昨年の12月上旬に、生命保険会社による保険金不払い問題の調査結果が公表されました。それによると、すでに調査済みの大手を含む38社の不払い件数は全部で131万件、金額にして964億円にも達し、昨年4月の金融庁への報告時点(約44万件、約359億円)から約3倍に膨らんだ結果となりました。
中でも主契約に上乗せする特約や解約するとお金が戻ってくる失効返戻金で不払いが大量に発覚しました。保険は、請求しなければ保険金がもらえない「請求主義」が原則ですので、保険を管理する上で、自分自身で保険証券をしっかりと確認することは最低限必要といえます。
そこで、今回のコラムでは「保険証券のチェックポイント」をテーマに、保険証券の見方や確認事項などについて、保険証券の具体例を挙げながら解説してみたいと思います。
保険証券の見方をチェックする!
保険証券は、保険会社によって書き方(フォーマット)がそれぞれ異なりますが、基本的には内容面でそれ程大きな違いはありません。ここでは、一番身近な「生命保険の保険証券」について解説しますので、まずは下記の保険証券の具体例(田中さんの場合)をご一覧ください。
上記のように保険証券は、情報がたくさん記載されているように感じられますが、実際に見るべきポイントは次の5つで、意外とシンプルといえます。
(1)主契約は何か?
保険証券では、まずは主契約(ベースとなる保険)をチェックしましょう。生命保険の主契約は、一生涯の死亡保障が得られる終身保険、一定期間の死亡保障が得られる定期保険、死亡時には死亡保険金、満期時には満期保険金が受け取れる養老保険の3つが基本形で、ほかの商品はこれらの変形となります。
田中さんの保険証券の例でみると、『保険種類』の記載欄から、主契約は終身保険で、5年ごと利差配当付のタイプということが分かります。なお、保険の名称が「終身保険」となっていても、定期保険特約が付加された「定期保険特約付終身保険」であるケースが多いので勘違いしないようにしましょう。これについては、『契約内容欄』に記載の定期保険特約で確認できます。
(2)契約形態(契約者・被保険者・保険金受取人)は誰か?
次に、万一の保険金受取の際に重要となる契約形態である、契約者(保険料を支払っている人)、被保険者(保険の対象者)、保険金受取人(被保険者の死亡時等に保険金を受け取る人)がそれぞれ誰かを確認します。田中さんの保険証券の例でみると、契約者と被保険者は田中さん、また受取人は死亡時が奥様、リビング・ニーズ時(余命6ヶ月以内と診断時)が田中さんであることが分かります。
この契約形態については、生命保険金を受け取る際の税金の種類を決めるものになります。特に養老保険や年金保険などのように生存保険金を受け取る場合は、契約形態を間違えると贈与税がかかることもあるのでご注意ください。なお、ご家庭で加入している全ての保険を分類する場合は、被保険者単位で分けると管理しやすくなります。
(3)保険料は?
保険証券には、保険料に関する情報も全て記載されていますので、保険料がいくらか?いつまで払い込むか?などを確認します。また、保険には、加入から払込満了まで保険料が変わらない全期型と保険料払込満了まで自動更新していく更新型の2つがあり、そのどちらに該当するかは非常に重要な情報ですので、これについてもよく確認しましょう。
田中さんの保険証券の例でみると、『契約内容欄』の保険期間に「10年間○歳まで~自動更新」と書かれてあります。これより、この保険が更新型であり、10年ごとに保険料がその時点の年齢で再計算されるということが分かります。なお、この更新の際には、ほとんどの場合、保険料がアップしますのでご注意ください。
(4)保障内容は?
保険証券には契約時に加入した全ての保障内容が記載され、『契約内容欄』の『主契約・特約名、保険金額・年金額・給付金額』で確認できます。また、保障内容については、大きく分けて「死亡保険金」と「入院給付金」の2つがポイントになり、その内容をしっかりと把握しておくことが、保険を活用する上で非常に重要となります。
死亡保険金の保障内容の確認
まず、死亡保険金については、病気死亡の場合と交通事故など災害死亡の場合では異なることが多いです。田中さんの保険証券の例でみると、現時点で田中さんが病気で死亡した場合、一時金1,300万円(終身保険300万円+定期保険特約700万円+特定疾病保障定期保険特約300万円)+年金1,500万円(収入保障特約300万円×5回)の合計2,800万円が受け取れることが分かります。そして、災害死亡の場合は、傷害特約から災害保険金500万円が上乗せされます。
なお、特定疾病保障定期保険特約は、三大疾病保障保険特約とも呼ばれ、「ガン・急性心筋梗塞、脳卒中」にかかり、一定の要件を満たした場合に生存保険金が受け取れるものです。ただし、特定疾病以外の病気等が原因で死亡した場合でも同額の死亡保険金が受け取れる仕組みになっていますので、もらえないと勘違いしないようにしましょう。
入院給付金の保障内容の確認
次に、入院給付金については、最近の医療特約は入院1日目から支給されるものが増えていますが、一昔前に加入した特約では、ケガ・病気の場合は5日以上の継続入院で5日目から支給されるものが多く、最初の4日間は対象外となっています。また、入院日数についても、支払限度日数があり、1回の入院について120日、通算で730日などと限度が決められているので、入院が長期に渡る場合などは、支払限度日数以上は支給されないことも知っておきましょう。
田中さんの保険証券の例でみると、現時点で田中さんが成人病で40日間入院した場合、入院給付金は、36万円〔疾病入院特約18万円{=5,000円×(40-4日間)}+成人病医療特約18万円{=5,000円×(40-4日間)}〕となります。
なお、田中さんの医療特約等は、本人型というタイプですが、本人・妻子型など家族の保障があるタイプもあります。通常、後者の場合の保障は「本人×6割」となりますが、給付金は受けられますので、家族が入院した場合は、本人以外の保障も必ずチェックするようにしましょう。
(5)その他
このほか、解約返戻金(中途解約した場合に戻ってくるお金)の額も契約者の資産そのものというべきものですから、しっかりと確認しておきましょう。また、『その他内容欄』には保障内容の重要な注意事項等が記載されていることも多いので、忘れずにしっかりと読むようにしましょう。
保険料不払いの自己防衛策は?
最近は、保険会社側も保険金不払いの対策を講じてきていますが、それでもやはり自己責任として保険証券の内容をしっかりと把握した上で、保険金不払いに備えて契約者自らが身を守る工夫も必要といえます。
まず、保険契約時には、なるべくシンプルな保険を選ぶことが重要です。特約がたくさん付加された保険は何となくゴージャスですが、保障内容が複雑で、どのような場合に保険金が受け取れるのかよく分からない特約は避けた方が無難。自分が病気になって家族が代理で請求するケースも想定して、家族にも分かるシンプルな保険にした方がよいでしょう。
次に、保険金請求時には、複数の保険に加入しているのであれば、それぞれの保障内容をチェックします。その際に、「保険証券」はもちろんのこと、「約款(保険会社と契約者の権利義務を規定したもの)」や「ご契約のしおり(約款の重要事項を平易に解説したもの)」を見ることが多いので、大切に保管しておきましょう。これらには、対象となる保険の妥当な保険金支払い例が細かく記載されており、自分自身で確認することができます。
最後に、保険金受取時には、何に対してどのような保険金を受け取ったのか明細をチェックしておくことが大切です。この際に少しでも不明な点があれば、保険会社の担当者やコールセンター等に問い合わせて必ず確認しておくことをお勧めします。
黒田 尚子