赤字になることはないのですが、お金が貯まりません。


赤字になることはないのですが、お金が貯まりません。

鈴木 暁子先生 (すずき あきこ) プロフィール
  • 生活費の管理とクレジットカード利用の管理をしっかりと
  • 大きなイベントの前後は保障の見直しもしましょう
  • 家計管理は家族全員で。楽しくできることが続けられるコツです

中野 早苗さん(仮名 42歳・会社員)のご相談

40代会社員の夫婦です。家計が赤字になることはないのですが、お金がなかなか貯まりません。家計管理のコツを教えてください。

中野 早苗さん(仮名 42歳・会社員)のプロフィール

家族構成 : 夫 (44歳 会社員)
長男 (13歳 中学1年生 公立)
次男 (11歳 小学5年生 公立)
住居 : 持家(マンション)。住宅ローン返済中(団信加入中)。
金融資産 : 預貯金 (約400万円)
財形年金 (約500万円)
持ち株 (約100万円)

生活費の引き出しは月に一度、カードを利用したら先に入金。
お金を使っている(減る)ことを意識する行動習慣を

1.まずは家計管理習慣から課題点を見つけましょう

中野さん、こんにちは。今回のご相談は家計管理のコツということですね。では中野さんの家計や普段の管理習慣をみながらチェックポイントを探していきましょう。

【中野家の収支状況】(単位:円)

【収入(税引き後手取り)】
毎月 ボーナス時、臨時
450,000 1,200,000
220,000 800,000
収入合計 670,000 2,000,000
【支出〈固定費)】
毎月 ボーナス時、臨時 割合(年)
住居維持費 30,000 160,000 5.2%
住宅ローン 120,000 14.3%
車維持費 5,000 170,000 2.3%
第一子関連費 30,000 600,000 9.6%
第二子関連費 50,000 600,000 12.0%
保険料 61,000 7.3%
小遣い 70,000 8.4%
固定費合計 366,000 1,530,000
【支出(やりくり)】
食費 90,000 10.8%
水道・光熱費 30,000 3.6%
通信費 20,000 2.4%
交際費 10,000 50,000 1.7%
教養娯楽費 10,000 600,000 7.2%
雑費 10,000 1.2%
やりくり費合計 170,000 650,000
支出合計 536,000 2,180,000
【貯蓄】
商品名 毎月貯蓄額 ボーナス時、臨時貯蓄額
夫財形年金 15,000
夫持株会 10,000
妻財形年金 15,000
定期預金 20,000
貯蓄額合計 60,000 0 7.2%
年間収支(使途不明) 708,000 7.1%

【中野家の貯蓄状況】

【貯蓄残高】
商品名 合計
夫財形年金 2,520,000
妻財形年金 2,520,000
夫持株会(時価) 1,680,000
普通預金 2,000,000
定期預金 1,000,000
個人向け国債 1,000,000
貯蓄残高合計 10,720,000

【中野家の家計習慣】

  • 生活費は(あると使ってしまいそうなので)少しずつ引き出している
  • カード利用できるものは普段の生活費(食費など)にもクレジットカード払いすることが多い
  • 光熱費、通信費、保険料は自動引き落とし

中野家は共稼ぎで世帯収入はそこそこあるので、普段の生活費が赤字になることはありません。また住宅ローンやクレジットカードの決済に困ることもないため、感覚的には問題ないように見えます。そのため逆に見直しのきっかけを逸してしまうのです。

現役で給与収入がある間は課題に気づかず、退職して給与収入がなくなると一気に家計が火を噴いてしまう。これは比較的世帯収入が高めの家計にありがちな傾向ですので、ぜひこれを機に家計管理を見直していただきたいと思います。

チェックポイント 1:生活費の管理が不十分

たくさんあると使ってしまいそうだからということで、生活費は都度引き出されています。ところがこれが逆に生活費の管理をしにくくする原因となります。収支表を記入してくださっていますが、おそらく実際とはズレがあると思われます。生活費の管理方法を見直しましょう。

チェックポイント 2:収入の割に貯蓄が少ない

貯蓄残高を見ると約1千万円あるのですが、このうち半分はご夫婦の財形年金ですので現在使える貯蓄ではありません。今使えるお金という意味では残りの400万円。また、貯蓄額も世帯収入の約7%。現在も塾代などがかなりかかっていますが、今後お子様の教育費もさらに増えていきます。共稼ぎ世帯であれば、貯蓄率15%を目標にしていただきたいです。

