最近、景気回復とともに、地価が上昇しているというニュースをよく耳にしますが、実はこの地価にはいくつかの種類があることをご存知でしょうか? このような「地価」については、意外と知っているようでいて、知らない人も多いようです。今回のコラムでは、最近の地価の動向や、地価の種類等について、解説してみたいと思います。
公示価格、全国平均16年ぶりに上昇
今年3月下旬に、国土交通省が公表した2007年の公示価格(今年1月1日時点)によると、バブル崩壊後に下落を続けてきた住宅地と商業地の全国平均が、実に1991年以来、16年ぶりに上昇に転じました。住宅地の上昇率は、わずか0.1%で、地方圏は15年連続で下落しているものの、その下落幅は縮小傾向にあり、地価上昇は、点から面へと全国的な規模で広がりを見せているようです。
通常、地価(土地の価格)というのは、偏った動きをするもので、上昇しだすとしばらくはその傾向が続き、下落するとなかなか歯止めがかかりません。景気の回復で、土地の需要が高まり、当面は地価の上昇傾向は続くと見られていますが、上昇するまでの期間が長かっただけに、短期での動向が気になるところです。
「地価」とは?
一般的には、物の値段というのは1つしか存在しないものですが(一物一価)、土地(不動産)については、実際に取引されている価格のほかに、国土交通省や国税庁(国税局)などのそれぞれの行政が、その目的に応じて価格を設定しているため、いくつかの種類があります。
一般的に、次表のような4種類の地価の公的価格を「一物四価」といい、さらに、これらに実際に売買される取引価格である「実勢価格(時価)」を加えた5種類の地価を「一物五価」といい、よく利用されています。
地価 | 公示価格 | 基準値標準価格 | 路線価 (相続税評価額) |
固定資産税評価額 |
決定機関 | 国土交通省 | 都道府県 | 国税局 | 市町村 |
目的 | 一般の土地取引の指標や公共事業用地の取得価格算定の基礎 | 公示価格と同じ(公示価格の不足地点を補う) | 相続税・贈与税の課税標準算出のため | 固定資産税・都市計画税・不動産取得税・登録免許税の課税標準算出のため |
評価基準日 | 毎年1月1日 | 毎年7月1日 | 毎年1月1日 | 基準年度の前年の 1月1日(3年に一度の評価替) |
発表時期 | 3月下旬 | 9月下旬 | 8月頃 | 3月1日(基準年度は4月1日) |
価格水準 | 100% | 100% | 公示価格×80% | 公示価格×70% |
地価はどのようにして決まるの?
冒頭に触れた「公示価格」は、このような地価の一つですが、そもそも地価はどのようにして決まるのでしょうか?
元来、土地は全く同じものが存在しない個別性という特性を持ち、取引する人によって様々な事情があるため、取引価格である「実勢価格」もこれらの要因に左右されがちです。この実勢価格に対して、公示価格は、様々な特殊事情を排除して、自由な取引で成立したと考えられる適正な価格を示しています。
地価公示の標準地は、全国3万地点。一つの地点について、不動産鑑定士2人がそれぞれ別々に現地調査をして鑑定評価を行った後、さらに国土交通省の土地鑑定委員会がその結果を審査して、地点間や地域間のバランスなどを検討した上で、公示価格を決定しています。
つまり、実際に取引される価格を時価とした場合、公示価格=時価ではなく、ほとんどの場合、公示価格は時価よりも低くなります。また、公示価格は、1年に1回の定点ポイントにおける評価ですので、都市圏の商業地など地価が大きく変動するような地域では、時価と公示価格の格差も大きくなります。とはいえ、土地や戸建て住宅を購入する場合には、地域の価格水準として、近隣や周辺の公示価格は一つの目安となります。
同じように、他の公的地価も評価する基準日等から同一の価格ではなく、相続税や贈与税の計算のもととなる「路線価(相続税評価額)」は、公示価格の80%、固定資産税等の計算のもととなる「固定資産税評価額」は、公示価格の70%が目安となります。
多くの人に与える地価の影響・・・
「地価が上昇してもマイホームはとっくに購入したから(購入する予定がないから)関係ない」―そんな風に考える人もいるでしょう。しかしながら、物事はそんなに単純ではありません。
例えば、もうすでにマイホームを取得した人の場合、プラス面としては、地価の上昇で自宅の担保価値が上昇し、住宅ローンの借換えや家計のバランスシートの改善に寄与している点が挙げられます。また、都市周辺の戸建て住宅に住んでいる高齢者等にとっては、地価の上昇はリバースモーゲージが有利になる可能性が高まったことを示唆します。
自宅などの不動産を担保に、金融機関や自治体からお金を借りて生活資金とし、死亡時など契約終了後に、その担保不動産を売却して借入金を返済する制度のこと。
一方、マイナス面としては、不動産の保有コストの一つである固定資産税のアップがあります。これは、前述の表にもある通り、固定資産税評価額によって決まりますが、3年に1度評価替えを行っており、直近の評価基準年は平成18年でしたので、去年、納税通知書を開けてみて、金額が急に上がっていて驚いたという人もいるでしょう。
さらに、新築住宅については、新築後3年もしくは5年間、固定資産税が1/2に軽減される特例があるため、この期間経過後の場合は、固定資産税も倍になるというわけです。
また、マイホームなどの不動産を取得していない人や、今後も予定のない賃貸派の人の場合、将来的にマイホームを取得する場合の購入タイミングが難しくなったり、地価の上昇で賃貸マンション等の建設費用がかさみ、それが賃料に跳ね上がってきたりするなどの影響が少なからずあります。そもそも、地価と景気の動向は密接な関係にあることを忘れてはなりません。
いずれにせよ、地価の動向は誰もが無関心ではいられないといえます。バブル時代へ逆戻りというわけにはいかないでしょうが、冷静に判断できる知恵と知識は持っていたいものです。
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
黒田尚子