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これまでに蓄えた金融資産が3,000万円あります。
夫の10年後の定年に向けてどのように資産運用すれば良いのでしょうか?
井上 信一先生 (いのうえ しんいち) プロフィール |
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天野 亜希子さん(49歳 仮名)のご相談
住宅ローンの返済も終え、投資や預金等を合わせ資産額は3,000万ほどになりました。投資経験は20年以上でトータルでの収支はおおよそ200万円のプラスです。
これまでもマネー雑誌や書籍等を参考に、株式、投資信託、債券、外貨建てMMF等で運用し、よくわからない商品には手を出さないように努めてきました。定期預金や普通預金にお金を置いておくのは勿体ないと感じつつも、手持ち資産の大半を占め、変動の激しい株式等から手を引くべきか迷っています。
夫が60歳で退職するとして、今からの10年間でどのような運用を心掛けていけば良いでしょうか。
天野 亜希子さん(49歳 仮名)のプロフィール
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転換点を意識し、その先の収支を見通した資金準備が必要。
長期の資産運用では小分けに運用する方法も検討してみましょう。
長期の資産運用では小分けに運用する方法も検討してみましょう。
これから先の2度の転換期に向けた準備を
天野様、ご相談ありがとうございます。
お金は効率よく殖やしたいものの、どう実践していけばよいのか悩ましいところですね。ですが、ある程度のゆとりを確保できれば、望む金額以上を持つ必要はありません。そのためにも、今後の収支の推移を大まかにでもイメージしておくことが有効といえます。
さて、頂いた限りの情報を整理しますと、下図のとおり天野家ではこの先2度の転換期を挟み、生活設計をおよそ3つのタームに分けることができると思われます。
まず、第1期はご主人の定年までの期間です。
この間は下のお子様の進学に伴う教育費の大幅増が大きなイベントとなりますが、現状の家計状況からも、その収入は負担増に勝り、蓄えは堅調に増やせていける見込みです。しかし、次期以降の収支は一変しますので、支出明細の積み上げではなく年間でいくらを貯蓄に回せているのか、その実態を預金通帳等からもう一度確認してみてください。
次の第2期はご夫婦の有料老人ホーム転居までの定年後の期間です。
前期までの積み増しや退職金等も含め、この期の序盤が貯蓄のピークとなるでしょう。上のお子様への多額の資金援助を見込まれてはいますが、この間の貯蓄の取り崩し額が次期に大きく影響しますので、「ねんきん定期便」の情報を確認し、一時的な出費以外の経常支出についてはなるべく年金等の経常収入の範囲で賄えるようにしたいところです。
なお、お子様の施設入所後の最低限の諸経費は本人の年金額や貯蓄額に応じた公的助成が見込め、大きな負担がかかる心配はないと思われます。ですが、成年後見報酬や余暇費等は親の援助に頼らざるを得ないのが実状で、基本的に年金や就労等の収入からの手残りは殆ど期待できません。現時点で検討されている支援額1,000万円は、贈与時のお子様の余命を50年(90歳まで)と仮定すると年間20万円程度の取り崩し可能額となります。この金額で十分であるのか否かについても、将来的に見直す必要があるのかもしれません。
最後の第3期は、有料老人ホーム入居後の期間となります。
将来的な入居時の一時金必要額や月額の居住費の水準等は現時点で推測することはできませんが、ホーム入居のきっかけが要介護に近い状態となっているであろうこと、そして今のご自宅を何らかの形で現金化できるのかどうかがポイントになります。月額の費用が年金収入で賄えるのかも予測できませんので、相応の準備は必要といえそうです。
このようにざっくりと考えただけでも、30年先の第3期に安心できる暮らしを確保するために、その手前の20年間で貯蓄を大きく取り崩すことのないよう、今後10年の助走期間の意味合いが明らかになるのではないでしょうか。
使いみちに応じたお金の置き場を考慮しましょう
