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投資信託で資産運用を始めようと思っています。
どの制度を活用するのが良いのでしょうか。
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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上野 里美さん(33歳 会社員 仮名)のご相談
投資の初心者ですが、投資信託での資産運用を始めたいと思っています。
NISAや変額年金保険も投資信託で運用できると聞きましたが、例えば同じ商品なら、何の制度を活用するのが良いのでしょうか?それとも同じ商品であるなら、どれも同じなのでしょうか?
上野 里美さん(33歳 会社員 仮名)のプロフィール
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長期で運用するなら税制のメリットは無視できませんが、
投資を始めるのが目的なら、まずは手軽な方法で始めましょう!
投資を始めるのが目的なら、まずは手軽な方法で始めましょう!
1. 投資信託を活用した諸制度等の比較
上野様、ご相談ありがとうございます。
投資信託での投資デビューを望まれているとのこと、心より応援いたします。ひと口に投資信託といっても、銀行や証券会社等で普通に購入する以外に、様々な制度を活用して行う方法があります。
まずは、おおよそ考えられる違いをわかりやすく比較してみました。
ここで、各種制度のメリット・デメリットを考える前に一番大切なのが、何のために運用を行うのかという、“運用目的”です。
例えば、確定拠出年金制度で投資信託に投資しても、この制度の趣旨は老後生活資金目的の「年金」のためのものですので、途中で辞めたくなっても、原則として60歳以後まで換金ができません。もし、上野様の運用目的が、旅行資金や近い将来のお金のためであるのなら、この制度は全く不適切ですね。また、運用目的が特に決まっていない場合も、途中で降りることができないので、制約が高いといえます。
まずは、何のために預貯金ではなく投資を行うのか、運用を行うその目的を明確にすることが一番大切です。
2. 投資と税金との意外に大きな結びつきを考えてみましょう
投資に憧れるのは、その運用収益を思い描いているからだと思います。
もちろん、低金利で利息が増えない預貯金より、リスクはありながらも、運用成果が上手くいったときの投資の魅力は絶大です。ただ、ここでもう少しだけ、考えを広げてみましょう。
普通に金融機関等で投資信託を購入する場合、所得税や住民税を引かれた後の税引き後の手取り収入(アフタータックス)から、その積立金を拠出しているに過ぎません。
運用益がいくらあっても非課税としてくれるNISAも所詮は同じです。
ですが、確定拠出年金や変額年金保険を利用して支払った積立金は、払った金額だけ税金が安くなるのです。その仕組みは以下の図のとおりです。
私たちの税引き後の手取り収入(アフタータックス)は、税引き前年収(ビフォアタックス)から、各種社会保険料と税金を引いた後の収入です。税金とは、ビフォアタックスの収入から、経費と社会保険料とその他の所得控除を引いた、課税総所得金額に一定の税率を乗じて求められる所得税と住民税です。
その所得税と住民税は、社会保険料やその他の所得控除の額が多くなるほど安くなります。
「図表1」にもあるとおり、確定拠出年金や変額個人年金の積立金に充てた金額は、その金額が多いほど、課税総所得金額を引き下げ、ひいては税金を安くしてくれるのです。
厳密には、確定拠出年金では、その働き方等に応じて年間の拠出金額に上限がありますし、変額個人年金保険については、支払保険料の一定割合(上限4万円)しか、所得控除の金額には含められません。
ですが、税金を払った後のアフタータックスの一部で一生懸命に積立を行うのと、積立に充てた金額の分だけ税金が安くなるのとでは、大きな違いがありますね。
税金が安くなって、払わなくて済んだ分だけ、それは既に約束された実質的な運用パフォーマンスと考える事もできるからです。
ちなみに、会社員で企業年金等の制度のない会社にお勤めの上野様の場合、現行制度で、個人型の確定拠出年金制度での拠出可能月額は2万3,000円(年額27万6,000円)です。税率は所得によって異なりますが、最低でも15%(所得税5%、住民税は一律10%)ですから、これが課税されずに積立が行えるということは、課税後のアフタータックスで運用を行い15%の運用益を得たのと同じだけのアドバンテージがあります。
単純計算で、拠出可能額27万6,000円に対し、実に4万1,400円の計算になるのです。これは無視できないところでしょう(税率は高いほどアドバンテージも高くなります)。しかも、運用益に途中で税金がかからない分だけ、運用成果を高めるW効果もあります。
3. 長期投資は難しいので、まずは手軽なNISA等で始めてみましょう
とはいえ、確定拠出年金制度はひとたび始めると相当長い運用期間を要します。
変額年金保険は、積立据え置き期間をある程度は選べますが、運用中のコストが割高で確定拠出年金ほどのアドバンテージは得られない可能性もあります。
投資とは、常に成果を得られ続ければ効率的に資産は殖えてくれますが、運用期間が長いほど先行きは不透明で、逆に運用成果が悪化する可能性も高まります。基本的には長期投資であるほど投資におけるリスクは高くなり、難易度が上がるものです。
よって、投資に慣れるまでの間は、有利な制度を活用できない代わりに換金時期の制約が少ない一般的な投資か、基本的に最長5年間で白黒つけるNISAを利用し、少額から始めてはいかがでしょうか。
NISAの最大の欠点は、運用差損が発生しても他の投資での差益と相殺はできないことです。しかし、少額からソロリと最長5年間の運用と定めて始めるのであれば、取り返しのつかないほどの失敗を被る可能性は低いと思われます。
何かを始めようと思った際でも、いきなり全力で行う必要はありません。
投資においては、1つの大きな失敗が、小さな成功の積み重ねを塗り潰してしまうことも実は少なくはありません。適度な緊張感と気軽さのバランスを保ちながら徐々に慣れていくのが良いでしょう。