毎年2月~3月は確定申告のシーズンです。平成19年分(1月1日~12月31日)の所得税の確定申告は、平成20年2月18日(月)~3月17日(月)の期間となっており、必要な人は確定申告を行います。
通常、サラリーマンやOLなどの給与所得者は、所得税が給料から源泉徴収されており、年末調整により所得税額が確定し納税も完了しています。そのため、確定申告の必要がない場合が多いですが、「医療費控除」や「住宅ローン控除」等の適用を受け、税金の還付を受けるためには、確定申告が必要となります。
また、近年、金融取引の多様化に伴い、証券税制が大きく改正されました。そのため、個人でも確定申告が必要になるケースや、確定申告を行った方が有利になるケースが増えています。こうした状況の中で、金融取引で利益や収益が発生した際にかかる税金は、金融機関で全て処理してくれると勘違いする人や、確定申告の制度を正しく理解していない人も見受けられます。
そこで今回は、身近な「金融商品の税制」と「確定申告により税金が還付されるケース」について解説してみたいと思います。
所得税と確定申告のキホンのキホン
金融商品の税制に触れる前に、所得税と確定申告の基本についてご説明します。所得税の課税形態には以下の3つがあり、これをまずはご理解ください。
総合課税 | 総合課税の対象となる所得を合算し税額を計算する | 原則確定申告が必要 |
---|---|---|
申告分離課税 | 他の所得と区別して税額を計算する | 原則確定申告が必要 |
源泉分離課税 | 他の所得と区別して税額を計算する。その税額を源泉徴収することで課税関係が完了する | 原則確定申告は不要 |
(1)所得税の計算方法
総合課税の場合、給与所得や事業所得、一時所得など7種類の所得を合算して税額を計算します。また、申告分離課税と源泉分離課税の場合は他の所得と区別して税額を計算します。
(2)確定申告の要不要
2月~3月に税務署に確定申告に行く人の多くは、課税方法が総合課税の人達です。金融取引に伴う税制についても、総合課税のものについては、基本的には確定申告が必要となります。ただし、申告分離課税や源泉分離課税についても確定申告が必要な場合がありますのでご注意ください。
(3)給与所得者の申告不要制度
サラリーマンやOLなどの給与所得者で、「年収2,000万円以下」「他に確定申告をするものがない」「年末調整が済んでいる」など一定の条件を満たしている場合、給与所得以外の所得が20万円以下であれば、確定申告が免除されるというものです。この制度により、例えば、外貨預金やFXで為替差益や売買益が発生した時や、確定申告が必要な「特定口座(源泉徴収なし)」や「一般口座」内で上場株式等や株式投信の譲渡益が発生した時も、申告が不要となる場合があります。
・この制度は上場株式等や株式投信の取引において、「特定口座(源泉徴収あり)」を利用している人は適用できない。
・「医療費控除」や「住宅ローン控除」等の適用を受けるため確定申告を行う人も適用できない。
金融商品の税制-金融取引で確定申告が必要なものと必要でないもの
それでは、ここから主な金融商品(円預金、外貨預金、FX、債券、上場株式等、投資信託)の売却益や配当・利息等に対して、どのように課税されるのかを説明していきます
円預金について
普通預金、貯蓄預金、定期預金などの身近な円預金では、利息が課税対象となります。円預金の利息は、利息受取時に20%(所得税15%、住民税5%)の源泉徴収が行われるので確定申告の必要はありません。
外貨預金について
外貨普通預金、外貨定期預金などの外貨預金では、為替差益と利息が課税対象となります
(1)為替差益
外貨預金の為替差益は、雑所得として総合課税の対象となりますので確定申告が必要です。また、為替差益は、雑所得内で他の所得と損益通算することができます。
※「給与所得者の申告不要制度」が適用できる場合は申告不要。また、主婦など他に所得がない場合で当金額が38万円以下の場合も申告不要
(2)利息
外貨預金の利息は、利息受取時に20%の源泉徴収が行われるので確定申告の必要はありません。
FX(外国為替証拠金取引)について
2007年に脱税問題で社会的に話題となったFX(外国為替証拠金取引)では、反対売買などの決済によって1年間に確定した売買益が課税対象となります。通常のFX(店頭取引)では、利益が発生した場合、雑所得として総合課税の対象となりますので確定申告が必要です。
※「給与所得者の申告不要制度」が適用できる場合は申告不要。また、主婦など他に所得がない場合で当金額が38万円以下の場合も申告不要
※店頭取引ではないFX「くりっく365(取引所取引)」は、申告分離課税として一律20%の税率で課税され、株価指数先物取引や商品先物取引など、他の取引所の先物取引と損益通算も可
債券について
債券では、償還期限を迎えた際に発生した償還差益や、市場で売却した際に発生した売却益、そして利子が課税対象となります。主な債券の課税方法と税率は以下の通りです。なお、償還時に為替差益が発生した場合は、「外貨預金の為替差益」と同様の処理が必要です。
