「終活」や「エンディングノート」に対するイメージは、「葬儀・お墓」、「遺言の作成」、「介護が必要になったときの対応」など人生終末期の準備と受け止められがちです。但し、私が所属する法人のエンディングノートセミナーでは「このノートは終末期の準備だけのものではなく、未来へ進むためのノートです」と言い続けたせいか、少しずつ「終活」に込められた本来の目的も徐々に浸透し始めました。
私を含めた高齢者の「終末期は最期まで生き生き暮らすための準備期間」の理解も進みつつありますが、これからの高齢者の未来の介護事情は相当厳しくなりそうです。介護される人の増加・高齢化と支え手の減少・未婚者の寿命の低下なども無関係ではありません。
今回は、私が若いとき両親を介護した経験と、私が介護される立場になる年齢を迎えて日々感じ気づいたことについてお話しします。
高齢期を明るく前向きに過ごすのは、口で言うほど容易くありません。基本は「自立」、自分でできることは自分でするが最低限必要で、体力・知力・気力・思慮深さが試されそうです。
「独身」と「未婚」とは異なる ~未婚男性の死亡年齢の中央値66.3歳
フリー百科事典「ウイズペディア」によれば、「独身」とは、婚姻契約がない状態(者)のこと、「おひとりさま」と呼ばれる。「未婚」は過去に結婚の経験がない独身の状態(者)であり、過去に配偶者と離別・死別した場合は「未婚」ではないそうです。
なお、「50歳時」の未婚率(結婚したことがない人の割合)は、男性23.37%・女性14.6%、1990年頃から男性の未婚率が上昇しています。婚姻率が低下の中、夫が再婚で妻が初婚の割合が増えていることも原因です。未婚男性の死亡年齢の中央値は66.3歳と未婚女性の81.9歳に比べ低いことが特徴です。
生涯未婚率(50歳時の未婚率)の推移
日本人人口の平均年齢45.65歳 ~人口の半分近くが45歳以上
平均寿命(男性81.64歳・女性87.74歳 令和2年 簡易生命表 厚生労働省)が順調に伸びています。一方、日本人人口の平均年齢は45.65歳と前年に比べ0.19歳高くなり、男性44.35歳、女性46.90歳は深刻です(令和3年1月1日現在)。ちなみに、平均年齢とは、日本人全員の年齢の平均値です。
以下の1990年と2020年の人口ピラミッドを比較しても生産年齢人口の減少と高齢者人口増は明らかです。問題は、着実に増える高齢者層に比べ支える生産年齢人口が減り、その中身も変わってきたことです。
人口ピラミッドの推移 ~徐々にひょうたん形に
両親の介護 ~私の場合
① 若かったからできた
両親と同居していた弟夫婦が外国に赴任前後、母が乳がん再発で入院、30代後半から私の介護生活が始まりました。東京の自宅と千葉県の病院へは往復約5時間、毎回黒いビニール袋に大量の洗濯物を入れて帰宅、翌日の洗濯機とガス乾燥機はフル回転、きれいになった洗濯物を宅急便で病院に送付の日々です。当時私は、子育てと自宅で個人塾の運営で多忙でした。
ある日、ベッドに寝た母が苦しそうな顔で私に「スプーンで便を出して」と・・。
ずっと寝たきりで便がでないため、スプーンの柄の先と私の手で、石みたいにカチカチの便を肌を傷つけず取り除くことができたのは、若く体力があり力の調節ができたお陰です。入院費等は、入院前に渡された母の通帳から支払い母の心遣いに感謝しています。
② 若さ故の後悔
「最期は自宅で迎えたい」の母の意志を尊重して夫が運転する大型レンタカーに乗せた担架で運ばれた母が自宅に戻った5月の連休、がんが骨に転移した母が、「だるいのでマッサージを頼んで」と言ったのに「骨が折れたら大変だから」と拒否したのは若さゆえの失敗です。
高齢になった今なら分かります。あたたかな手のぬくもりで母の体をさすってあげるだけで、母の心も体もどれだけ安らかだったろうと。
母が亡くなる10日前に弟は日本勤務になりましたが、その後また外国勤務に。1人暮らしの父を定期的に訪問する日々が続きました。
仕事一筋で家庭のことは全て母任せ、日常生活用品を自分で購入したことがなく、台所のガスの点火もできない父でした。寒い晩、心細げな声の父からの電話で、「こたつとエアコンが壊れたらしい」。これは大変と夜半タクシーで駆けつけたら、コンセントを入れてないだけと分かり気が抜けました。
その後側溝に落ちたときの病名「栄養失調」で千葉の病院に入院、我が家に同居後、都内の病院に入院中に亡くなりました。母の死後10ヶ月目でした。
亡くなる少し前、お酒が大好きだった父の「お酒が飲みたい」に対し、「お酒は控えて」の医師の言葉を受けて拒否。今なら即ノーでなく「ちょっとだけよ・・」とお猪口に少し注いで甞めさせてあげられたと後悔しきりです。
自分でできることは自分で・・・目と耳で経験値を高め自立心を育てておこう!
