第95回:終身保険、解約返戻率という視点から見た場合の活用法は?


生命保険の中でも「終身保険」は、身近なものの一つですね。通常、保険期間が「一生涯」である終身保険は、いつ、いくつになっても必要になる葬儀や相続の費用をカバーするために利用するのが基本的な活用方法です。その一方で、終身保険には『解約すると、解約返戻金が受け取れる』という仕組みがあり、その仕組みを活かして、教育資金や老後資金の準備を目的として活用する方法もあります。

今回は、終身保険の仕組みや特徴を確認した上で、教育資金や老後資金の準備を目的とした活用方法や注意点をチェックしてみましょう。

終身保険とは、どのようなもの?

終身保険とは、保険期間が「終身」で、被保険者が死亡した、あるいは高度の障害状態になった場合に保険金が支払われる保険で、満期保険金はありません。一般に保険料は保険期間を通じて一定で、保険料のかなりの部分が保険金支払いの元になる「積み立て部分」に回され、中途解約した場合には解約返戻金が受け取れます。

通常、「終身保険」というと、契約時に保険金額や解約返戻金の金額が約束されている(=定額である)定額終身保険を指します。また、これ以外にも、市場金利に応じて積立利率が見直されて保険金額と解約返戻金額が増える積立利率変動型終身保険や、保険料払込期間中の解約返戻金額を低く抑えることによって保険料を割安にした低解約返戻金型終身保険もあります。さらに、積立利率変動型終身保険に、低解約返戻金型の特約をつけられる終身保険も発売されています。

定額終身保険 契約時に保険金額や解約返戻金の金額が約束されている。

積立利率変動型
終身保険
契約時に最低保証利率が決められ、その後、市場金利が上がれば、「最低保証利率+1%」「最低保証利率+2%」といった高い金利に見直されて運用される。また、最低保証利率が決まっているので、増えることはあっても減ることはない。なお、保険料は、定額終身保険よりもやや高め。

低解約返戻金型
終身保険
保険料が定額終身保険よりも割安な代りに、保険料払込期間中の返戻率は定額終身保険の7割程度に抑えられる。また、保険料払込終了後は通常の返戻率に戻るので、保険料払込終了後に解約するのであれば、定額終身保険に比べて少ない払込保険料で、同水準の解約返戻金を受け取ることができる。なお、保険料払込期間中に解約すると、通常よりも少ない解約返戻金しか受け取れないので注意が必要。

このように、終身保険にもいろいろありますが、マネープランの中での運用手段として終身保険を利用する場合には、保険料が割安な「低解約返戻金型」を利用した方が運用効率はよくなるでしょう。また、将来の金利上昇の可能性が高いと思うなら、「積立利率変動型」もよいでしょう。いずれにせよ、解約した場合の返戻率については、商品によっても、契約年齢・性別等によっても違ってくるので、複数の見積もりを取ったり、シミュレーションをしたりして、比較検討した上で選ぶことが大切です。

保険料払込期間と解約返戻金の関係は?

終身保険の保険料払込期間には、保険期間と同様に一生涯払い続ける「終身払いタイプ」と、60歳・65歳といった一定年齢、あるいは10年・15年といった一定期間で保険料の支払いが終わる「短期払いタイプ」があります。

一般に同じ性別の人が同じ年齢で、同じ保険金額の終身保険に加入した場合、保険料は、保険料払込期間が短いほど高くなります。大まかに言えば、保険期間中に必要な保険料総額を保険料払込期間で割ったものが、月払いの場合は毎月の保険料額、年払いの場合は毎年の保険料額ということになるので、短期間に保険料を払い終える方が保険料が高くなるわけです。その一方で、保険料が高い分、保険料払込期間が短い方が積み立て部分も早く増えていくので、同じ時期に解約した場合の返戻率は、保険料払込期間が短い方が高くなります。また、保険料払込期間の終了後、数年すると返戻率は100%を超えて毎年増えていきます。

したがって、終身保険を運用手段として活用する場合には、その資金を使う時期に応じて保険料払込期間を決めることが一つのポイントになってきます。

終身保険を学資保険代わりに活用するなら・・・

マネープランにおいて、教育資金の準備のための保険といえば「学資保険(子ども保険)」が定番ですが、終身保険の解約返戻金を活用して、学資保険のような使い方をすることもできます。その方法は、子どもが生まれたら、親を被保険者として保険料払込期間を短期間に抑えた(15年程度)の終身保険に加入し、保険料払込終了から数年経ち、返戻率が100%以上になった時期(=子どもの大学進学時期)に解約し、解約返戻金を学資金に充てるというものです。

一般に終身保険では、商品や被保険者の年齢などによって返戻率は異なりますが、プランによっては110%程度の返戻率になることもあります。もちろん、終身保険ですから、解約予定時期以前に親が死亡した場合には、死亡保険金を受け取り、将来の学資金に充てることができますし、学資金が不要になれば、通常の死亡保障として契約を継続することもできます。

これからお子様の教育資金を保険で準備しようと考えるなら、学資保険と合わせて、終身保険の学資保険的な使い方についても検討されてはいかがでしょうか?
なお、学資保険(子ども保険)は、商品によって、また加入時の子や親の年齢によっては、受け取る学資金の総額が払込保険料を下回る「元本割れ」のケースもありますので、これについては事前によく確認しましょう。

終身保険を老後資金の準備に活用するなら・・・

マネープランにおいて、終身保険は、老後資金の準備に活用することもできます。たとえば、保険料払込期間が60歳までの終身保険を65歳で解約すると、返戻率は100%を優に超えます。もし予定利率が高い時期に加入した、いわゆる「お宝保険」であれば、返戻率はより高くなるでしょう。また、多くの終身保険には、保険料払込終了後に個人年金保険に移行できる特約が付加されているので、それを利用して年金形式で老後資金を受け取ることもできます。

運用手段としての終身保険の注意点-解約すると保障はなくなります!

このように終身保険は、教育資金や老後資金の準備を目的とした運用手段として活用することもできますが、当然のことながら、終身保険を解約して解約返戻金を受け取ると死亡保障は無くなります。もし終身保険に医療に関する特約などを付加していた場合、特約だけを継続することはできないので、医療保障も自動的になくなります。

したがって、終身保険を利用する場合は、保障か運用かを明確にして、運用目的ならば特約は付加しないようにしましょう。また「解約」は、全部ではなく一部でも行うことができるので、高額の終身保険契約があるなら、一部を解約して老後資金などに活用し、残りは死亡保障を確保するために継続するという方法も取れます。その際も、残る終身保険の保障金額によっては、特約を継続できない場合があるので注意しましょう。

最後に、終身保険の保険金額や解約返戻金額は契約時に「約束」されていますが、その約束はあくまで保険会社との間のものであり、その保険会社が経営破綻すれば、約束された金額を受け取ることはできません。これについては、保険契約者を守る仕組みである「保険契約者保護制度」があるため、保険金額や解約返戻金額がゼロになることはありません。ただし、この保護制度でも、貯蓄性の高い保険ほど保険金や解約返戻金の減額率は高くなりますので、加入時には、格付けなどで保険会社の経営の安全度を必ず確認しておきましょう。

2011年3月
大林香世(CFP®)