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井上信一 先生 (いのうえしんいち) プロフィール |
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吉見京一さん(51歳 仮名)のご相談
自分が生まれ育った実家には、現在80歳を超える両親が二人で暮らしています。幸い二人ともまだ元気ですが実家は築50年以上にもなるので、帰郷の際は至るところの老朽が気になっています。以前は父親も、「ここを売ってコンパクトなマンションに引っ越したい」などとよく話していましたが、母親が反対していたこともあり、最近ではこの話も少なくなっています。実家を将来どうするのか、具体的な解決策がいまあるわけではないですが、最近、銀行からリバースモーゲージという制度があることを聞き、少し気になっています。この制度のポイントや注意点について、中立な立場でのご意見をお聞きしたいです。
吉見京一さんの両親のプロフィール
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自宅からお金を生むしくみとして、また今後の不動産事情の点からも一考に値する方法と考えます。
ただし、ローンの一種だという事も十分に理解しておきましょう。
ただし、ローンの一種だという事も十分に理解しておきましょう。
吉見さん、ご相談ありがとうございます。
リバースモーゲージの考え方自体はそう新しくはないのですが、最近では取り扱い金融機関等が増え、商品も多様化(フラット35で知られる住宅金融支援機構でもリバースモーゲージ型融資を取り扱っています)しており、後述する今後の住宅問題等もあって注目できるしくみといえます。
リバースモーゲージやこれに似たしくみ、利用上のポイントや注意点などもご説明いたしますので、ご実家を活用する選択肢のひとつとして、ご参考にされてください。
リバースモーゲージとは?
ひとことでいえば、自宅を担保にお金を借りるローンの一種です。
一般的な住宅ローンは(購入する)自宅を担保に、契約者の年齢や収入などに応じた信用評価も含めて借りられる金額が決まります。そして、契約時にお金を一括で借り、借入時に利息の総額を計算して元利金を分割形式で返済していきます。
これに対してリバースモーゲージは、住んでいる自宅を担保にお金を借り、契約終了時に一括で返済するしくみです。利用限度額までなら、一括でも分割形式でもお金を借りることができ、借入元本の返済は契約終了時まで不要です。利息については、貸し越し元本に組み入れる(毎月の負担が一切ない)タイプと、毎月支払っていく(毎月の負担は利息のみ)タイプとがあり、金融機関等により異なります。いずれにしても一般の住宅ローンとはしくみが逆なので“リバース”というわけです。
ここで気になるのは利用限度額(借入金の額)とその返済手段だと思われます。
リバースモーゲージは、契約終了時(契約者の死亡時等)に、担保である自宅をその金融機関等に売却して精算することを基本としています。そのため、借りられる限度額は契約者の返済能力より自宅の価値に応じて(不動産評価の概ね5割~7割程度が一般的)決まり、金融機関等によっては対象を戸建て(土地を評価)に限定したり、一定額以上の担保評価のあることを条件にしたりしています。
つまり、金融機関等から一定の価値を認められれば、持ち主がそこに住みながら、その価値を上限にお金を前借りするのがリバースモーゲージです。
なお、契約者となるための条件は一般的な住宅ローンほど厳しくはなく、契約時の年齢が55歳~60歳以上(契約者死亡等までが契約期間なので上限年齢はなし)などで、最低限の収入(年金のみでも可能)があれば利用が可能です。また、契約者(自宅所有者)の死亡後はその配偶者に限り契約を引き継げるものが一般的で、夫の死亡後に妻の住まいを心配することは少ないといえます。
類似するリースバック
話を戻しますが、自宅をもとにお金を生むのなら、普通は「売る」か「貸す」をまず思い浮かべますよね。でも、基本的に自分達は住み替えが必要なので、転居にかかる手間や費用を考えて二の足を踏むものです。
そんなわけで、最近ではセール&リースバック(リースバック)というしくみも注目されつつあります。
自宅の売却とそこに住む賃貸契約を同時におこなう(さらに売却した自宅の買戻し特則を予めつけられるものもあります)もので、債権会社や不動産の売買・賃貸・管理会社等が主に取り扱っています。
