マネー管理において、「資産三分法」という言葉をたまに聞くことがあります。この資産三分法とは、手持ちの資産を資金の性質別に3つに分類するというもので、マネープランを立てる際などに結構役立つ概念なのですが、意外と曖昧な人も多いのではないでしょうか?今回のコラムでは、この「資産三分法」をテーマに、具体的な分類の考え方や実際のマネープランにおける活用方法などについて解説してみたいと思います。
「資産三分法」とは?
資産三分法とは、手持ちの資産を、
(1)流動性資金(イザという時のためのお金)
(2)使用予定資金(使う予定が決まっているお金or目減りしては困るお金)
(3)利殖性資金(長期運用が可能なお金orある程度収益を求めるお金)
の3つに分類して運用するという考え方です。
例えば、金融機関やファイナンシャル・プランナーと資産運用の相談をする際に、「手持ち資産をどれくらいまでなら投資に回すことができますか?」といった質問を受けることがあります。このような質問に正しく答えるためには、自分自身のリスク許容度(どれだけのリスクに耐えられるかの度合い)を的確に把握し、資産三分法で分類した利殖性資金がどれくらいあるのかを予め把握しておくことが必要になります。
「資産三分法」の分類方法
では、ここから資産三分法の具体的な分類について見てみましょう。
(1)流動性資金の分類
第一に、流動性資金については、病気やケガ、災害などのイザという時に備えるための資金が該当します。金額の目安としては、サラリーマン世帯などであれば、生活費の6ヵ月分(100万円)程度と言われています。具体的な商品を選ぶポイントとしては、何か起きた場合でもすぐに対応できるように利便性や現金化のしやすさといった点が重要となり、普通預金や貯蓄預金、MMFなどが一般的なものとして挙げられます。
主な資金内容 | 病気やケガ、災害などイザという時のための予備費 |
主な運用商品 | 普通預金、通常貯金、貯蓄預金、短期の定期預金、MRF、MMF 他 |
(2)使用予定資金の分類
第二に、使用予定資金については、現在の手持ち資産を取り崩して5年以内に使うことが決まっている資金や、数年後に使う可能性のある資金が該当します。例えば、「来年は車の買い替え費用として200万円」、「3年後は子どもの大学進学費用として150万円」など、実際のライフプランに応じてお金を振り分けます。また、特に資金使途が決まっているわけではないけれども、目減りしては困るお金などもこれに分類しておけば良いでしょう。
具体的な商品を選ぶポイントとしては、この資金の性質上、いずれも安全確実な商品をベースに運用するのがベターですが、運用期間が5年以上とある程度長い場合、元本確保商品よりも多少利回りの高い商品に預け入れて「ちょっとだけリスクをとってみる」のも良いでしょう。ただし、どのような時に元本割れが起こるのかなど、万が一の場合のリスクもしっかりと確認してから利用することが大切です。
なお、勤務先に財形貯蓄制度がある会社員の方の場合、給与天引きで確実に貯められ、しかも一定の非課税制度や低利で有利な財形融資(教育、住宅)が受けられるというメリットがありますので、この制度を優先的に活用するのもお勧めです。
主な資金内容 | 住宅購入資金・教育資金・車の購入資金など5年以内に使う予定があるお金 or 目減りしては困るお金 |
主な運用商品 | 定期預金、積立、公社債投信、個人向け国債、財形貯蓄 他 |
(3)利殖性資金の分類
第三に、利殖性資金については、10年以上使う予定がなく、長期運用が可能な資金や、ある程度収益を求める資金が該当します。例えば、10年以上先の教育資金や退職後の老後資金などが挙げられます。
具体的な商品を選ぶポイントとしては、やはり投資信託や外貨建て金融商品など収益性に優れた商品ということになりますが、利殖性資金で最も誤解を受けやすいのは、手持ちの資金のうち、前述の流動性資金と使用目的資金を振り分けた残りの全てを積極的に運用しても良いと判断しがちな点です。
資産運用においては、投資環境は常に変化しており、リスクを分散させるためにも、利殖性資金の全てを積極的に運用するのではなく、常に投資余力(余剰資金)を残して、心にゆとりを持って運用することが大原則といえます。
主な資金内容 | 教育資金や老後資金など10年以上使う予定のない資金 or ある程度収益を求める資金 |
主な運用商品 | 投資信託、外貨建て金融商品、株式、債券、変額年金 他 |
「資産三分法」のマネープランにおける活用ポイント
この資産三分法にしたがって、手持ちの資金を分類しておけば、マネープランにおいて様々なシーンで役に立ちます。
例えば、金融商品を選ぶ際には、
- その資金がどのような性質なのか?(=運用目的)
- 運用する期間がどれくらいなのか?(=運用期間)
がある程度はっきりしてくるため、比較的容易に金融商品を絞れるようになります。
また、住宅を購入する際には、「手持ち資金のうち、どれだけ頭金や自己資金として使っても大丈夫か?」という疑問に対して、少なくとも流動性資金と使用予定資金(住宅分を除く)を差し引いた金額であれば、頭金等に充当してしまっても、後で急にお金が必要になって困った!という羽目に陥ることはなくなります。
さらに、定年退職後のリタイアメントプランを考える際にも、「手持ち資産5,000万円をどのように運用したら良いのか?」という疑問に対して、流動性資金(病気・介護のための費用、お葬式費用など)、使用予定資金(自宅のリフォーム費用、子どもや孫の援助費用、子供に残す資金など)、利殖性資金(旅行や趣味のための費用など)と分類しておけば、いろいろと使い過ぎて老後資金があっという間に枯渇してしまった、あるいは無くなるのが恐くて使えない・・・などという不安も軽減されます。
このように、資産三分法には、将来必要な資金に手を付けてしまわないように資金を予め分けておくことで、自分をコントロールする効果(メンタル・アカウンティング)もあります。
「資産三分法」の注意点は・・・
以上から、資産三分法は、マネープランにおいてとても便利なものですが、資産運用上の注意点がいくつかあります。それは、自分の手持ちの資金を細かく分類してしまうことによって、運用の効率が悪くなってしまうという点です。
また、住宅ローンや自動車ローン、カードローンなどの借金を抱えているのに、老後資金のためにといって、株式や投資信託などで運用に励むのは考えものです。そのような場合は、貯蓄よりも借金返済を優先的に行うことの方がより重要といえます。
最後に、資産運用を行う際には、負債も含めて家計や資産の状況を把握し、また将来的なライフプランも踏まえて効率の良いマネープランを立てて実行することが重要です。そのためには、資産三分法にあまりとらわれ過ぎて、運用効率を悪化させてしまうことのないよう、トータルにマネープランを考えることが大切といえます。
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)
黒田尚子