チェックポイント 3:クレジットカード利用の管理が不十分

中野さんはクレジットカードのマイルやポイントなどを集めるため、日常のスーパーの買い物などにも頻繁にクレジットカードを利用していらっしゃるとのこと。クレジットカード利用の場合、決済が翌月または翌々月となるため、使った時点で財布の現金が減りません。そのため利用金額をきちんと把握していないと、現金支出と併せての管理が難しくなります。

チェックポイント 4:使途不明金が多い

年間収支を見ると約70万円のプラス。つまりあと70万円は貯蓄が可能のはずですが、それができていません。おそらく半分くらいは意識して貯蓄しない普通預金に残ったままだと思いますが、半分は使途不明となっていると思います。

チェックポイント 5:自動引き落としの支出の見直しをしていない

家計に占める保険料の割合としては大きすぎることはないのですが、加入された時と状況が変わってきています。家族が増えたり、住宅購入するなどイベントがあった際は保障の見直しをしましょう。

また水道・光熱費や通信費なども自動引き落としのため、見直しを忘れがちです。水道・光熱費などは季節性もあるため通年一定とはいきませんが、年間を通してチェックしていると適正な範囲がわかってきます。

2.家族で行う節約項目を決めましょう

課題がわかったら、まず現状の家計で無駄な支出を洗い出しましょう。ただしこれは家族全員で行ってほしいのです。早苗さんひとりで洗い出してもご主人様やお子様には見えませんし、ご家族の協力なしに節約しようとすると、早苗さんひとりが“ケチ”と思われてしまうことも。

お子様もお金の大切さを理解してもらうには十分な年頃です。ぜひご家族全員が家計を意識するようにもっていきましょう。具体的には節約目標を家族に公表し、月末に実績を報告します。達成できると家族全員で達成感を共有でき、達成できないと悔しい思いでスイッチが入り、いずれにしても頑張ろうという気持ちになるものです。

節約ポイント 1:小遣いを夫婦5千円ずつ節約

ご主人様だけに減らしてもらうと角が立つので、ここは早苗さんが「自分も減らすから」と協力を仰ぎましょう。

節約ポイント 2:水道・光熱費を1万円節約

猛暑の季節はともかく、年間を平均して水道光熱費が3万円は、日中ほとんど留守がちのご家庭では多すぎると思います。水道の出しっぱなしは無理なくすぐに実践できることですし、各個室でエアコンを稼働させるより、宿題はダイニングテーブルで片付けるなど、家族のコミュニケーションを取りながら節約できる工夫もしてみましょう。

節約ポイント 3:食費を1万円節約

育ち盛りの男の子二人では、確かに食費はかかります。ただ、中野さんのご家庭は早苗さんが仕事をしているため、週末は楽ができるように外食も多いとのこと。
これをお父さんとお子さんで作ってもらってはいかがでしょう。
買い物ゲームではありませんが、1,000円から1,500円程度の予算で買い物から後片付けまですべて任せます。食材の相場を知ることもできますし、予算内で買うという努力や工夫をするようになります。男の子でも家事を理解することは将来の役にも立つのではないでしょうか。ゲーム感覚で意外と子どもはのってきますよ。

3.毎月の生活費の引き出しは一度。 使いすぎないように袋分けでコントロールしましょう

多く持っていると使いすぎが心配なので少しずつ引き出すとおっしゃる早苗さんですが、これは逆に生活費の管理をしにくくしています。

都度引き出すと、用途と支出額がわかりません。つまり適正な生活費の目安がつきません。また予算内で管理するためにも、引き出すのは一度きりにし、それを5等分して1週間のやりくりをしていくようにしましょう。1か月が4週間の月は5分の1が残ります。4週間の月を基準にして5週間の月を乗り切るより、5週間の月を基準に4週間の月も生活費を変えないほうが管理はずっと楽です。

4.クレジットカードの活用は利用額のコントロールがポイントです

中野さんの家計で使途不明金が多いのは、おそらくクレジットカード利用の把握ができていないものと思われます。クレジットカードは買い物した時点で財布の現金が減りません。このことが実際以上にお金を持っている気になる錯覚を招きます。