リバースモーゲージは自宅を担保にローンを組む(抵当権は設定されます)だけなので自宅の所有権はそのまま。その代わり、普通に売るより低い額の融資しか受けられず、基本的に所有者(およびその配偶者)の死亡時に自宅を手放すしくみでした。一方のリースバックはいったん自宅を売る(手放す)ので相応に評価されたお金が入りますが、その後は家賃負担が生じます(一般的に年間賃料は売却価格の7~13%相当と高めです)。
大きな違いは所有権の所在で、これに伴う固定資産税などの負担の有無が異なりますが、共通するのは住み慣れた自宅にこれまでどおり(ご近所に知られることもなく)住み続けることができる点でしょう。
両制度は一長一短ですが、負担が少なく便利なサービスにはとかくその対価がかかる点は同様のようです。
リバースモーゲージ利用のポイント
リバースモーゲージは自宅を手放すことなく、限度額までのお金を新たに得られるのですが、その自宅の利用方法や融資を受けたお金の使いみちは概ね自由です。
例えば、自宅で引き続き暮らしつつ、年金収入にプラスして生活費や将来の介護費用にまわすことができますし、吉見さんのご実家のように老朽化して不安のある住宅のリフォームや建て替えにも充てられます。いずれにしても、手持ち金融資産を大きく取り崩さなくてすむので、将来有料老人ホーム等の高齢者施設に転居する場合の資金を温存できますし、その資金の一部または全部を捻出することもできるわけです。さらには、高齢者施設等に転居した後も自宅を人に貸すことができれば家賃収入を得ることだって可能です(賃貸形式に一定の制約を設ける場合もあります)。
実は、殆どのリバースモーゲージでは契約者(またはその配偶者)死亡時に(自宅を売却せず)現金での完済も可能なので、親世代の財産を相続した子が現金で返済する方法も残されています。借入金を随時返済していくことも大抵の場合は認められているので、自宅を手放すことありきではありません。
リバースモーゲージの注意点
リバースモーゲージを利用する際の注意点として、将来の金利上昇と不動産評価(特に地価)の下落、そしてこれに伴い担保評価が借入額を下回るかもしれないリスクが考えられます。
融資をする金融機関の立場にたってみると、貸したお金を回収できなくなることが一番の懸念でしょう。なので、一般的には年に一回程度、金融機関等は利用限度額の再計算をします。
リバースモーゲージでは、表面的な毎月の返済額は抑えられていますが、その裏で比較的高めの融資金利が適用され、その多くの場合は変動金利型を採用しています。当然、将来金利が上昇すればその負担は重くなることに繋がります。
地価の下落などで担保評価が下がれば融資可能額も減ります。加えて、自宅の評価相当以上に長生きした場合、融資がストップする事態もあり得ます。
結局のところ、経済環境と寿命に左右されるわけなので、利用限度額いっぱいまでは借りないよう注意するか、仮に利用限度額を超えてしまった場合に一部返済できるお金を手元に残しておく必要もあります。
また、自宅を処分するにせよ現金で完済するにせよ、借りたお金の清算は子などの相続人が行うことになります。最悪なのは、相続人が債務弁済に不足するお金を負担しなければならないケースでしょう。
金融機関等の多くは、リバースモーゲージの利用にあたり相続人の同意を契約書面上の必要条件としていますが、中には不問のケースもあるので後々に禍根を残さぬよう、親族間でよく話し合っておくことは大切です。
私たちが暮らすこの日本は、人口がすでに減少に転じているだけでなく世帯数の減少も間もなく訪れます。当然、住宅が余る事態が急速に進行しているのですが、相続で取得した実家が空き家化するケースが少なくないのも、この事態に拍車をかけている要因です。
ですが、現実的に維持費の増加が懸念されるとしても、「生まれ育った家に愛着があって売れない」という心情的なハードルは低くはないと思います。吉見さんが将来、ご実家に戻られるのならよいのですが、もしその可能性が低いのであれば、いずれ実家の処分を迫られる時がきます。
実家を築かれたご両親の生活が充実し安心できるしくみを整えられる選択肢として、一考の価値があるといえるでしょう。
将来両親と同居し、老後の面倒をみるつもりです。 東京の不動産を相続すると、相続税は高いのでしょうか。
父の不動産や預貯金に高額な相続税がかかりそうです。 相続税の計算方法と概算額を教えてください。