子どもや孫に生前贈与を考えています。 「子ども版NISA(ニーサ)」とはどのようなものでしょうか?


子どもや孫に生前贈与を考えています。
「子ども版NISA(ニーサ)」とはどのようなものでしょうか?

村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール
  • 平成28年の創設が検討されています
  • 18歳までの子どもや孫が、非課税で資産運用をすることができます
  • 運用益が非課税となりますが、贈与税や相続税が非課税となる制度ではありません

佐藤 豊さん(仮名 61歳 無職)のご相談

昨年、定年退職をしました。今までの貯蓄がある上に、退職金でまとまったお金が入りました。今年からは、年金も一部出ることになっており、当面の生活には困りません。来年から相続税が上がるということもあり、今のうちに子供や孫に贈与をしたいと考えています。「子どもNISA」というものができると聞きました。どのようなものでしょうか?

佐藤 豊さん(仮名 61歳 無職)のプロフィール

家族構成 : 本人:浩司さん (61歳 無職 年収なし)
妻:智子さん (60歳 主婦 年収なし)
別居の子ども家族 : 長女:池田 愛さん(33歳 パート主婦)
夫:健一さん(35歳 会社員)
子:長男(8歳 小学生)、長女(6歳 小学生)
長男:佐藤幸人さん(30歳 公務員)
妻:恵子さん(30歳 公務員)
子:長女(2歳 保育園)

現在の家計の状況

<貯蓄>

普通預金 5,500万円
株式 1,700万円
投資信託 1,100万円

お孫さんへの資金贈与には良い制度になりそうですが、
年齢や金額によっては他の贈与の方が良い場合もあります。

1.NISA(少額投資非課税制度)について確認します

佐藤様、こんにちは。「子ども版NISA」については、つい先日、政府が検討していることを明らかにしました。まだ検討段階ですので、実際にはどのような制度になるかは、わかりません。現在検討されている案から、どのようなメリット・デメリットがあるのかを考えてみます。

その前に、「NISA(ニーサ)」について、確認しておきましょう。「NISA」は、今年(H26年)から始まった「少額投資非課税制度」です。年間100万円までの投資なら、その値上がり益や配当・分配金に税金がかからないというものです。投資期間は原則5年間となっており、NISA専用の口座で、株式や株式投資信託といったリスクのある金融商品を購入することができます。現在のところは、平成35年まで、年間100万円を投資することができるようになっています。平成31~35年については、5年前に投資した資産を引き継ぐことができるようになっており、当面は合計10年間の投資ができることになります。年間の投資金額の上限や投資期間については、拡大が検討されています。

メリットは、なんと言っても、値上がり益や配当・分配金に税金がかからない点です。今年から株式や株式投資信託の値上がり益、配当・分配金への課税が20%となりましたので、“非課税”というのは、大きな特典です。

一方、デメリットとしては、損失の場合に他の資産の利益との損益通算ができない点で、状況によってはかえって税金が多くなってしまうこともあります。投資期間が終了すると一般の口座に移すことになりますが、その時点の価格が購入価格とされてしまうため、値下りしないうちに売却して、利益を確定しておくなどの対策が必要です。ただし、一度売却してしまうと、その非課税枠は再度利用することができません

<政府広報オンライン>
NISAについて
http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201306/3.html#anc01

2.「子ども版NISA」はどのようなものでしょうか?

「NISA」がスタートし、今度は「子ども版NISA」が検討されています。「NISA」は20歳以上の人しか利用できませんが、それを18歳まで引き下げ、さらに18歳未満については別の非課税制度を創設しようという案です。平成28年に実施される予定です。

「子どもNISA」は、親や祖父母が、自分の資産を子や孫に贈与して、その資金を投資に回してもらうことを想定しています。今のところ、検討されている制度は、以下のようなものです。

  • 対象:18歳未満の国内居住者
  • 制度のポイント:株式や株式投資信託の値上がり益や配当・分配金が非課税
  • 投資額の上限:年間100万円
  • 投資期間:子どもや孫が18歳になるまで

子どもが18歳になった場合は、一般の「NISA」へ移行できるようにすることを検討していますが、一般の「NISA」の上限を超える部分は、非課税ではない、一般の口座に移行することが考えられます。このあたりの詳細はまだ決まっていません。もしそうであれば、一般口座への移行時にマイナスとならないように、良いタイミングで売却することがコツとなります。株式や株式投資信託という価格変動がある商品のみが投資対象ですので、できれば大きく値上がりした時点で売却して、利益を確定しておきたいものです。ただし、早めに売却しても、その資金は18歳になるまでは引き出すことができず、かといって再投資もできず、現金のまま何年も置いておくことになります。このあたりの使い勝手がどのように整備されるかが、今後注目されます。

3.他の制度と比べて、使い勝手はどうでしょうか?

注意しておきたいのは、「子ども版NISA」は、運用益が非課税となる制度であって、贈与税や相続税が非課税となる制度ではありません。現在、年間110万円までは贈与税がかかりません。「子ども版NISA」の投資額が年間100万円までとなっていますので、対象となるお子さんやお孫さんが、一人だけから贈与を受けるのであれば、ちょうど非課税枠に納まります。しかし、別の祖父母などからも贈与を受けてしまうと、贈与税がかかってしまいます。また、100万円など、毎年同じ金額を渡していると、「定期金に関する権利の贈与」(※)とみなされ、贈与税がかかってしまう場合もあります。

逆に、親や祖父母が口座の管理をしていたのでは、贈与したことにならず、将来相続税の対象となる可能性があります。贈与とは、資産をもらった人が自由に使えなければならず、子や孫が「子ども版NISA」の口座を途中解約して、お金を出してしまうことを防ぐことはできません。また、せっかくお孫さんに贈与をしても、その後3年以内に死亡した場合は、相続税の対象になってしまいます。

相続税を少なくする、またはかからないようにするために、毎年110万円以下の資金を贈与する、という意味では「子ども版NISA」にこだわる必要はありません。子どもや孫の資産形成を援助するためなら、子どもを被保険者として、個人年金や終身保険に加入するという方法もあります。自分が保険に加入して、子どもを保険金受取人とするのではなく、お金を渡して、子どもが保険に加入するようにするのです。定額型の個人年金や終身保険であれば、売却のタイミングを気にすることなく、資産形成をすることができます。

昨年から始まった「教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」も、贈与税・相続税がかからずに、お孫さんに資金を渡すことができる制度です。こちらは、お孫さんの教育資金を信託銀行の専用の口座に預けておけば、1,500万円まで贈与税・相続税がかからないという制度です。ただし、教育資金でなければ、引き出しができず、孫が30歳になった時点で余った金額には贈与税がかかってしまいます。そもそも、祖父母が生きている間は、孫の学費を出しても贈与税はかかりません

いずれの制度も、一長一短があり、使い方次第でメリットにもデメリットにもなります。仕組みを比較して、納得した上で、利用することが大切です。これから決まる「子ども版NISA」については、どのような制度になるか、今後の報道に注意しておきましょう。

※定期金に関する権利の贈与:10年間にわたって、毎年100万円が贈与されることがあらかじめ決まっている場合は、約束した年に定期金に関する権利の贈与を受けたものとして、贈与税がかかります。