サラリーマンにも必要経費が認められるようになったと聞きました。 確定申告すれば使ったお金が戻ってくるのでしょうか?


サラリーマンにも必要経費が認められるようになったと聞きました。
確定申告すれば使ったお金が戻ってくるのでしょうか?

宮塚 達夫先生 (みやつか たつお) プロフィール
  • 所得控除を理解しましょう
  • 特定支出控除を理解しましょう

水野 良夫さん(仮名 41歳 会社員)のご相談

41歳営業サラリーマンです。同期の友人社員が、去年からサラリーマンにも経費が認められるようになったから大丈夫と言って、自腹で銀座のクラブなどで取引先の接待をして営業成績を上げています。
更に、スーツも仕事の必要経費だと言って高級ブランドのスーツを買いまくっています。いくら使ったって確定申告をすれば戻ってくるから問題ないと言っていますが、これって本当に経費になって全部返ってくるのでしょうか?もしそうなら、私も早速見習おうと思いますが、いかがでしょうか?教えてください。

水野 良夫さん(仮名 41歳 会社員)のプロフィール

家族構成 : 独身
年収 : 総額780万円
住まい : 賃貸マンション

使った金額が戻ってくるわけではありません。
課税所得から一部控除されるだけですので注意!

控除は経費が戻るわけではありません

水野さんのご友人の仰っていることは、正しくはないですが、すべて間違っているわけではありません。残念なことに、正確な理解をされていないため、ご友人は後々大きな後悔をしてしまわれることでしょう。

ご友人は給与所得者(ここでは以下サラリーマン)の「特定支出控除」という制度を知り、サラリーマンにも春がやってきたと思われたのでしょう。自腹で接待したり、高級スーツを買ったりしたのだと思われますが、残念ながら、制度の内容を十分に理解されていません。

よく耳にするのが、「経費」という言葉です。サラリーマンでも出張経費や物品を購入して立て替えていれば、経費精算で全額戻ってきます。それ以外にも食事をしたり、飲みに行ったりしたときに「ここは私が払いますよ。経費にするから大丈夫!」こんな言葉聞いたことありませんか?

大企業の重役や交際接待費が使える人だと、お客様との飲食も会社の経費で落とせたりします。中小企業の経営者や個人事業主は、事業に関連する接待飲食代などの必要経費は、所得から控除されます。クラブやスナックあるいはキャバクラで、シャンパーニュを開けたり、高級ブランデーをキープしたり、大勢の美女に囲まれていて、“なんて羽振りのいいオジサン”だと思うと、ほとんどがそういう人だったりするものです。サラリーマンって本当に恵まれていないと思う瞬間です。

しかし、サラリーマンは本当にかわいそうかというと、実はそうでもないのです。羽振りのいいオジサン達は自分で苦労して稼いだお金を、接待などでせっせせっせと仕事として遣っているだけなのです。言い換えると、営業経費として自分の利益を減らす行為をしているのです。。

一方サラリーマンには「給与所得控除額」という、使っても使わなくても所得から控除される金額が認められています。いわばサラリーマンの経費ってこの位でしょ!という金額が最初から決められているのです。

ところで、サラリーマンの経費って何でしょうか?ほとんどは会社から支給されているのではないでしょうか。それでも、個人事業主や中小企業の経営者との不公平を訴える声が多かったので、ご友人が耳にしたであろう「特定支出控除」という制度ができたのだと思います。サラリーマンの「給与所得控除額」は下記の表の通りです。

所得税の税額速算表
課税所得金額 税率 控除額
195万円以下 5% 0
195万円超~330万円以下 10% 9.75万円
330万円超~695万円以下 20% 42.75万円
695万円超~900万円以下 23% 63.6万円
900万円超~1,800万円以下 33% 153.6万円
1,800万円超 40% 279.6万円

例えば年収800万円だと、「給与所得控除額」は200万円。実際に使っていようがいまいが、200万円は経費のようなものとして認めてもらえます。
では、実際にかかった必要経費が200万円を超えた場合はどうだったのでしょうか?平成24年度までは、200万円を超えた部分を確定申告で申請すれば、所得控除の対象(特定支出控除)とすることができました。しかしながら、年収800万円のサラリーマンが200万円以上の経費を実際に支出するかというと現実的ではありません。毎月17万円弱の経費などつかっていたら、生活ができなくなってしまうからです。さらに、認められる必要経費も転居費や研修費など、日常的に支出しなさそうな用途に限られていて、利用者はほとんどいないのが現実だったのです。

