年かかる計算です(ご両親からの援助500万円を考慮)。「出産は住宅の頭金を貯めてから」or「住宅の希望価格を下げる」などライフプランを見直す必要があります。「毎年海外旅行に行く」「車を買う」という夢を実現していくと、出産は更に先延ばしする必要もありそうです。ステップ2(ライフプランの優先順位を考える)の重要性を改めてご理解いただけると思います。

また竹下さんの場合、住宅の取得は数年以内です。ですから住宅の頭金用のお金は運用するべきではありません。「運用に失敗したから一戸建ては諦めてマンションを買う」ということにでもなったら、一生後悔することになります。資金の運用は「余裕資金で」が鉄則です。

ステップ5:老後に備えて運用の勉強を

日銀の調査によると2000年に比べて貯蓄が増えているのは、20代と70代(~)の2つの年代のみです。また20代は有価証券で運用している割合の平均が約20.6%と、どの年代より高くなっています。バブルの崩壊以後に青春期を過ごし消費が堅実な上に、これからは年金がアテにならないという認識が強いため、貯蓄に励み運用にも積極的な世代だといえるのではないでしょうか。

そんな20代・竹下さんの「運用にチャレンジしてみたい」という姿勢には大賛成です。ただし住宅の頭金ではなく、老後用のお金を殖やすためにトライしてみましょう。まずは「勉強」と考え、50~100万円ではじめてみてはいかがでしょうか。ライフプランの優先順位を考えてから、金額・商品を検討していくといいでしょう。

チェック!<100万円で運用の練習にチャレンジ!>→運用例