このようなケースに有効なのは、先取り入金してしまうこと。たとえば食費など日常生活費をカード利用した場合は、引き出した生活費(食費)の中からその分は引き落とし口座に入金してしまうのです。こうすることで現金払いとカード払いが混在しても、“毎月予算の範囲内”で支出をコントロールすることができます。

なお、旅行費用や車維持費など一時的にまとまった支出をカード払いする際は、生活費のように現金を引き出しておくわけではないので、先取り入金は現実的では難しいでしょう。

このような場合はおこづかい帳形式で、年間予算から以下のような方法で残りの利用可能額を厳守するようにしましょう。夏の旅行代金を春にカードで前払いしても、現金で支払ったものがあっても総予算を守っていれば大丈夫です。

【予算厳守のための費目別支出管理例】(単位:円)

収入 支出 残高
1月1日  年間レクリエーション費 600,000 600,000
2月1日  GW 旅行代金(カード) 200,000 400,000
2月10日  スキー旅行 40,000 360,000
3月15日  日帰りスキー旅行 20,000 340,000
4月29日  GW 旅行こづかい 50,000 290,000
5月15日  夏休み帰省交通費(カード) 80,000 210,000
6月20日  日帰り温泉旅行 20,000 190,000
7月25日  夏休み海水浴旅行宿泊代(カード) 40,000 150,000
7月25日  夏休み海水浴旅行こづかい 20,000 130,000
8月10日  夏休み帰省こづかい 40,000 90,000
8月25日  日帰りキャンプ 10,000 80,000
10月10日  日帰りキャンプ 10,000 70,000
12月25日  テーマパーク 40,000 30,000

5.大きなイベントの前後には保障の見直しを

【中野家の保障状況】(単位:円)

保険商品 種類 保険金額 保険期間 年間保険料 払込期間
終身保険 死亡 死亡:500万円
(65歳まで1,000万円)
終身 72,000 65歳まで
定期保険 死亡 死亡:3,000万円 50歳 60,000 50歳まで
医療保険 医療 入院日額:10,000円
3大疾病一時金特約
がん診断給付金特約
終身 120,000 終身
定期保険 死亡 死亡:400万円 1年ごと 20,000 60歳まで
医療保険 医療 入院日額:10,000円
3大疾病一時金特約
がん診断給付金特約
終身 90,000 終身
第一子 学資保険 学資 18歳満期200万円 18年 180,000 第一子 ~18歳まで
第二子 学資保険 学資 18歳満期200万円 18年 180,000 第二子 ~18歳まで
その他 損害保険 車・火災 1年ごと 50,000

中野さんご夫婦は、お子様が生まれて早苗さんが一度退職された時に見直されたままとのこと。今回は精査しておりませんが、早苗さんが再就職して経済的に自立できていらっしゃること、マイホーム購入の際に団信加入済ということから、もう少し保障を減らせることも可能かと思われます。

またご夫婦とも医療保障が日額1万円となっていますが、医療保障は手術・入院とならないと原則給付はありませんので、元がとりにくい保険です。また高額になった場合でも高額療養費制度(※)により、月の医療費が9万円程度で済みます。したがって日額を5千円程度に抑え、その分貯蓄に充て、万が一の際はそのために、万が一が無かった場合は楽しみのために使うという考え方もできます。

※保険診療により1か月にかかった医療費が一定以上を超えた場合は、上限を設ける制度。大方の人は9万程度で済む。

6.お金はメリハリをつけて上手に使う

中野さんの家計で使途不明金が多いのは、おそらくクレジットカード利用の管理と、生活費管理がうまくいっていなかったことが原因だと思われます。これらの支出をきちんと管理すれば、使途不明だった分は貯蓄に回せるはずです。

また、多少生活費をスリム化する必要はありますが、お子様と一緒に旅行に行ける時期はできるだけ家族の思い出を作りたいというご希望により、娯楽費を多めにとっていらっしゃることは問題ありません。お金は貯めることも大切ですが“上手に使う”ということも大事なことです。

家計管理は家族全員でと申し上げましたが、旅行に行くため、○○のため、というように貯蓄の目的を共有することも重要です。目標のない貯金はゴールのないマラソンと同じ。達成感がなくなってしまうからです。

お金を使って楽しむこととお金を使わず楽しむことを上手に使い分け、楽しみながらいつの間にか貯蓄もできている。そんな家計をご家族で作り上げていただきたいと思います。