高収入者のマネープランが厳しくなる
社会保険における少子高齢化の危機を一般的に理解している人でも、自分の身に置き換えて具体的に対策を立てている人は少ないようです。しかし、最近の社会保険の改正内容は、現役世代や高齢世帯すべてに影響を与える内容になっています。特に「応能負担(※1)」が主流になり、高所得者の負担が増えて、現役時代からの生き方・お金の使い方が高所得者の未来の生活に益々関係してきます。今回は、直近の介護保険の改正(地域包括ケアシステム強化・平成29年5月26日成立)が、私たちの今と将来にどう影響するのかをお話します。
※1:応能負担とは、本人の収入等から能力に応じて負担すること。
介護保険の改正 ~ 高収入者の負担増へ
今回の改正は、制度の持続可能性の確保が目的です。本当にサービスを必要な人に必要なサービスを提供できるようにするしくみにしたものです。団塊世代が2025年に介護の支援が必要になる75歳以上になる背景もあります。負担と給付の見直しの改正の目玉は、現役世代と高齢者の負担増となる以下の①②。高収入者は改正から目が離せません。
① 介護サービス利用時の2割負担者のうち特に所得の高い人の負担を3割とする(高齢者) ~平成30年8月施行
介護保険の利用者負担は制度開始(平成12年4月)より1割でしたが、一定以上の所得のある人は、2割(平成27年8月)となり、改正で3割(平成30年8月)となります。但し、月額44,000円の負担の上限があります。
収入の基準 | 負担割合 | |
年金収入等 340万円以上 |
合計所得金額220万円以上かつ年金収入+その他 合計所得金額340万円以上340万円以上(夫婦世帯の場合463万円以上) |
2割→3割 |
年金収入等 280万円以上 |
合計所得金額160万円以上かつ年金収入+その他 合計所得金額280万円以上(夫婦世帯の場合346万円) |
2割 |
年金収入等 280万円未満 |
1割 |
厚生労働省
3割負担になり、負担増になるのは約12万人(全体の約3%)と予想されます。但し、あくまでも現在の見通しです。状況が変われば制度は今後も変わりそうです。若い世代の見通しは厳しめが基本でしょう。
② 介護保険料の総報酬割導入へ ~ 平成29年8月から段階的に適用
介護保険の第2号被保険者(20歳以上64歳)の保険料は、各医療機関がまとめて医療保険者に納付しています。各医療保険者は、第2号被保険者である加入者数に応じて負担していますが、被用者保険間(協会けんぽ、組合健保、共済組合)で、「総報酬割」(報酬額に比例した負担)に平成29年8月から変わります。なお、激変緩和措置から平成32年度に全面的に移行されます。総報酬割導入により、収入の多い大企業社員・公務員などの負担が増え、比較的収入が少ない協会けんぽなどの社員の負担は減少となるようです。
厚生労働省
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高収入者ほど、老後の実質持ち出しが増えそう・・
厚生年金額の計算の基になる標準報酬月額 (※) には62万円の上限があります。例えば毎月の給与が仮に100万円でも保険料・年金額などの計算は62万円を基に計算します。従って、厚生年金は給与等が多い人は純粋に収入に比例した年金額となりません。
働く期間が増えそうな環境で介護保険料の負担は増え、長生きなのに老後の年金額増も期待できないにも関わらず、介護保険料とサービス利用時の負担は増えそうです。介護保険に関する負担は形を変えて生涯関係します。
※毎月受け取る報酬額に対して保険料を計算するのは大変なので、区分した仮の報酬に保険料や給付の計算をする。この仮の報酬を標準報酬月額という。
仮に、改正で月3,000円ほどの負担増でも侮れません。痛みは年齢で異なることを知っておきましょう。我が家の経験でも、夫の年金収入月3,000円減でも響きました。逆に必要なら仕方ないと工夫なしで預貯金を取り崩すだけの人のマネー管理が気になります。
改正を機に、いずれ年金収入だけになったときの支出項目と金額のイメージをしておきましょう。たくさんあるように見えるお金も、長寿化と制度の改正で増える負担が預貯金の目減りを加速させることを忘れないことです。制度の改正を単に嘆くだけでなく、今から我が家で可能な対策を話題にし、実行していただけると嬉しいです。