定年がない分、いつまでも働けるというけれど
企業などでリタイアメントプランセミナーや年金セミナーを行っています。受講生の皆さんの興味の大半は、退職時の社会保険の手続き、退職後の働き方で変わる年金額の内容、退職金を含めた資産の運用の仕方などほとんどお金に関する内容です。人により金額の差はありますが、企業などで働いた人が受け取る退職金や年金額はそれなりにあるのが一般的です。
一方、年金相談の現場で受ける自営業者の人の大半の年金額は、驚くほど少ないのが一般的です。もちろん、他の金融商品で備えがある人もおり、一律にセカンドライフの暮らしぶりが貧しいと判断はできません。但し、相談を受けた印象から、会社員などに比べ将来を見据えたプランの大切さに気づかずに暮らしてきた人が多いのも現実です。今回は、自営業者こそリタイアメントプランの大切さに気づき、若いうちから備えて欲しいという気持ちを込めてお話しします。
年金が少ないので暮らせない
自営業者の人の相談で多いのが、年金が少ないという不満です。自営業者の場合、原則国民年金に40年加入して65歳から年778,500円(月65,875)円受給できます。夫婦で月約13万円。以上は40年納付のお話しです。実際にきちんと40年納付している人は多くありません。ほとんどは免除制度を利用または未納期間があり、実際はもっと金額が少ない人がほとんどです。納付した保険料も異なりますが、会社員夫婦のモデル世帯(下表)とくらべても厳しい金額です。しかし、そうした生涯のリスクを考えるゆとりもなく働いてきた人も多く、支援するしくみも少ないのが個人事業主です。結果、医療保険料は真面目に払ってきたのに、お金がないため医療の治療を受けられない人も現れます。
厚生労働省などから年金額など統計がでておりますが、モデル世帯の金額か、現実の年金額か、平均値のもとは何なのかをみて実態を把握することが大切です。何れにしても、国民年金加入者の実態は相当厳しいことに間違いありませんね。
<標準年金月額> 国民年金世帯
老齢基礎年金 64,875円 | 夫 |
老齢基礎年金 64,875円 | 妻 |
129,750円 |
老齢厚生年金 98,841円 | 夫 |
老齢基礎年金 64,875円 | 夫 |
老齢基礎年金 64,875円 | 妻 |
228,591円 |
<65歳以降の平均年金額>
老齢基礎年金のみ受給者 |
49,987円 |
老齢厚生年金+老齢基礎年金の受給者 |
男女の平均 151,374円 |
男性 平均 187,920円 |
女性の平均 110,655円 |
但し、問題はもっと深刻です。上記はお互い生存していた場合の年金です。大黒柱の国民年金を受給していた夫が亡くなった当時65歳以上の妻に遺族年金はありません。老齢厚生年金などを受給していた夫が亡くなった当時、65歳以上の妻に遺族厚生年金が発生するのと大きな違いです。だからこそ、自営業者は夫婦世帯の生涯収支を考えたプランづくりがより求められるのです。
※年金額は平成25.10~26.3で試算
先にお話したとおり、自営業者で40年納付済の人が少ないことを考えると、妻の老後は相 当厳しいのがよくわかりますね。自営業者こそ年金以外の備えと老後の暮らしをイメージして準備が必要なのです。忙しく働いている「今」から、「将来」も見据えたプランづくりの才覚が、会社員以上に求められています。
事例は、国民年金のみ加入でお話ししましたが、若い時少し働いてその後自営業者して開業された方も、年金額はそう多くなく老後に対する考え方は同じです。
定年がない分、リタイア時期を気づきにくい ~気がついたら高齢になっていた
会社員などは、定年前にも50歳過ぎての★役職定年、★第1の退職、再雇用後に給与が一般的に減少、そしていよいよ★第2の退職で本格的に年金生活に入ります。現在の人は★65歳前に年金の受給が開始、夫婦の年金加入状況で夫婦に加算があるため、最近は夫婦同伴で年金請求に来られ万が増えています。万が一、夫が亡くなった時の遺族厚生年金の年金額の試算を希望する人も多く、夫婦で将来の生活がどうなるか考える機会に何度も遭遇します。企業によっては、50代や60歳前にライフプランセミナーで従業員に事前教育をして、気づきの大切さを伝えています。
一方、自営業者と言えば、元気で商売が活況なら何歳までも働けるのですが、その分退職(事業廃止)を切羽つまった期限と捉えないまま、気がついたら高齢、売上も先細りになるケースもみかけます。同時にどちらが残されても、年金額が少ない大変さに初めて気が付き驚くのです。
自営業者の退職金づくりは早めに開始 ~時間がお金を増やす!
公的年金に限れば、自営業者は会社員に比べ確かに不利です。しかし、宮仕えの苦労もなくやった分だけ収入も増えるやり甲斐もあります。要は、おかれた立場を理解して会社員に比べ劣っているところを知り、自分年金づくりを早めにスタートしておけばいいのです。 例えば、毎年の節税効果と老後の退職金づくりのために(1)国民年金基金や(2)小規模企業共済、投資も楽しみたいなら(3)個人型の確定拠出年金、民間の(4)個人年金などに加入するのもいいでしょう。各々の特色を理解し、無理せず継続して掛金や保険料を負担していく姿勢が、積極的な人生づくりを増進させる効果もありそうです。
<参考>
- (1) 国民年金基金
自営業、フリーランスなどの人のために、老齢基礎年金に上乗せして老後を保障する公的な年金制度。加入対象者は、20歳以上60歳未満の第1号被保険者、および日本に住所があり国民年金に任意加入している60歳以上65歳未満が対象。掛金の上限は月68,000円(個人型確定拠出年金に加入しているときは、その掛金と合わせ68,000円が上限)。掛金は「全額社会保険料控除」、受け取る年金は「公的年金等控除」の対象。
- (2) 小規模企業共済
小規模企業の個人事業主などのための退職金制度。掛金月額は1,000円~70,000円の範囲内(500円単位)で自由に選べる。掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」、一括受け取りは「退職所得課税」、分割受け取りは「公的年金等控除」の対象。
- (3) 個人型確定拠出年金
掛金と運用収益をもとに給付額が決まる年金。「企業型」と「個人型」があり、厚生年金基金等の企業年金制度(中退共・特退共を除く)を有する企業、確定拠出年金を採用している企業の従業員は、国民年金の第一号被保険者(自営業者等)と同様、個人型に加入可。掛金は、自営業者などは国民年金基金の掛金と合わせ68,000円が上限。掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」、一括受け取りは「退職所得課税」、分割受け取りは「公的年金等控除」の対象。投資中の運用益非課税 (2013年度末現在)。
- (4) 個人年金
個人年金は、生命保険会社、損害保険会社、日本郵政公社等が引き受ける保険型年金(個人年金保険)と、銀行、信託銀行、証券会社が扱う貯蓄型年金にわかれる。支払った保険料は生命保険料控除の対象。年金受給時は雑所得の対象。