令和は、待ったなしで人生100年時代に向けた現実的な対応と備えが求められる時代になりそうです。誰もが頭では分かっているつもりですが、近未来に必ず訪れる医療・介護・年金といった社会保障の財政の危機から目を背けた議論が多いのも事実です。
例えば、高齢者の定義。時代が変わり最近の60歳代はとても若々しく元気な人が多くなりました。一方で、高齢期の公的年金の受給開始年齢は原則65歳と変わっていません。
そこで厚生労働省は、「平成30年高齢期における社会保障に関する調査(厚生労働白書 令和2年版)」結果を国民に広く公表しました。社会保障に関する負担のありかた等について、今後の厚生労働行政施策に生かす基礎資料を得ることを目的としています。つまり、これからも社会保障改革は続くことが予想されます。
今回は分かっているつもりから、各自がこれから迎える長い老後に向けてどう対応していけばいいのか気付き、実行できるようになるために調査結果を生かしていただけたらと思いお話しします。
調査結果のポイント (調査は平成30年7月に実施)
面白いのは、「老後生活」のイメージを「年金を受給する生活」とする割合が54.0%と、「仕事からリタイア」とする割合の36.9%より多いことです。
「老後の生活」で思い浮かべる生活(複数回答)
厚生労働白書 令和2年版
① 老後は、「70歳から」と考える人34.5%、「65歳から」が26.0%
何歳ぐらいから老後と考える
高齢になるほど老後は「75歳から」「80歳以上」と見ている
年齢階級別にみた何歳ぐらいから老後と考えるか
厚生労働白書 令和2年版
調査から、年代・男女差で受け止め方の違いがあることが見えてきます。現在は人生100年時代へ向けた途中ですが、現高齢者の意識は現役世代の参考になります。
② 老後収入で頼りとする公的年金の割合は58.2%、65歳以上では75.0%
実際に受給している身である私の実感でもあります。年金手続きの窓口で、もうそんな年齢になったのかという思いと長年積み立てた年金を受給できる喜びとで、「嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ち」と言っていた相談者の言葉がより身に沁みます。
介護・医療で支出増の高齢期は、公的年金の多寡が資産の取り崩し額に大きな影響を及ぼすことを知った対策は必須です。
老後の生計を支える手段として最も頼りにするもの
厚生労働白書 令和2年版
令和3年度の年金額は令和2年度から0.1%引き下げ ~今後の年金額はあまり増えそうもない
総務省から令和2年平均の全国消費者物価指数の公表に伴い、令和3年度の年金額は法律に伴い令和2年度から0.1%引き下げられます。将来世代の給付水準を維持するため、支え手である現役世代の負担能力に対応するため賃金(▲0.1%)が物価(0.0%)を下回る場合、賃金に併せて年金額が改定(令和3年4月施行)されます。将来の給付財源に備え現在の給付を抑える「マクロ経済スライド調整率0.1%」は来年度以降に持ち越しとされました。
令和3年度の新規裁定者(67歳以下の方)の年金額の例
令和2年度(月額) | 令和3年度(月額) | |
---|---|---|
国民年金(老齢基礎年金・満額)1人分 | 65,141円 | 65,075円(▲66円) |
厚生年金※(夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額) | 220,724円 | 220,496(▲228円) |
※平均的な収入(平均標準報酬(賞与含む月額換算)43.9万円)で40年間就業した場合に受け取り始める年金(老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額)の給付水準です。
国民年金の保険料(前年度比)
令和2年度 | 令和3年度 | 令和4年度 |
---|---|---|
16,540円 | 16,610円(+70円) | 16,590円(▲20円) |
令和2年度の改正で見送られた国民年金に65歳まで45年加入
令和2年の年金改正では、国民年金の加入(20歳~60歳)を20歳~65歳の45年にして基礎年金額を増やす意図がありましたが、国民年金の保険料には拠出金(税金)が含まれており、財源不安から見送られています。国民年金制度が施行された昭和36年の平均寿命から令和元年度の平均寿命は以下のように大幅に伸びているにも関わらず、60年前の制度の維持は無理があります。今回の調査はそれらも含めた国民の意識改革もあるのでしょうか?
平均寿命の比較
昭和36(1961)年 | 令和元(2019)年 | 2040(推計)年 | |
---|---|---|---|
男性 | 66.03歳 | 81.41歳 | 83.27歳 |
女性 | 70.79歳 | 87.45歳 | 89.63歳 |
厚生労働省 簡易生命表
人生100年時代はすぐそこに……
約20年後の2040年時点で65歳(現在45歳くらい)の人は、男性の約4割が90歳まで、女性の2割が100歳まで生存すると推計されており、誰もが未経験の超高齢化社会の到来はすぐそこに迫っています。
厚生労働白書 令和2年版
今こそ発想の転換が必要です。
長寿を悲観的に受け止めず、活躍できる期間が増える!楽しみだ!と捉える楽観的思考と共に、長期戦に備えた学びと、健康も大事と肝に銘じつつ他から求められる広い意味の人間力を身につけていきましょう。
不本意な前半を過ごした人が逆転のチャンスに恵まれることもあれば、満たされた前半だった人でもその後の生き方次第では失速することも。人生100年時代は驚きの展開が増えそうな気配だからこそ、「ここからが勝負!」の気概が誰にも求められる時代になったと言えそうです。