では、天野様に今後求められる資産設計を遠い将来から順に考えてみます。
まず、将来の有料老人ホームの入居費用とその後の負担額については貯蓄以外に、要介護状態が続く限り一生涯に渡り収入(保険金)を受け取れる民間保険会社の一時払いの終身介護保障保険等が力強い支えになります。この類の優良な保険商品の選択肢は今後増えていくと思われますので、今はじっくり商品研究をなさって下さい。また、ご自宅の活用方法については、売却以外にも、人に貸す等の方法が考えられます。合わせて情報収集をされてはいかがでしょうか。
人生の最終期に向けた貯蓄や介護保障保険等の保険料として、多めに見積もっても2,000万円~3,000万円を確保できれば、現状では十分と考えられます。
次に、この資金を蓄えておくために、定年後の生活で貯蓄を大きく取り崩す必要に迫られない準備手段が求められます。
仮に上のお子様のために残しておかれるお金を1,000万円とし、その金額を贈与税非課税となる信託制度(特定贈与信託)や心身障害者扶養共済制度等の公的制度にて早めに分別管理しておきさえすれば、現状プランで概ね問題は考えられません。
ですが、天野様の場合、定年後の20年間で年金収入だけでは不足が見込まれる余暇費等や生活費を、どのように賄えばよいのかが課題として残ります。
この対策として、10年後以降の毎年必要な金額が、給与代わりの収入補助として満期を迎えられるような仕組みづくりを行ってはいかがでしょうか。
一度に多額の運用を行うには負担が重くなるものです。また、何にお金を託せばよいのか迷うことでしょう。ですが、毎年に少額ずつ満期を迎える資産は毎年変えても良いのです。
例えば、今年始める分は10年後に償還を迎える外貨建の割引国債等で運用し、来年の分はまた違う資産で11年後に満期を設定しておくのです。そのうち、金利が上昇してくれば定期預金や個人年金保険が有力な候補になるタイミングがあるかもしれません。
一見すると面倒にも感じますが、大きなイベント以外は一時期に多額のお金が必要となるわけではないので、毎年の必要額分を小分けに設定することで、むしろ小回りの利く運用が可能となり、資産の変動に一喜一憂することも減らせることに繋がります。
このような運用方法は過去の記事でもご紹介していますので、以下もご参照ください。
毎年満期を迎えるための運用方法
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投資で一番重要なのは出口戦略です
よく、「お金はお金に働いてもらいましょう」と、聞こえの良い謳い文句を見聞きしますが、これは、“金融商品の売り手側“に都合のよいキャッチフレーズに過ぎません。
実際は、どのようなシステムをどのタイミングで利用するのかですべてが決まるものです。お金を託す側は時価に一喜一憂しますし、お金が、“都合よく、勝手に判断し、勝手に動いてくれる“ことはないのですから、適切な判断を自分自身でしなければならないのです。その判断に際しては、“買い”よりも“売り”つまり、入口よりも出口が圧倒的に大切です。
投資の入口の段階で値が安いのか高いのかを判断することは難しく、正直なところ「エイヤ」でおこなわざるを得ません。ですが、出口では自分で実現損益を計算できます。また、保有資産に占める投資資産の割合に、適切な数値などは実は存在しません。
正確には、今後のお金の使いみちや優先度、金額の多寡に応じて変わってきます。
ですが、天野様が感覚的に「株式の割合が多い」と感じるのであれば、それはメンタル的にも比重が重くなりつつある表れなのでしょう。
今後も株式市況はもう少し堅調に推移するかもしれません。しかし、これまでの上昇幅を上回って高騰していく可能性は低くなりつつあります。幸いこれまでの収益はプラスとのこと。“ほどほど”で十分です。お持ちの銘柄の中でどれか、あるいは均一に、ひとまず何度かに分けて換金されてはいかがでしょうか。
とはいえ、投資はこれで終わり、というわけではありません。数年以内に、あるいはご主人の定年後にも、妙のある投資機会は巡ってくるかもしれません。
ひと呼吸おかれ、まとまったお金の運用に区切りをつけ、今後の10年後以降に毎年満期を迎えるためのプランとして、投資金額や保有期間の異なる次のタイミングを待つのも一考でしょう。