100年に1度ともいわれる世界的な不況の中、日本でも様々な経済対策が実施されています。その中の1つとして、政府が打ち出しているものに「クルマの購入支援」があります。具体的には、2009年4月から国土交通省が定める排気性能と燃費基準を満たすエコカー(低公害車)を対象とした「エコカー減税」と「エコカー購入補助金」の2つが挙げられます。
一般に、クルマ(車)の購入や保有は、家計において大きな固定支出となりがちですが、今回のコラムでは、政府が実施する車の購入支援について、家計の視点から、その概要やポイントを説明してみたいと思います。
エコカー減税はどのような制度?
エコカー減税とは、正式名称を「環境性能に優れた自動車に対する自動車重量税・自動車取得税の特例措置」といい、政府(国)の景気対策の一環として、平成21年度(2009年)の税制改正に盛り込まれた3年間の自動車の税金に関する特例措置です。
具体的には、電気、天然ガス、ハイブリッド、ディーゼル、低燃費・低排出ガス認定の自動車など、定められた排気性能と燃費基準値をクリアした車について、自動車重量税や自動車取得税を50~100%減税するものです(車種・グレード・車両重量等によって適用内容が異なる)。特に、低炭素社会の実現など「エコ」を重視していることもあり、クリーンディーゼル車やハイブリッド車では、自動車取得税と自動車重量税が全額免除されています。
自動車取得税 | 都道府県が自動車の取得に対して課税する税金。取得価額が50万円を超える自動車の取得に対し、その取得者に対して課す。 |
自動車重量税 | 国が車検などの際に自動車の重量等に応じて課税する税金。自動車検査証の交付等を受ける者及び車両番号の指定を受ける者が納税義務者となる。 |
自動車税 | 都道府県が4月1日を基準として毎年課税する、自動車の持ち主に対して課税する税金(毎年5月末までに支払い)。税率は車の種類によって異なり、年間定額制。なお、軽自動車等に対して課されるのは軽自動車税(市町村税)。 |
車の減税については、従来から「グリーン税制」が導入されており、自動車取得税の軽減と購入した翌年にかかる自動車税の軽減がなされていましたが、このエコカー減税がグリーン税制の特例措置として2009年4月から実施されたことに伴い、これらを総称して、「新グリーン税制」と呼ばれることもあります。
グリーン税制について |
地球温暖化防止や大気汚染防止の観点から、自動車の燃費効率に応じて課税額に差を付け、環境にやさしい車の開発や普及促進を図るための制度。 |
このエコカー減税では、自動車重量税は2009年4月1日~2012年4月30日に取得あるいは車検を受けた車両について、自動車取得税は2009年4月1日~2012年3月31日に登録・届出された車両について適用されます。なお、対象となる車は、下記の表のような条件をクリアした車だけでなく、一部の中古車にも適用され、また自動車重量税については、すでに保有している車も減税される場合があります。
ちなみに、減税となる対象車は国土交通省のサイトに掲載されているので、サイトで確認するか、あるいは販売店やメーカーなどに聞いてみるといいでしょう。
優遇
税種 |
軽減 時期 |
適用 期間 |
適用 対象 |
クリーンディーゼル車 | ハイブリッド車 | ガソリン車 | |
平成17年度排ガス基準75%低減 + 平成22年度燃費基準+25%達成 |
平成17年度排ガス基準75%低減 + 平成22年度燃費基準+20%または+15%達成 |
||||||
自動車取得税 | 購入時 | 平成21年4月1日から平成24年3月31日まで | 新車 | 免税 | 免税 | 75%減税 | 50%減税 |
平成22年3月31日まで | 中古車 | 平成21年9月30日まで1%減税、平成22年3月31日まで0.5%減税 | 1.6%減税 | 取得価額から30万円控除 | 取得価額から15万円控除 | ||
自動車重量税 | 取得時 か 車検時 |
平成21年4月1日から平成24年4月30日まで | 新車所有者 | 免税 | 免税 | 75%減税 | 50%減税 |
自動車税(グリーン税制を継続) | 取得翌年分 | 平成22年3月31日まで | 新車所有車 | - | 50%(軽自動車除く) | 50%(軽自動車除く) | 25%(軽自動車除く) |
エコカー購入補助金はどのような制度?
