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来年4月からの消費税増税が本決まりのようです。
増税とインフレは、どのくらい家計に影響するのでしょうか?
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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北条 美香さん(仮名 39歳 専業主婦)のご相談
来年の春には消費税が8%となり、さらに10%へと上がるそうです。また、アベノミクスで、デフレからインフレになるとも聞きます。家計にはどのくらい影響があるのでしょうか?
北条 美香さん(仮名 39歳 専業主婦)のプロフィール
家計現状 【収入】(単位:円)
【支出】(単位:円)
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現状の家計では、増税とインフレで3年後に赤字に転落します。
最悪を想定して家計の見直しに着手しましょう。
最悪を想定して家計の見直しに着手しましょう。
1. 気がつかないうちに家計が圧迫される
北条様、こんにちは。株価の上昇や企業業績の回復など、最近は景気の良い話が聞かれるようになりました。しかし、消費税の引き上げやインフレによる物価の上昇など、家計にとっては頭の痛い話も聞かれます。実際のところ、どうなのでしょうか。
安倍首相は、予定通りに来年(平成26年)4月に消費税を8%に引き上げると発表しました。再来年(平成27年)10月には、さらに引き上げられ、10%となります。その分、家計の負担が大きくなります。しかし、引き上げられるとは言っても、それぞれ、3%、2%のことです。100円のものであれば、2~3円、1,000円のものでも20~30円負担が大きくなる程度です。定価販売のお店でなければ、食料品や生活必需品では注意しないと負担が増えたのに気がつかないかもしれません。住宅や自動車などの高額な買い物でもなければ、増税前に駆け込みで購入するほどではありません。
一方、インフレの影響はどうでしょうか。アベノミクス(安倍首相の経済政策)では、今までにない大胆な金融政策で経済を活性化させようとしています。それを受けて、物価を司る日本銀行は、2%のインフレを目標としています。しかし、そもそもインフレとなると決まったわけではありません。なったとしても2%の物価上昇なら、やはり100円のもので2円の値上げ、1,000円のもので20円の値上げです。うっかりしていると、気がつかないでしょう。これだけのために、消費を抑えたり、今までの生活スタイルを変えたりする人は少ないかもしれません。
しかし、“消費税の増税+年率2%のインフレ”を合わせて考えると、家計への影響は小さなものではありません。消費税の引き上げは、それぞれ3%、2%ですが、2年連続で引き上げられ、あわせて5%上がることになります。年率2%のインフレとは、1年間に2%物価が上がるということです。これが毎年続くとなると、数年後にはかなりの値上がりとなります。その分、給料も増えればよいのですが、そうなるとは限りません。これから3年間インフレが続くとすると、消費税の増税も併せて、10%以上の負担増となります。2%、3%とは言っても、けっしてあなどれないのです。一つ一つの変化はそれほど大きくないだけに、かえって影響に気がつかず、今まで通りに過ごしてしまいがちです。すると、知らず知らずのうちに家計を圧迫することになってしまいます。
さらに、現在もそうですが、厚生年金の保険料は毎年10月に引き上げられています。この負担増も考慮すると、ここ数年間で家計の状況は、かなり厳しいものになると考えられます。
2. 3年後には、赤字家計に転落
北条様のご家庭では、現在は毎年40万円近い貯蓄ができています。月々では赤字になることはあっても、その分はボーナスで補てんされ、お子様の将来の教育資金の準備もできています。1年間の収支で黒字となっているので、安心されているかもしれません。しかし、お子様がまだ小さい今は、本来はもっと貯蓄ができてよいはずです。年間40万円程度の貯蓄というのは、実は安心できる状況ではありません。
これからは消費税が引き上げとなります。さらに、毎年2%のインフレが続く可能性があります。現在の家計支出の状況を全く変えずにつづけた場合、3年後にどうなっているかをシミュレーションしてみました。すると、下記のようになります。