種類 | 償還差益 | 売却益 | 利子 |
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国内利付債 | 雑所得として総合課税。申告は必要※1 (税率は、総合課税に適用される税率) | 原則非課税 | 20%の源泉分離課税。申告不要 |
国内割引債 | 購入時に18%の源泉分離課税。申告不要 | 原則非課税 | - |
外国利付債 | 雑所得として総合課税。申告必要※1 (税率は、総合課税に適用される税率) | 原則非課税 | 20%の源泉分離課税。申告不要※2 |
※1.「給与所得者の申告不要制度」が適用できる場合は申告不要。また、主婦など他に所得がない場合で当金額が38万円以下の場合も申告不要
※2.外国で源泉徴収された場合、外国での徴収税額とあわせて20%となるように調整される
上場株式等について
上場株式等といった場合、上場株式の他、ETF、REIT、上場新株予約権付き社債、外国市場上場株式などが該当します。通常、上場株式等では、譲渡(売却)した際に発生した譲渡益や配当が課税対象となります。
(1)上場株式等の譲渡益
上場株式等の譲渡益は、1年間の損益を通算して計算します。そして、この譲渡益については、2003年分以降、課税方法が「申告分離課税」に一本化されたので、原則確定申告が必要です。
2008年12月31日まで | 10%(所得税7%、住民税3%) |
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2009年1月1日以降 | 20%(所得税15%、住民税5%) |
ただし、投資家の負担を軽減すべく、特例により特定口座制度が設けられており、次に説明する証券口座のうち、「特定口座(源泉徴収あり)」において取引を行う場合、確定申告は不要となります。
特定口座(源泉徴収あり) | 金融機関が投資家のかわりに1年間の損益を計算して「年間取引報告書」を作成し、譲渡益が発生した場合には税金の納付を行ってくれる。そのため、この口座で譲渡益が発生した場合、確定申告の必要はない。 |
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特定口座(源泉徴収なし) | 金融機関が年間取引報告書を作成してくれるが、確定申告は投資家自身が行う。 |
一般口座 | 損益計算も確定申告も投資家自身が行う。 |
株式の取引を行うための証券口座は、「特定口座(源泉徴収あり)」「特定口座(源泉徴収なし)」「一般口座」の3つから選ぶことができます。なお、「特定口座(源泉徴収あり)」で取引をして申告の必要がないという人も、「繰越控除の特例」や「配当控除」の適用を受けるとき、また損益通算により払い過ぎた税金の還付を受けるときなどは確定申告が必要です。
(2)上場株式等の配当
上場株式等の配当については、配当支払い時に源泉徴収が行われるので、確定申告の必要はありません※。ただし、「配当控除」を利用するため、総合課税を選択する場合には、確定申告が必要です。※大口個人株主(5%以上保有)が受ける配当金は確定申告が必要。
2009年3月31日まで | 10%(所得税7%、住民税3%) |
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2009年4月1日以降 | 20%(所得税15%、住民税5%) |
投資信託について
投資信託では、売却(買取・解約・償還)時に発生した売却益や分配金が課税対象となります。課税方法や税率は、以下のように投資信託の種類ごとに定められています。
公社債投信 | 公社債投信の売却益及び普通分配金については、20%の源泉徴収が行われるため、確定申告は不要。また、特別分配金は非課税 |
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国内株式投信 | 国内株式投信は、基本的に上場株式の課税関係に準じる |
(1)国内株式投信の売却益
国内株式投信の売却益は、売却方法により課税方法や損益通算ルールが異なります。
・「買取」による売却益は申告分離課税が原則ですが、「特定口座(源泉徴収あり)」内で売却益が発生した場合には確定申告は不要。なお、買取では、確定申告により損益通算が可能。
・「解約」や「償還」による売却益は、源泉徴収が行われるため、確定申告は不要。
(2)国内株式投信の分配金
国内株式投信の普通分配金は、源泉徴収が行われるため、確定申告は不要です。ただし、「配当控除」を利用して総合課税を選択する場合には、確定申告が必要です。また、特別分配金は非課税となっています。
2008年まで(普通分配金は2009年3月31日まで) | 10%(所得税7%、住民税3%) |
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2009年以降(普通分配金は2009年4月1日以降) | 20%(所得税15%、住民税5%) |
確定申告により税金が還付される可能性があるのはどんな時?