エコカー減税と共に、2009年4月から導入されたもう1つの制度が、「エコカー購入補助金」です。これは、正式には「環境対応車への買い換え・購入に対する補助制度」といい、環境性能が劣る古い車を廃車にするなどして新車のエコカーを購入した場合に補助金が支給される制度で、条件を満たせば、エコカー減税と併せて適用されます。この補助金は、具体的には、所定の廃車を伴う場合とそうでない場合とで異なります。
まず、登録から13年経過した車を廃車にして、所定の基準を満たした「平成22年度燃費基準達成車」に買い替えると、普通車で最大25万円、軽自動車で最大12.5万円の補助金が支給されます。また、廃車の対象となる車は、過去1年以上使用していたものに限られます。この制度では、普通車の場合、査定ゼロでも最大25万円で下取りされるようなものであり、お得度は非常に高いといえます。
一方で、廃車を伴わない場合でも、普通車で10万円、軽自動車で5万円の補助金が支給されます。ただし、廃車を伴う場合に比べて、エコカー基準がやや厳しめになり、「平成17年度基準排出ガス75%低減」のレベルで、なおかつ「平成22年度燃費基準+15%以上」を達成している車が条件となります。
いずれの場合でも、補助金を利用して購入した新車は、新車登録後1年以上の保有・使用が求められます。また、補助金の適用は、2009年4月10日から2010年3月31日までに新車登録した車が対象となりますが、注意すべきこととして、約3700億円の予算がなくなった時点で終了となるため、利用者が多いほど早く終了する可能性もあります。
なお、補助金を受け取るには申請が必要になり、新車の登録証明書、廃車証明書、申請書などをそろえて審査機関に提出し、問題がなければ指定した口座に振り込まれます。
<エコカー購入補助金の概要>
優遇税種 | 期間 | 条件 | 対象車 | 補助金 |
廃車を伴う新車購入(※対象となる車は過去1年以上使用していたもの) | 平成21年4月10日から平成22年3月31日まで(予算枠がなくなり次第終了) | 初度登録から13年が経過した車を廃棄にして新車を購入し、1年以上乗る | 平成22年度燃費基準 | 普通車25万円(最大)、軽自動車12万5000円(最大) |
新車購入補助 | 新車を購入して1年以上乗る(上記の車の廃棄を問わない) | 平成17年度排ガス基準75%低減 + 平成22年度燃費基準+15%以上 |
普通車10万円、軽自動車5万円 |
家計へのメリットと注意点は?
一般に不況期では、車の購入に躊躇してしまいますが、現在、政府が実施している購入支援制度をうまく活用すれば、大きなメリットがあるのは確かです。実際に、減税と補助金を合わせると、車種によっては40万円を超えてお得になるケースもあり、購入に全く無理がない家計にとっては、大きなチャンスといえます。また、ガソリン代を大きく節約できるハイブリット車などに買い替えると、さらにメリットが高まります。
しかしながら、今回の世界的な大不況は家計を大きく直撃し、週末ドライバーなどの世帯では、車を手放してレンタカーなどに切り替えたり、あるいは、公共交通が充実していない地域に住んでいて生活必需品であっても、車を2台から1台に減らしたりする世帯が出るなど、車は固定費削減の柱にもなっています。
そのため、家計的にクルマの維持にムリがある世帯では、減税や補助金など目先のメリットだけで購入するのは避けた方が賢明といえ、少し長期的な視点で家計を捉え、保有を検討すべきでしょう。たとえば、子供の教育資金の貯蓄ができていないのに、車にお金を使うのはバランスが良くない状態であり、そのままでは、その後の生活を悪化させることになりかねません。
また、30万円、40万円のお得があったとしても、車を購入するマイカーローンの金利や各種税金、あるいは維持費としてかかる駐車場代、車検代、自動車保険料、ガソリン代など、家計にとっては大きな負担になるのは確かです。それゆえ、ライフプラン上のクルマの買い替え時期と、家計のゆとり度を考えて、慎重に判断することが大切といえます。
最後に、今回のエコカー減税・補助金を利用するかどうかに限らず、現在車を保有している、あるいは買い替えて今後も保有し続ける場合は、下記のチェック項目で家計がどのような状態にあるかを確かめてみてください。もしも×がつくような場合には、他の支出費目も含めて、家計の見直しをして改善を図りましょう。また、いずれも○であれば問題はありませんので、景気浮揚のためにもエコカーの購入をするのもよいでしょう。
<クルマ保有の家計チェック>
□住居費と車関係費で手取り月収の4割程度以内に抑えられている |
□教育資金やマイホーム資金(繰上返済用資金)、車の買換資金など、必要な貯蓄が計画的にできている |
2009年9月
マネーカウンセリングネットWealth
ファイナンシャルプランナー、シニアリスクコンサルタント
豊田眞弓