第70回:生命保険の保険料、見直しをするとなぜ安くなるの?


生命保険の保険料は、住宅ローンの返済に次いで支出額が大きいことが多く、最近は家計節約の一環として、保険の加入後に見直しを行う方も少なくありません。同じ保障額でも、貯蓄型を掛け捨て型にしたり、同じ種類でもより安い保険会社を利用したりすることで保険料を下げることができるためです。

ではなぜ、そうした見直しで保険料が安くなる可能性があるのでしょうか?
今回は、生命保険の保険料の仕組みに焦点をあて、特に、保険の原価、保険料を計算する3つの基礎率、保障内容の検討ポイントなどについて解説してみたいと思います。

保険料の仕組み1:保険の原価について

ここでは、生命保険の死亡保障(定期保険、終身保険等)を前提にしていますが、まず、保険の加入にあたって「保険の原価」について考えたことはありますか?

一般に、どんな保険商品でも、支払っている保険料がすべて、保障のために使われているかというと、実は違います。そもそも私たちが保険会社に支払っている「保険料」は、「純保険料」に「付加保険料」がプラスされて算出されています。

保険会社に支払う保険料 = 純保険料 + 付加保険料

純保険料とは、将来の保険金支払いのために支払う部分で、死亡保険金や満期保険金(生存保険金)などの財源になるものです。この部分が、生命保険のいわゆる「原価」に当たり、年齢や性別、金利水準などによって変化し、これは後述する「予定死亡率」と「予定利率」によって計算されます。

純保険料の中身 保険金や給付金、満期保険金などの財源になる部分

一方、付加保険料とは、保険事業を営むために必要となる経費として使われる部分です。この部分が、保険事業を運営するために必要とされる「コスト」に当たり、これは後述する「予定事業費率」によって計算されます。この付加保険料の中身をさらに細かく見ていくと、以下のようなもので構成されています。

付加保険料の中身 予定新契約費・・・新規の契約を成立させるために必要となる経費
予定集金費・・・保険料を集金するために必要となる経費
予定維持費・・・満期まで契約を管理するために必要となる経費

保険料の仕組み2:保険料を計算する3つの基礎率について

次に、生命保険の保険料は、契約時に確定する3つの基礎率(予定率)である「予定死亡率」と「予定利率」と「予定事業費率」に基づいて計算され、これらの予定率は保険種類や契約時期によって異なります。そして、前述したように、予定死亡率と予定利率は「純保険料」の計算の際に、また予定事業率は「付加保険料」の計算の際に使われています。

保険料の計算 純保険料・・・予定死亡率と予定利率より計算
付加保険料・・・予定事業率より計算
3つの基礎率 内容説明
予定死亡率 死亡保障の保険料の計算で使われる死亡率。過去のデータから性別・年齢別に死亡者数を予測して、それに基づいて将来の保険金などの支払いにあてる必要額を計算。
予定利率 保険会社が予め約束する運用利率。保険料算出の際には、将来の運用益を予め見込み、その分だけ保険料が割り引かれる。
予定事業費率 保険会社が保険料算出の際に、予定新契約費や予定集金費、予定維持費といった必要コストを予め見込んだもので、その諸経費分の割合。

上記の表の説明では、少し教科書的でわかりにくいので、生命保険(死亡保障)の計算例を一つ挙げてみましょう。たとえば、契約者が1万人の保険があったとして、そのうち過去のデータから1年間に1万人中2人が亡くなるとします。この場合、亡くなった人の遺族に保険金300万円が支払われる契約だったとすると、個々の保険料は、300万円×2人÷1万人=600円/年となります。

つまり、保険料を加入者全員から毎年600円ずつもらえば、この保険は成り立ち、これが「純保険料」に該当するものです。また、最初にご説明したように、生命保険の保険料は、純保険料だけでなく、保険運営にかかる経費を各人が負担する付加保険料を足したものになりますので、もし付加保険料が400円だったら、600円+400円=1000円で、トータルの保険料は1000円/年となります。

保険料の仕組み3:保障内容の検討ポイントは?

以上が保険料の基本的な仕組みですが、実際の保険は様々な年齢層の人々から構成されていますので、純保険料部分については、年齢ごとに保険料を計算して、死亡率が低い若者ほど保険料が安く、死亡率が高い中高年者ほど保険料が高くなる仕組みになっています。

また、生命保険で、死亡保険金だけでなく、満期保険金や生存給付金などもあるタイプの場合、死亡保障の原価のほかに、積立に回る分も純保険料に含まれるため、解約返戻金などのない掛け捨てタイプに比べると、保険料が高くなることも理解できるでしょう。

さらに、付加保険料部分については、保険会社が独自に設定しているため、コストのかからない仕組みやコストを抑える努力をしている会社ほど低くなります。そのため、同じような保険種類、同じような保障内容であっても、保険会社によって保険料が大きく異なることもあるのです。

では、こうした保険料の仕組みを頭に入れた上で、保険に新たに加入する際に、あるいは見直しをする際にはどのような点に気をつければいいのでしょうか?

まず、保険の加入または見直しの前に、自分や家族に必要な保障をトータルで考えることが必要です。そして、保険を最適化するポイントとして次の3つが挙げられます。

1.万一のときの必要保障額をしっかりと把握し、適切な保険金額を設定する
ライフステージに応じて必要保障額は変化。保険の入りすぎの場合もあり。また、住宅を購入し、住宅ローンの団信に入った場合、生命保険の保険金額を減らせることも。
2.万一の保障重視か、老後の積み立て重視かなど、保険の加入目的を明確にする
定期保険と終身保険の保障額と保険料負担のバランスに注意
3.複数の保険に入っている場合は、保障の無駄をなくす
医療保障や傷害保障などの特約(or単体保険)のダブリや掛け過ぎに注意

次に、保険商品を具体的に検討する際には、保険料を安く抑えるためのポイントとして次の3つが挙げられます。

1.同じ保障額をカバーするなら、純保険料の高いものより安い保険種類を選ぶ
たとえば、純保険料が高い「終身保険」よりも、純保険料が安い「定期保険」や「収入保障保険」など掛け捨ての商品の方が保険料は安くなる
2.同じ保険種類なら、付加保険料の安い商品を選ぶ
つまりは「保険料を比較して選ぶ」ことが大事。純保険料はほぼ同じでも、保険会社によって付加保険料が異なるので、保険料を抑えて入りたいのであれば、比べて入ることは一つの鉄則。
3.同じ保険種類でも、純保険料の安い商品を選ぶ
同じ保険種類でも純保険料が安くなるものがある。たとえば、健康体割引や非喫煙割引などがついた商品。そうした割引のあるタイプについては、選択肢に加えて比較検討。

以上のポイントに気をつけて、納得のいく保険を見つけてくださいね。

ちなみに、保険料の引き下げにはつながりませんが、保険料の仕組みを理解すると、貯蓄型の保険選びの目安もわかります。貯蓄型の保険は、前述の「予定利率」という割引率が大きく影響するので、たとえば、こども保険(学資保険)や個人年金保険などに加入する際には、この予定利率を聞いて比較するのも一つの方法といえます。

2009年2月
マネーカウンセリングネットWealth
ファイナンシャルプランナー、シニアリスクコンサルタント
豊田眞弓