相続対策、夫婦・自分のお金はバッチリ確保が基本かも
一般庶民にも大いに関係しそうな「所得税・相続税・贈与税の改正」が平成27年1月1日から施行予定でしたが、平成25年度税制改正において再度検討されることになりました。
預貯金などの資産を持つ高齢者にとり改正内容の施行時期が気になるところです。
今まで、相続税を納付する人はかなりの資産家に限られ、多くの人は関係ないと考えられていましたが、改正後は対策が必要な人も増えそうです。
対象となる相続財産は、セカンドライフを快適に過ごすために必要なお金や資産ですから、単に計算上ソン・トクでは解決できない事情もあること肝に命じておきましょう。今回は、気になる相続税と贈与税の主な改正についてお話ししましょう。
相続税が発生した人(死亡者)は、100人のうち4.1人
バブルがはじけた後、地価は下落しましたが基礎控除は据え置かれ、相続税の最高税率が引き下げられたことで、資産の再分配率が低下しました。また、バブル期以後、相続税を納める人の割合と収める税金も減っています。
つまり、今後の改正で、資産家の相続人が労なくして資産家になるしくみを変え、併せて減少ぎみの国の税収入増につなげようと言う訳です。背景には、伸び悩む国民所得と急速な高齢化で増え続ける社会保障給付費の増大が関係しています。
平成21年に実際に課税があった被相続人(死亡者)の数は100人のうち4.1人(4.1%)、被相続人に対する法定相続人の数は3.13人です。被相続人1人あたりの相続税は約2,500万円、平成21年の相続にかかる課税価格約10.1兆円の11.5%となっています。いずれにしても改正で相続税が発生する被相続人の数は、増えることが予想されます。
相続税の見直し後の主な内容
相続税の主な見直しは、基礎控除の引き下げと相続税率見直しです。残された遺族が妻と子ども二人の場合、現在なら基礎控除額は8,000万円ですが、見直し後は4,800万円です。
自宅と金融資産がある一般的な家庭では対策が必要になりそうな額です。二次相続の場合、控除額が減るので更に深刻です。
その他、以下の死亡保険金の非課税の見直しも影響大です。
過度な相続・贈与対策のリスク
相続税の改正は私達の生活にかなり影響しますが、敏感になりすぎるのも要注意です。人生は思惑や計算どおりに行かないことが多いからです。実際の事例でお話しします。
事例1 |
法律上、息子の妻に、義理の母の面倒をみる義務はない! |
Aさんは長男夫婦と同居していました。夫のBさんが亡くなったとき、信頼する長男家族とこのまま自宅に住むのだからと、自宅と預貯金などすべてを長男に相続させました。しかし、その後、長男が病気でAさんより先に亡くなりました。AさんとBさんの財産はすべて長男の妻と子どもが相続し、Aさんは、夫のBさんと二人で蓄えた財産をすべて失いました。長男の妻により高齢者施設に入所させられたAが亡くなったとき、葬式代にもこと欠く状態でした。Aさんの年金口座から施設費用を支払っていたからです。
事例2 |
一度あげたものは返ってこない。自分たちの老後の生活を大切にしたい! |
老後を過ごすには充分すぎる預貯金などを持っていたCさん夫婦は、相続税を心配するあまり、この数年来二人の子どもと孫にかなりの生前贈与をしていました。相続税を抑えるために贈与は効果的でしたが、イザ自分たちが入居したい高齢者施設を検討したとき資金不足に気づきました。自分たちに介護を心配する状態が来ることを想定していなかったのです。
事例3 |
相続税対策は、年金・税金などトータルで賢く! |
会社員Dさんの妻であるE子さんは、親から相続した土地をもっており、相続対策のため借入金でマンションを建設、賃貸収入と年金で豊かに暮らしていました。しかし、Dさん亡き後、妻E子さんの賃貸収入と年金が一定額(年収850万円・所得655.5万円)以上となり、妻はDさんの遺族厚生年金を受け取れませんでした。遺族年金の収入要件に気がつかなかったのです。
事例4 |
老いても子に従わず ~ 自分の老後の居場所は確保! |
F子さんの失敗は、夫の死亡後住む場所を失ったことです。夫のGさんが亡くなる少し前に「配偶者の贈与の特例」を利用して自宅の一部の贈与も検討しましたが、「心配ないよ、お母さんの面倒は見るから」の子どもの言葉を信用し、贈与は見送りました。しかしGさんの死後、自宅は売却されF子さんは転居せざるを得ませんでした。相続財産が自宅と少ない現金などの場合、資産を分けにくいこともありこうした例もあります。
事例5 |
子どものない夫婦こそ「遺言」を書いておこう! |
子どもがいないH子さんは、夫のIさんの遺産の4分の1をIさんの兄妹から請求されびっくり。生前、夫の兄妹との関係は良かったので請求は予定外でした。Iさんの両親も既に亡くなっていたので、Iさんの遺産の4分の1がIさんの兄妹に渡りました。自宅は手放せず手持ちの現金が減り不安が募るばかりです。子どもがいないIさんは遺言を書いておけば、全財産が妻のH子さんに遺せました。亡き夫の兄弟姉妹は遺留分(※)の請求ができないからです。
※遺留分とは、民法で定められている一定の相続人が最低限相続できる財産のことをいう。遺留分が保証されている相続人は、配偶者、子供、父母です。
意外に思われるかも知れませんが、司法統計によれば、資産価値5,000万円超に比べ、遺産価値5,000万円以下での相続争い(調停成立など)は約3倍と増加傾向とのことです。
まさに相続税などの見直しが行われた場合、遺族3人の一般的な家庭の基礎控除額4,800万円は微妙な金額ということが分かりますね。
あり余る財産を持つ人には相続対策は有効です。しかし、少しリッチまたはごく普通の人はセカンドライフを自分らしく生きるために対策をしすぎない発想も大切です。もちろん必要な対策を見極めた上での話しですが。自分で貯めたお金は、生きている限り自由に自分で使ってこそ意味があります。厳しさが増す税制が予想されますが、自分が持っているお金の使い道を含め、何が(誰が)大切かを問い、自分らしく生きる意味を考えるきっかけにしていただけたら幸いです。