死別に比べ厳しい、離婚したときの年金額 ~苦しいときほど事務的な手続きを着々と・・


年金は請求をしないと受給できません。近年、老齢・障害・遺族年金の情報は浸透しつつありますが、未だに配偶者と「離婚」したときの情報が正しく浸透していないのが残念。
配偶者と離婚すれば、誰でもいつでも受給できるとする知識不足、離婚に至るまでひどい目にあっているにも関わらず元配偶者を信用してしまう甘さが招いた失敗談等は他人事ではありません。
誰にも想定外のこと(離婚)が起こり得るのが人生。「離婚」が頭によぎったときは、後悔しないために機敏に動きましょう。手続きにも時効があります。

今回は、死別(遺族年金)と比べ生別(離婚時の年金)の厳しさの実態を知って欲しい気持ちを込めてお話しします。リッチではないが夫婦2人なら何とかなると思っていた暮らしも、離婚で資産も年金も2人で分けると暮らしは予想以上に大変になることに気づいて欲しいからです。

離婚件数・離婚率は前年より低下 ~令和2年(2020)年

婚姻件数減少の中、令和2年の離婚件数19万3253組と前年より1万5243組減少、昭和39年以降毎年増加していましたが昭和58年から減少。平成に入り再び増加傾向でしたが平成14年をピークに減少。令和2年の離婚率(人口千対)は1.57で前年の1.69より低下しました。同居期間別に離婚件数をみると、令和2年はすべての同居期間で前年より減少しています。

離婚件数と離婚率の推移

昭和39年 昭和58年 平成14年 令和元年 令和2年
婚姻件数(組) 963,130 762,552 757,331 599,007 525,507
離婚件数(組) 72,306 179,150 289,836 208,496 193,253
離婚率(%) 0.79(昭和40年) 1.51 2.30 1.69 1.57

厚生労働省 人口動態統計(確定数) 令和4年2月25日公表 離婚率は人口統計資料集2021参考

離婚時の年金分割 ~原則、 離婚日の翌日から2年以内※1に手続きが必要

離婚等したとき、婚姻期間中の厚生年金の「保険料納付記録=標準報酬の記録※2」を分割するのが年金分割。分割方法には、①合意分割と②3号分割の2つがあります。分割の対象は、婚姻期間中の厚生年金(報酬比例部分)のみ。従って、老齢基礎年金は対象外です。
年金額が多い人から少ない人に分割されます。

① 合意分割 ② 3号分割
  • 平成19年4月1日以後に離婚(事実婚関係にあった間に一方が第3号被保険者期間に限る)
  • 当事者の合意や裁判で定めた割合で分割
  • 分割割合の上限は2分の1(50%)
  • 当事者の2人から請求
  • 平成20年5月1日以後に離婚、又は事実婚を解消している
  • 平成20年4月以後に第3号被保険者期間がある
  • 分割割合は2分の1(50% 強制)
  • 当事者のうち第3号被保険者による請求

※1 離婚後2年以内に調停等を行い、調停等の長期化により離婚後2年を経過した場合、調停等の成立日から6ヶ月以内 (令和2年8月2日以前の場合1か月以内)であれば手続き可。
分割される人が死亡した場合、1か月以内であれば請求可能。

※2 共済組合の組合員である期間を含む

分割割合のイメージ ~平成20年4月以降の第3号被保険者期間は2分の1(強制)

分割のイメージ ~婚姻期間中夫・妻共に厚生年金に加入 厚生労働省パンフ 参考

分割の対象となるのは、婚姻期間中の報酬比例部分の保険料納付記録(厚生年金額を計算するときの標準報酬(標準報酬月額と標準賞与額)を現在価値に換算した額の総額。
つまり、退職後に結婚した人が離婚した場合、保険料納付記録がないので年金分割は発生しません。報酬等が低く期間が短い若いうちに離婚なら当然分割年金も低額、年金受給開始年齢になるまで受給できず、配偶者が死亡後即受給できる遺族年金と異なります。

年金分割の状況~分割前と後の平均年金月額等の推移

年金分割は、厚生年金の分割なので離婚した人すべてが年金分割の対象ではありません。気になる年金分割でどのくらい金額が増えたか減ったかは以下の統計の通り。調停等による按分割合の取決めでは約93.3%(司法統計年報令和元年度・2年度)が2分の1となっています。