しかしそんな背景があったためか、平成25年度(平成26年の申告分)から制度が改正になり、年収800万円の人の場合、200万円を超えないと申請できなかったのが、半分の100万円を超えた額へと一気にハードルが下がったのです。つまり、給与所得控除額の半分(年収1500万円超の場合は125万円)を超えれば申請できることになりました。しかも、適用される経費の範囲も拡大されたのです。

特定支出は6項目

実際に適用される項目(特定支出という)を見てみましょう。

1 制服、事務服、作業服その他の勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための費用(衣服費
→仕事用なら、アルマーニのスーツを購入しても費用なのです。
2 書籍、定期刊行物その他の図書で職務に関連するものを購入するための費用(図書費)
→仕事関係の本を自費で購入した場合などです。
3 交際費、接待費その他の費用で、給与等の支払者の得意先、仕入先その他職務上関係のある者に対する接待、供応、贈答その他これらに類する行為のための支出(交際費等)
→銀座のクラブやキャバクラで飲んでも、接待なら費用なのです。
4 職務に直接必要な技術や知識を得ることを目的として研修を受けるための支出(研修費)や職務に直接必要な資格を取得するための支出(資格取得費)
5 一般の通勤者として通常必要であると認められる通勤のための支出(通勤費)
6 転勤に伴う転居のために通常必要であると認められる支出(転居費)、単身赴任などの場合で、その者の勤務地又は居所と自宅の間の旅行のために通常必要な支出(帰宅旅費)

ご友人の場合、上記(1)衣服費と(3)交際費等を利用して、高級スーツを購入し、接待に励まれて、営業成績を伸ばされたことと思います。しかし、大きな間違いが2つあるのです。

200万円使っても戻るのは13万円

ご友人が前述した例のように年収800万円だった場合、年間200万円の支出が必要経費を認められたとしても、100万円(給与所得控除額の半分)を超えた分の100万円が戻ってくる訳ではないのです。

「特定支出控除」はあくまで所得金額から控除できるだけなのです。
ご友人の年収から基礎控除その他の控除をした本来の課税所得金額が500万円だったとすると、所得税の金額は

給与等の収入金額 (給与所得の源泉徴収票の支払金額) 給与所得控除額
180万円以下 収入金額×40% 65万円に満たない場合は65万円
180万円超~360万円以下 収入金額×30%+18万円
360万円超~660万円以下 収入金額×20%+54万円
660万円超~1,000万円以下 収入金額×10%+120万円
1,000万円万円超~1,500万円以下 収入金額×5%+170万円
1,500万円超 245万円(上限)

500万円×20%-42.75万円=57.25万円です。

これに対して100万円の「特定支出控除」が認められた場合、課税所得金額から100万円が控除されるだけなので、この場合の所得税の金額は

(500万円-100万円)×20%-42.75万円=37.25万円

であり、差額(57.25-37.25)の20万円しか還付されないのです。
200万円も使ったのに、20万円しか返ってこないのです。

さらに追い打ちをかけるようなのですが、ご友人が200万円を上記(1)と(3)のみで支出した場合、2分の1の100万円ではなく、65万円までしか認めてもらえないのです。(1)(2)(3)の勤務必要経費に限ってですが、合計で65万円までしか認められないので、使い過ぎにはくれぐれも注意が必要だったのです。

結局、ご友人の所得税の金額は

(500万円-65万円)×20%-42.75万円=44.25万円となり、57.25万円-44.25万円=13万円しか戻ってきません。

ご友人はさぞかし落胆されるのではないでしょうか。接待費に関しては、会社から出た接待費は1 次会で使い果たし、泣く泣く自腹で2次会費用を負担したような場合に領収書を保管しておく程度にしておいた方が良さそうです。

「何だ。『特定支出控除』なんてあんまり役に立たないじゃないか」と思われるかもしれませんが、海外勤務に備えて英会話スクールに通う場合や、経理部に所属する人が税理士試験の予備校に通うなど、結構よくあるケースではありがたい制度なのです。
なお、上記6つの特定支出は、いずれも給与の支払者に仕事に必要な出費であると証明してもらう必要があります。会社から証明してもらうのは難しそうと思うかもしれませんが、会社は実際にお金を払うわけではなく、ハンコを押すだけなので、説得もそう難しいことではないはずです。

大切なことは「特定支出控除」の制度を理解して、該当しそうな支出があった場合に領収書をとりあえず保管しておいて、年末に合計してみることです。ひょっとすると、プチボーナスが出るかもしれないのです。

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