【支出】2016年(3年後)の予想(単位:円)
金額 | 臨時支出 | 年間支出 | ||
1 | 住居費 | 86,716 | 1,040,590 | |
2 | 食費 | 35,576 | 426,909 | |
3 | 光熱費 | 16,676 | 200,114 | |
4 | 医療費 | 3,000 | 36,000 | |
5 | 被服費・雑貨 | 4,447 | 66,705 | 120,068 |
6 | 通信費 | 23,347 | 280,159 | |
7 | 教育費 | 47,805 | 222,348 | 796,007 |
8 | 自動車関連 | 11,117 | 133,409 | 266,818 |
9 | 交際費 | 10,006 | 44,470 | 164,538 |
10 | 小遣い | 35,576 | 77,822 | 504,731 |
11 | その他 | 7,782 | 93,386 | |
12 | 保険料 | 22,000 | 264,000 | |
厚生年金保険料の値上げ | 26,550 | 26,550 | ||
合計 | 304,047 | 571,303 | 4,219,869 | |
負担増 | 28,047 | 81,303 | 417,869 | |
貯蓄 | -39,041 | 448,722 | -19,769 |
現状では、毎年40万円近く貯蓄できていたのが、一挙に赤字家計に転落することになります。このシミュレーションは、収入と家計支出の構成が全く変わらないものとして計算しました。これに、お子様の成長に伴う、教育費の増加が加わります。その点も考慮すると、3年後にはさらに赤字が膨らむことが予想されます。
もちろん、インフレで給料が増えることも考えられますし、逆にインフレとならない可能性もあります。しかし、あまり良くない状況を想定して、今から対策を立てておくことが大切です。
3. 支出を見直し、収入増を
3年後に困らないように、今からしっかりと計画を立て、それを実行していきましょう。そうすれば、赤字家計に転落することもなく、場合によってはさらに貯蓄ができるようになるでしょう。家計の改善をする方法は3つです。
- 支出を減らす
- 収入を増やす
- 運用で資産を増やす
このうち、「3. 運用で資産を増やす」については、まだ考えないでおいてください。株価の上昇や、円安ドル高で資産運用に期待が持てるようになりました。しかし、資産運用で十分な効果があるのは、ある程度の金融資産がある場合です。北条様の場合、まだ十分な金融資産がありません。まずは、「1. 支出を減らす」と「2. 収入を増やす」で貯蓄を増やすことを考えてください。
支出を減らすためには、まず現在の支出をすべて見直してください。一つ一つの支出が、はたしてご家族にとって必要なものなのかを今一度検討してみてください。特に、銀行口座からの引き落としで払っているものなどでは、あまり利用していないにも関わらず、惰性で契約を続けていることが少なくありません。また、割引コースの利用などで、料金を減らすことができないかも調べてみましょう。比較検討や手続きは少し面倒ですが、一度変えてしまえば、後はずっと安い料金が続きます。毎日の買い物の節約よりも、固定費の見直しから手掛けてみてください。ストレスが溜まることなく、効果が続きます。もちろん、無駄遣いをやめるといった、我慢をともなう努力も大切です。北条様の場合、小遣いとは別の交際費、その他などの項目に無駄遣いが隠れていることはありませんか。
そして、家計の改善でもっとも効果が大きいのが、収入を増やすということです。といっても、サラリーマンが急に収入を増やすのは限界があります。北条様の場合は、お子様が小さいこともあり、現在はお仕事をされていません。ご自身が収入を得ることで、家計は大きく改善されます。パートなどで、ご主人様の扶養の範囲内で働いたとしても、その効果はけっして小さくありません。すぐに働くことが難しければ、近い将来に仕事を見つけやすいように、資格を取得する、情報収集をしておくなど、今から準備をしておくとよいでしょう。ご主人に家事を協力してもらう体制づくりも大切です。
“消費税の増税+年率2%のインフレ”は、予想外に家計に影響を与えます。景気が良くなり、それに伴って収入も増えればよいのですが、そうなるとは限りません。ここは、悪い影響だけを考えて、家計の改善のきっかけとしたいものです。もしその必要がなかったとしても、家計の改善をしておくことは無駄にはなりません。