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実家を相続する予定があるのに、
増税前にマイホームの購入を検討しています
村井 英一先生 (むらい えいいち) プロフィール |
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山田 亮子さん(仮名 44歳 パート主婦)のご相談
今後は、金利の上昇が見込まれる上、来年の10月にはさらに消費税が引き上げになるということで、マイホームの購入を検討しています。幸い、夫の親からの資金援助も期待できそうです。ただ、最近「そもそもマイホームを購入する必要があるのか」と疑問が生じてきました。夫は一人っ子で、いずれ親の自宅を相続することになるからです。私たちのような場合でも、マイホームを購入した方がよいのでしょうか?
山田 亮子さん(仮名 44歳 パート主婦)のプロフィール
現在の家計の状況 <貯蓄>
<ご参考>
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相続税の基礎控除額改定のことも考慮すると、
無理にマイホームを購入する必要はありません。
無理にマイホームを購入する必要はありません。
1.相続税の「基礎控除額」が縮小となります
山田様、こんにちは。消費税が10%に上がる前にマイホームを購入した方がよいのか、というご相談ですね。これは、ご家族のお気持ちの問題でもありますので、一概にどちらがよいとは言えません。ここでは、検討をする上での材料をご提供いたします。
平成26年3月までは、消費税増税前の駆け込み需要もあり、マンションの販売は高水準でした。消費税が8%になった後は、その反動減があるものと思われますが、いずれ消費税は10%に引き上げられる見込みです(現在のところ、平成27年10月の予定)。ただし、中古物件の場合は、原則として消費税はかかりませんので、その影響を考える必要はありません。
金利の面では、現在は歴史的な低金利が続いていますが、景気が回復してくれば、金利が上昇することが考えられます。また、景気の拡大が続けば、地価や建築費が上昇し、マンションの販売価格も上がっていくでしょう。そう考えると、今の金利で固定金利の住宅ローンを組んで、マイホームを購入するのは、1つの選択肢として検討に値するでしょう。
ただ、マイホームの購入は、ご家族の将来の状況までさまざまに影響を及ぼします。今の状況だけでなく、将来のことも踏まえて検討する必要があります。相続と相続税の問題も考えておきたいところです。
消費税ほどには話題になっていませんが、平成27年1月から、相続税が実質的に“増税”となります。正確には、相続税がかからない範囲である「基礎控除額」が縮小され、その結果、相続税が増えることになります。今までの基準では相続税がかからなかった人でも、今後は対象となる可能性があり、相続税が一部の富裕層だけの問題ではなくなりました。
<相続税の基礎控除額>
平成26年12月まで:基礎控除額=5,000万円+1,000万円×法定相続人の数
平成27年1月から:基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
※亡くなった人の財産額のうち、「基礎控除額」を超える部分が相続税の対象となります。
予想される相続税の金額によっては、納税資金の準備や節税対策などを考えておくとよいでしょう。相続税を少なくするための方策はいくつかありますが、もっとも大きい効果が期待できるのが、「小規模宅地の評価減の特例」という制度の活用です。
2.「小規模宅地の評価減の特例」を活用する
この特例は、地価の高騰が激しかった頃に、相続税の負担が重く、自宅を売却しなければならない事態を避けるために設けられた制度です。亡くなった人が住んでいた自宅の土地について、一定の相続人が相続する場合は、土地の評価額を8割減額する(本来の評価額の2割の金額とすることができる)というものです。評価額とは相続税を計算するための金額ですので、この分相続税が少なくなる、というわけです。この「評価減の特例」の対象になるのは、以下の人が相続した場合です。
- 配偶者
- 同居の親族
- 配偶者、同居の親族がいない場合は、マイホームを持っていない親族