私が両親の介護を始めた30年ほど前と今後は大きく変わりそうです。年々高くなる日本の平均年齢は、外国の平均年齢(2020年現在)30.9%と比べ、老いつつある国のイメージ、支えての高齢化も進み、国全体の経済も当時の勢いはなくゆとりがありません。
男女別日本人人口の平均年齢の推移 (各年1月1日現在) 単位:歳
H13年 | H23年 | H28年 | H29年 | H30年 | H31年 | R2年 | R3年 | |
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総数 | 41.41 | 43.88 | 44.85 | 45.01 | 45.16 | 45.30 | 45.46 | 45.65 |
男 | 40.07 | 42.53 | 43.51 | 43.67 | 43.84 | 43.99 | 44.15 | 44.35 |
女 | 42.75 | 45.21 | 46.16 | 46.30 | 46.45 | 46.58 | 46.72 | 45.90 |
総務省統計局 国勢調査より抜粋
父の例は極端ですが、配偶者との死別は女性より男性の方が影響を受けやすいのも現実です。
仕事の優秀さと家庭での自立度は必ずしも比例しません。老いの加速度が進むセカンドライフだからこそ、日々の生活の中で相手がして貰って嬉しいことをしてあげることから始めると良いでしょう。相手に期待する前に、自分の変化力に期待して行動からスタートです。
相手が忙しいときの食事作り、掃除、ゴミ出し、買い物、洗濯物の取り入れと整理、病院等への同行、愚痴を聞くなど些細なことからスタート。それが習慣になれば、生活の自立度は増し、お互いに感謝の気持ちが増え、ストレスも減り、健康寿命を延ばす効果もありそうです。
未婚(特に男性)者は、自分の身を守るだけで精一杯の時代になってきました。共働きも世帯も増え、家事・仕事で忙しく、核家族化は進み、晩婚化で子育て年齢も高くなる等以前より支援する側の負担も増え、親世代は長寿化と環境も変わっています。
生命保険文化センター(2021年9月速報版)によれば、過去3年間に介護経験のある人のアンケートで、介護期間(介護を始めてからの期間)が61.1ケ月(前回54.5ケ月)と長期化しています。
過去3年間に介護経験のある人へのアンケート結果
「介護期間(介護を始めてからの期間)の割合」
介護期間 | 6ヶ月未満 | 6ヶ月~1年未満 | 1~2年未満 | 2~3年未満 | 3~4年未満 | 4~10年未満 | 10年以上 |
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単位:% ()内は2018年 |
3.9(6.4) | 6.1(7.4) | 10.5(12.6) | 12.3(14.5) | 15.1(14.5) | 31.5(28.3) | 17.6(14.5) |
生命保険文化センター 生命保険に関する全国実態統調査 2021年9月
高齢期は支えてくれる人がいてこそ、一般的に在宅で介護を受けることが可能です。諸事情から子・配偶者・親族などの介護を受けられないこともある限界を知れば、今後の生き方・準備も見えてきそうですね。