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母親の介護費用を節約したいのですが、
どうすればよろしいでしょうか?
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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鈴木 忠行さん(仮名 55歳 会社員)のご相談
父親はすでに他界しており、要介護3の母親が老人保健施設に入所しています。自宅での介護は難しく、特別養護老人ホームの入居待ちという状況です。場合によっては、民間の有料老人ホームへの入居も考えなければいけません。できるだけ今の支出を抑えたいのが本音です。母の介護にかかる費用を節約することはできませんでしょうか?
鈴木 忠行さん(仮名 55歳 会社員)のプロフィール
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すでに住居及び生計が別々になっていますので、
世帯分離で施設の支払い負担を減らすことができます。
世帯分離で施設の支払い負担を減らすことができます。
1.世帯の所得によって、老人保健施設の食費・居住費は減額となります。
鈴木様、こんにちは。お子様が大学進学を控える高校生である上に、お母様には介護が必要で、今後が心配ですね。
お母様については、同居が難しいとなると、介護施設への入居を検討しなければいけません。できれば特別養護老人ホームへ入居できればよいのですが、大勢の人が入居待ちとなっているのが現状で、簡単に入れる状況ではありません。有料老人ホームならすぐに入居できる施設もありますが、入居一時金など多額の費用がかかります。
現在入所されている介護老人保健施設は、リハビリのための一時的な施設となっていますが、場合によっては入所が続いてしまう可能性もあります。介護のための費用は、1割負担ですが、食費・居住費は別にかかり、けっして小さなものではありません。そのため、介護保険サービスの利用者負担や介護老人保健施設の食費・居住費には、本人や世帯の収入によって減額される制度があります。
現状では世帯としては鈴木様ご自身に収入があるため、お母様は収入が少なくても減額されず、基準となる金額が適用されています。住民票の住所こそ同じですが、すでに実質的に住居も生計も別々となっている状況です。世帯分離によって、お母様を別世帯としてはいかがでしょうか。お母様の世帯収入が少なくなり、負担を減らすことができます。
2.世帯分離で、年間100万円も節約できる場合があります。
具体的に費用を比べてみましょう。お母様の年金収入は165万円ですが、その内、亡くなられたお父様の遺族厚生年金である90万円は非課税ですので、お母様の課税対象所得は75万円となります。現在は住民票を忠行様と同じ所に置いているので同一世帯とみなされ、世帯の所得には忠行様の収入が含まれます。そのため、介護保険サービスの利用者負担や老人保健施設の食費・居住費は減額されていません。また、介護保険料も標準の金額となっています。
- 介護保険サービスの利用料:月額27,000円
- 老人保健施設の食費・居住費:月額100,500円
- 介護保険料:月額4,140円
合計131,640円/月
ところが忠行様ご家族と世帯分離をして、お母様一人の世帯となると、どうなるでしょうか。お母様の世帯の所得は75万円のみとなります。すると、低所得者のための減額の制度が適用されます。
- 介護保険サービスの利用料:月額15,000円
- 老人保健施設の食費・居住費:月額36,300円
- 介護保険料:月額2,440円
合計53,740円/月
世帯としての所得が変わると、負担がかなり違ってきます。
さらに、後期高齢者医療保険の保険料なども安くなります。これらも含めると、1ヵ月の負担が8万円程度も違います。1年で100万円前後も節約できることになります。お母様の年金だけで、介護老人保険施設の費用は十分にまかなえますし、生計も成り立つでしょう。
3.世帯を分けるには、住居及び生計は別である必要があります。
介護費用などの負担を減らすために、住居と生計を共にしているにもかかわらず、世帯分離の申請をする人がいます。機械的に受理している市区町村もあるのが現状ですが、“虚偽の申請”として摘発されないとも限りません。実態を伴わない安易な利用はするべきではありません。
世帯の定義は「住居及び生計を共にしている」こととなっており、同じ住所でも二世帯住宅などのように生計が別であれば、世帯は異なります。“住居と生計”の観点から、“共にしている”状況でなければ、別の世帯と考えられます。
市区町村の窓口で「住民票異動届」を提出することで世帯分離の手続きはできます。