離婚分割 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移 : 円

第1号改定者 (分割をした人) 第2号改定者 (分割を受けた人)
改定前 改定後 変動差 改定前 改定後 変動差
R元年度 143,162 114,025 △29,137 53,405 84,056 30,651
R2年度 145,061 115,963 △29,098 51,585 82,358 30,774

平均年金月額は、基礎年金が裁定されている場合は基礎年金を含む。離婚分割かつ3号分割をした場合は、3号分割に係る改定額を含む。

3号分割のみ 受給権者の分割改定前後の平均年金月額等の推移 : 円

男子 女子
改定前 改定後 変動差 改定前 改定後 変動差
R元年度 131,592 125,542 △6,049 37,159 42,248 5,089
R2年度 136,494 131,163 △5,330 40,945 46,895 5,950

平均年金月額は、基礎年金が裁定されている場合は基礎年金を含む。
厚生年金保険 国民年金事業の概況 令和元年度・令和2年度

年金分割のための情報の提供の請求 ~離婚前、離婚後でも請求可~

「情報提供」の請求は、当事者2人又は1人で請求でき、年金見込額の試算も可能(要件有)。
その後、2人一緒に請求した場合は各々に、1人で請求した場合、離婚は請求した人に・離婚は各々に「情報通知書」が交付されます。

年金分割を受けるには、請求が必須

「情報通知書」が交付され、話し合いで按分割合を決めても、年金事務所や街角の年金相談センター等窓口に「年金分割の請求」をしないと分割年金は受けられません。合意不可の場合、裁判手続きで按分割合を決めます。2年はあっと言う間、情報収集を急ぎましょう。
相手が退職間際なら退職金なども話題に。関係悪化で離婚になったのですから、シビアにことを進めないと後で後悔することも。元夫の甘い言葉を信用して手続き等を丸投げした結果、年金分割もできず約束の退職金の半分も受け取れなかった例もありました。今後の暮らしや働き方、年金の切り替え等もイメージして動きましょう。自身の未来は自分が動いて掴むが基本です。

離婚分割した人が再婚後死亡した場合

遺族厚生年金額は報酬比例部分の4分の3、分割年金の対象となるのは婚姻期間中の厚生年金(報酬比例部分の保険料納付記録)。離婚で年金を分割後再婚した人の遺族厚生年金額は、当然本来の遺族厚生年金額より低額です。

分割年金の受給は、自身の年金の受給資格期間があることが前提

分割で得た厚生年金の被保険者期間は、自身が厚生年金に加入した期間ではない(みなし被保険者期間)なので、老齢基礎年金の受給資格期間に含めません。つまり、自身が受給資格期間(10年に改正・平成29年8月)を満たしていないと分割年金を受給できません。

自身の厚生年金加入なしだが、みなし被保険者期間で遺族厚生年金が発生することも

遺族厚生年金は、厚生年金の被保険者又は被保険者であった人が死亡した場合、要件を満たした遺族に支給されます。事例の妻は厚生年金に加入した期間がありませんが、例外としてみなし被保険者期間分の遺族厚生年金18年分が要件を満たす遺族に支給されます。妻が老齢基礎年金の受給資格(長期要件・原則25年加入)を満たしているからです。

妻・65歳~ 妻・死亡
老齢厚生年金
老齢基礎年金
遺族厚生年金発生

※上記は、妻が65歳前に再婚、65歳以後に死亡(年金の子はなし)した場合のイメージ。
仮に、妻が離婚後死亡当時子(18歳年度末までの子等)がある場合、子に遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給

<まとめ> 自分の目と耳と足で調べ、分からないときは自分で年金の窓口で相談

上記はほんの一部、年金は本当に難しく、細かい改正もあり、複雑。自分で勝手に判断せず、早めに情報を集め小まめに動いてみることがお勧め。せっかく制度があるのだから、老後の継続的な収入を確保するために、安易な納得をせず1つ1つ疑問を解決して実行していくしかありません。離婚時の年金分割情報(よくある質問)なども参考にしてください。

日本年金機構 年金Q&A (離婚時の第3号被保険者期間についての厚生年金保険の分割制度)
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kyotsu/3go-bunkatsu/index.html
日本年金機構 年金Q&A (離婚時の厚生年金保険の分割制度)
https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/kyotsu/rikonbunkatsu/index.html