確定申告が不要でも、申告により税金が還付されるケースがあります。ここでは、「確定申告の必要はないが、確定申告をする方が有利となるケース」を3つほどご紹介します。
【ケース1:ある証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」において上場株式の譲渡益が出ているが、他の会社の口座では株や株式投信等の譲渡損失が発生した場合】
☆上場株式等の損益通算がポイント!☆
上場株式等や株式投信の譲渡損益は、すべての口座における年間の損益を通算して計算します。
上場株式等の譲渡益と損益通算が可能なもの | 株式投信、ETF、REIT、外国株、信用取引の売却時に発生した損失 |
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例えば、ある証券会社の「特定口座(源泉徴収あり)」において譲渡益が発生し、他の会社の口座では損失が発生しているという場合、損益通算をしなければ、税金を払い過ぎていることになります。この場合、確定申告を行うことにより、この払いすぎた税金の還付を受けることができます。また、株式投信についても損益通算が可能ですが、売却方法により損益通算ルールが異なります。
株式投信の損益通算ルール | 株式投信の損益通算ルール | |
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買取 | 利益・・・○ | 損失・・・○ |
解約・償還 | 利益・・・× | 損失・・・○ |
株式投信については、解約・償還により発生した利益は損益通算ができない!
【ケース2:上場株式や株式投信について1年間の損益を計算したら損失になった場合】
☆繰越控除の特例がポイント!☆
1年間の損益を計算した結果、損失になってしまったという場合には、確定申告を行うことにより、「繰越控除の特例」の適用を受けることができます。繰越控除の特例では、証券会社等を経由して取引した上場株式等や株式投信について、年間を通して損失の方が多かった場合、最長3年間まで損失を繰り越し、その期間に発生した譲渡益と相殺することができます(損失が発生したら上乗せされます)。
繰越控除の対象となるもの | 上場株式等(取引所上場株式、上場新株予約権付き社債、ETF、REIT、外国市場上場株式)、株式投信 |
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1度この特例の適用を受けたら、損失が発生した年から控除が完了するまでの間は、取引が全くない年でも継続して確定申告をする必要がある。
【ケース3:所得が少ないので、上場株式の配当や株式投信の分配金について、「配当控除」の適用を受けたい場合】
☆配当控除の適用がポイント!☆
株式の配当や株式投信の分配金については源泉徴収により課税処理が終了しますが、確定申告により「総合課税」を選択することもできます。この場合、総合課税により算出された税額から、一定の金額を「配当控除」として差し引くことができます。
総合課税における税率は所得に応じて異なるため、課税所得の額により、源泉分離課税の方が有利か、総合課税として「配当控除」の適用を受ける方が有利なのかが変わってきます。例えば、株式の配当については、他に総合課税とする株式譲渡所得等が全くない場合には、課税所得が330万円以下であれば、確定申告により「配当控除」の適用を受ける方が有利となります。
・米国株、中国株など外国株から受ける配当や、公社債投信の分配金、REIT、信用取引の配当金相当額は配当控除の対象とならない。
・株式投信については、組み入れ資産に応じて配当控除の割合が異なる。
まとめ
以上見てきたように、金融商品の税制は、商品や取引方法などによって結構異なっています。また、現行の証券税制では、確定申告を行うことにより特例が受けられたり、税金が還付されたりするなどの特典があることが分かります。その反面、証券税制ばかりに気をとられると、全体として税金が多くなってしまうというケースも考えられます。
例えば、公的年金受給者や主婦など世帯主の扶養家族となっている場合には、確定申告を行うことにより、扶養家族の条件から外れる可能性があります。この結果、世帯主の所得税や住民税が増えたり、今までは世帯主の扶養家族となっていた社会保険についても、自分で加入し、保険料を払うことが必要になったりする場合があります。
こうした事態を避けるために、例えば「特定口座(源泉徴収あり)」を利用し、確定申告しない方法を選択することや、確定申告の前に税金や社会保険料への影響を確認することが大切です。
最後に、金融商品の課税関係については個々の状況に応じて扱いが異なる場合がありますので、不明な点がある時には、専門家や税務署に相談してみるのもよいでしょう。
黒田 尚子