来年夫が定年を迎えますが、退職金の受け取り方が選べると言います。受け取り方を選ぶポイントを教えてください。


今回、回答いただく先生は…
鈴木 暁子先生(すずき あきこ) プロフィール
  • 受け取り方の選択肢を正しく理解しましょう。
  • 一時金受け取り、年金受け取りそれぞれメリット・デメリットがあります。
  • 最終的には、今後のライフプランや何を安心材料とするかによって決めましょう。

  長瀬 由紀さん(仮名 59歳・パート主婦)のご相談

来年夫が定年を迎えます。会社からのガイダンスでは一時金または年金のいずれの受け取り方も可能だそうです。先輩からは一時金受取りのほうがオトクで良いとアドバイスされたようですが、本当に一時金受取りにしたほうが良いのでしょうか?

長瀬 由紀さん(仮名)のプロフィール

家族構成
本人(59歳・パート主婦)
夫 (59歳・会社員)
長女(26歳・会社員)
長男(結婚して別世帯となっている。)
その他
・退職金の受け取り方は以下の3通りからの選択
  1. 一時金
  2. 20年保証終身年金
  3. 一時金と20年保証終身年金の併給
・退職時点の住宅ローン残金:約400万円

税金面だけなら一時受け取りがお得、長生きリスクを考えるなら年金受け取りが安心

1.受け取り方を正しく理解しましょう。

長瀬さん、こんにちは。ご主人様が来年ご定年とのこと。今は定年後も再雇用や再就職などでお元気なうちは働きたいという方も多く、実際のところは急に生活が変わることはないのかもしれませんが、まずは一区切りということで本当にお疲れ様でした。

退職金の受け取り方は、退職目前となると皆さま真剣に考えられます。実は会社から退職のガイダンスを受けるまで、受け取り方の選択肢があることすらご存じない方も少なくないのです。ご定年まであと1年ということで、じっくり検討する時間があるのは良いことです。どちらが良いかの前にまずは選択肢を正しく理解してくださいね。

  1. 一時金受け取り
    名称どおり、「まとめて1回もらい切り」という受け取り方です。退職金というとまとまった金額を想像する方が多いですが、それはこの受け取り方です。
  2. 20年保証期間終身年金
    公的年金と同じような「分割受け取り」です。この場合受け取り期間中に亡くなることもありますが、保証期間(今回の場合は20年)があると、保証期間中の死亡により未払い分がある場合は、遺族に支払われます
    一方で、20年保証期間という場合は、だいたい年金原資は20年程度の受け取りでトントンになるようになっています。しかし終身年金となっていますので、ご主人様が生存している限り、受け取り続けることができます。つまり80歳を越えて受け取り続ければ、その分は受け取り総額が多くなるということです。
  3. 一時金と年金の併給
    一時金と年金を半々というように、ミックスの受け取り方ができるものです。

会社によって選択肢も違いますし、併給の可否や割合などもまちまちですので、しっかり確認してください。

2.一時金受け取りと年金受け取りの違いは税金面vs使い勝手。

さて、それぞれの受け取り方を理解していただいたところで、メリット・デメリットを見ていきましょう。

先輩がアドバイスくださったという「一時金がオトク」というのは、税金面の話です。
日本では所得があれば原則所得税を徴収されますが、退職金に関しては給与などにかかる所得税の計算とは別の計算式で算定されます。

(収入金額〔源泉徴収される前の金額〕- 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額

式をひもとくと、
①退職一時金から一定の金額を控除(退職所得控除)してもらえる。
控除した後の所得の2分の1に課税される。
ということで、大幅な税の優遇があるのです。なお、退職所得控除は勤続年数に応じます。

【退職所得控除の計算式】
勤続年数(A) 退職所得控除額
20年以下 40万円×A
(80万円に満たない場合には80万円)
20年超 800万円+70万円×(A-20年)

※月数は繰上げ(例:39年4か月→40年)

例を挙げて説明していきましょう。

  • 退職一時金:2000万円
  • 勤続年数:38年


退職所得控除=800万円+70万円×(38年-20年)=2,060万円
課税所得=2,000万円-2,060万円=▲60万円 ⇒ 所得税額0円

いかがですか。給与所得で2,000万円だとしたら半分近く課税されますが、退職所得であれば税金がかからない。これほどの優遇ということです。
これは、退職金は老後資金の大きな一助となるという位置づけから、そこに給与などと同じような税金をかけることはしないという理由があるからです。
ただし、この退職所得控除の優遇は「退職一時金」として受け取った分に限ります。年金として分割受け取りする分についてはこの優遇はなく受け取りのたびに所得税が徴収されます。つまり税金面で見ると、一時金で受け取るほうが圧倒的に有利といえます。
では、一時金で受け取るべきかというと、必ずしもそうとは限りません。

いきなり千万円単位のお金が通帳に振り込まれたことを想像してみてください。「こんな大金を預金にしたままで良いのかしら」「長生きするかわからないので、どのようなペースで使っていけば良いのだろう」など、案外戸惑うこともありませんか?

よくあるケースが、まとまった一時金を預金にしておくのはもったいないからと、慣れない資産運用につぎ込んだ挙句、元本割れさせてしまうことです。定年後はその後働くとしても給与は大きく減りますから、現役時代のように貯金ができる余裕はなかなかありません。虎の子の資産をいかに長く維持させられるかが重要なのに、無駄に減らしてしまったという話を伺うと本当に残念に思います。

また、いつまで生きるかわからないので、大金を手にしても使わずに慎ましやかな生活を送ったため思いのほか多く遺産となってしまい、「こんなに遺すくらいならご自身のために使えば良かったのに」となるのも残念なことです。

その点年金受け取りであれば定期的な入金なので、公的年金と合わせて生活費として使うペースがわかりやすく、なおかつ終身年金であればもらい切りの一時金と違い、長生きリスクにも対応できます。長生きすればするほど受取総額も増えます
このように年金受け取りは、使い勝手においては一時金受け取りよりも使いやすいと感じる人が多いようです。

3.最終的にはライフプランベースで考えましょう。

一時金受け取り、年金受け取り、それぞれメリット・デメリットがあることをご理解いただけたでしょうか。

いずれにしても大事なことは、退職後の収支や資産状況、今後どのようなお金の使い方をするのかによって受け取り方を検討すべきだということです。住宅ローンの残金分は一時金で受け取り、残りは年金受け取りにするとか、特にまとまったお金を必要としないのであれば、定期的に受け取ることで使いすぎにもならず、すべて終身年金で受け取って安心感を得るという考え方もあるでしょう。

そのためにはキャッシュフロー表などを使ってシミュレーションすることをお勧めします。ご夫婦のライフプランのすり合わせにもなりますし、シミュレーションすることでどこまでお金を使ってよいかもわかります。
退職ギリギリですとシミュレーションをしてじっくり検討する時間がありませんが、まだ1年ありますので、できるだけ効率が良く、できるだけ使い勝手が良い受け取り方を見出してください。


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