※相続税の申告期限までに売却していないことなど、細かい条件があります。
平成26年12月までは240㎡までの部分がこの「評価減の特例」の対象となりますが、平成27年1月からは330㎡までが対象となります。
山田様の場合で見てみましょう。現在、ご主人様のご両親のご自宅は、お父様が所有しています。お父様が亡くなった場合にお母様がご自宅を相続されれば、この「評価減の特例」が使えますし、そもそも配偶者が相続する場合は、ほとんど相続税がかかりません。問題は、お父様あるいはお母様のどちらか、後に亡くなられた方の相続の場合です。 山田様ご夫婦が、同居をされていれば、相続するご自宅の土地に「評価減の特例」が適用されます。同居していなかった場合は、山田様ご夫婦がマイホームを持っていない場合に「評価減の特例」が適用されます。 ここで、山田様がマイホームを購入された場合と、しなかった場合で相続税がどのくらい違ってくるのかを試算してみます。ここでは、自宅の建物の評価額は0円とします。
1.マイホームを購入した場合
- 今年度に贈与税がかからない範囲で資金援助を受けます。(610万円)
- 自宅の土地に「評価減の特例」は適用されません。
遺産の評価額:自宅の土地5,000万円+金融資産(6,000万円-610万円)=1億390万円
基礎控除額:3,000万円+600万円×1人=3,600万円
相続税の対象額:1億390万円-3,600万円=6,790万円
相続税の金額:6,790万円×30%-700万円(控除額)=1,337万円
(5000万円超1億円以下の税率は30% 控除額700万円
2.マイホームを購入しなかった場合
- 生前の資金援助はありません。
- 自宅の土地に「評価減の特例」が適用されます。
自宅の土地の評価額:5,000万円×20%=1,000万円←8割減とする
遺産の評価額:自宅の土地1,000万円+金融資産6,000万円=7,000万円
基礎控除額:3,000万円+600万円×1人=3,600万円
相続税の対象額:7,000万円-3,600万円=3,400万円
相続税の金額:3,400万円×20%-200万円(控除額)=480万円
(3,000万円超5千万円以下の税率は20% 控除額200万円)
相続税の差額:1,337万円-480万円=857万円
※国税庁 相続税率
http://www.nta.go.jp/taxanswer/sozoku/4155.htm
3.ご家族のご希望を踏まえて、総合的に判断しましょう
山田様が、マイホームを購入すると、現在のまま(賃貸住宅暮らし)の場合と比べて、相続税の負担が857万円も大きくなるという計算になりました。他にも相続税を少なくする方法はありますので、この通りとなるわけではありません。しかし、別の相続税対策はどちらの場合にも使えますので、ここでは考慮しないで考えます。
賃貸住宅暮らしを続けるのと、マイホームを購入するのでどちらが得かは、計算によって異なりますが、マイホームを購入すると「家賃を生涯に渡って払い続ける」という心配がなくなります。ただし、山田様の場合のように、いずれご両親の自宅を相続することがわかっている場合は、その心配がありません。その点を踏まえると、相続税の差は小さくないと言えるでしょう。
ご両親のご自宅を相続された後に、その物件または購入されたご自宅を賃貸に出して家賃収入を得るという方法もあります。そうなると、損得の比較も変わってきます。また、今回ご紹介した以外にも「評価減の特例」があり、それが適用されるようにするのも1つの方法です。ただし、いずれも不確定要素が大きくなると、純粋な比較は難しくなります。賃貸に出す場合は、入居がつくかどうかで大きく違ってきます。
マイホームの購入は、損得勘定だけで判断するものではありません。ご家族の住居環境、満足感は大切です。住宅ローンの返済期間中の資金計画や教育資金の準備も大切です。できれば、老後の住まいの希望も踏まえて計画を立てたいものです。
たとえ相続税の負担が大きくなったとしても、その方がご家族の希望に沿った形になるのなら、無理に節税策を選ぶ必要はありません。また、税金などの制度は変更されることもしばしばですので、現在の制度が続くとは限りません。
ただ1つ言えるのは、ご両親が自宅を保有している場合は、やみくもにマイホームの購入を決める必要はないということです。