個人の節度がより求められる高齢期 ~落とし穴は、暮らしの中での格差の拡大~


落とし穴は、暮らしの中での格差の拡大

年金相談を受け、退職を控えた人にリタイアメントセミナーを実施し、判断能力が不十分な人を支援する成年後見受任と、私の仕事の対象者はほとんど中高年者です。そこで学んだことは、就労収入がある現役世代では見えにくい格差の落とし穴が高齢期にはっきり見えてくるということです。格差の内容は、社会的地位、体力、生活レベルなどの経済、子を含めた家族・夫婦の関係と確執、人生に対する価値観などの違いなどです。 長い人生を過ごしてきた方の相談を受ける身としても、質問の仕方に気を使うところです。

こちらの何気ない一言で感情がこじれた経験もあるからです。相談に限らず身近な人と交わす会話における話題の取り上げかたにも、高齢期こそ気配りが必要かも知れません。今回は、最近増えている気になったことを例にお話しします。


統計にでない、就労収入があるときには見えにくいリスク

企業などで開催するリタイアメントセミナーの受講生の多くの皆さんが、退職後もずっと今の快適さが保証されていると信じています。以下の統計でも、60歳以降で高齢期の暮らしを心配していない人は約7割。一般的には現在の高齢者の暮らし向きはほぼ安泰です。


【暮らし向きが心配ない高齢者は約7割】

高齢者の暮らし向き

※内閣府「高齢者の経済生活に関する意識調査」(平成23年)
注:対象は、全国60歳以上の男女


世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄残高は、全世帯の平均の1.4倍

【世帯主の年齢階級別世帯人員一人当たりの1年間の支出】

世帯主の年齢階級別世帯人員一人当たりの1年間の支出

※総務省「家計調査(総世帯)」(平成23年)より内閣府にて算出。
注1:1ヶ月間のデータを12倍して1年間の支出を算出し、平均世帯人員数で割った。
注2:その他の消費支出:諸雑費(理美容品等)、こづかい(使途不明)、交通費、仕送り金


とは言いながら、たどった道が長い分高齢期の暮らし向き(経済)はかなり格差があります。
だからこそ、自分の場合をいつも考えたプランニングが求められます。就労収入がある現役時は、収入の多寡こそあれお金が回っており、日々の暮らしは何とか成り立っています。

しかし、将来年金収入のみになって気づく現実の怖さをシビアに予想できる人は稀です。極端に言えば、退職しまとまったお金が入ったら離婚を考えている夫(妻)もいるかも知れません。年金収入のみになったとき、住宅ローンが払えない、アパートの家賃が払えない、独立していない子の将来が心配、蓄えが少ない、自分の年金を受け取れない疑問に気づく夫(妻)などもいます。まさに、0からスタートした未来がある若いときとは異なり、高齢期の心配の深刻さは比較になりません。


私の将来が見えるといいのだけど…

入社→就労収入・有。苦しいながら何とか暮らせる!(トラブルが見えていない)。退職→”高齢で対応に限界”年金収入のみいろんな借金・悩みの解決が必要!(トラブルが表面化)



交流は大切だけど、話題選びは慎重に!

高齢期を迎えた人の全てが思ったとおりに幸せに人生を歩んで来られた訳ではありません。出世した人、しなかった人、経済的に恵まれた人、生活に困窮している人、結婚した人、結婚しなかった人、離婚又は再婚した人、子どもに恵まれた人、恵まれなかった人、子が結婚している人や未婚の人、子どもが引きこもりになっていたり障害を持ったりしている人、子と疎遠な人、本人や配偶者または子が病気(介護を必要)の人、配偶者を亡くしている人など状況はまさに様々。

何歳であろうと当たり前ですが、特に長い人生を送って来られ複雑な事例を抱えがちな高齢期こそ、相手との距離を考えた配慮のある大人の会話の話題も必要と言うわけです。もちろん、相手から相談を受けたら親身になって聞いてあげるといいでしょう。

事例1. 子・孫自慢はほどほどに  ~ 子の相談が増えつつある


私の将来が見えるといいのだけど…


年金相談は年金を受けている中高年者本人のことばかりではありません。最近増えているのが年金受給世代の親から40代くらいの子どもの年金に関する相談です。今までは、何とか子どもの年金の保険料を納付できたけど、退職後いつまでも子の保険料を納付できるか心配、あとどれくらい加入すれば子は受給資格を満たせるのかなど、高齢になった親である自分が亡くなった時子のことが気がかりと相談のケースです。平成24年10月~27年10月までの時限立法である「後納制度」を利用して子の保険料を納付したい。別居している子の保険料を確実に納付したいので、親に納付書を送付してもらうにはどうしたらいいのか等切実です。

一般的に、引きこもりの子は自分で積極的に社会と接点を持とうとしないので、仮に受給資格を満たしても果たして将来子どもが年金請求してくれるかも心配の種です。昨今は、生活環境・雇用環境も様々、子のことで悩む中高年者も少なからずいます。幸せな自分を基準にして、一方的に子のことなど話題にしたりし過ぎることがない配慮も必要です。自分にいいことがあったときほど控え目くらいがちょうどいいのかもしれません。


事例2. 自分の年金口座がある通帳のありかも知らない妻

ご存知のように年金は個人資産です。夫婦でも、年金事務所などで止むを得ず配偶者が請求する場合、配偶者の本人確認が行われます。もちろん、年金請求書の年金の口座欄に本人の口座番号を記します。しかし、世の中には夫婦関係のこじれから、夫は、他人には伺いしれない夫婦の関係から、自分の年金額も知らず年金が入金する通帳がどこにあるのか知らされてない妻もいます。家庭内の家計管理だから、第3者がとやかくいうことではないかも知れませんがちょっと気になります。格差は家庭内でも存在するのですね。

上記は友人たちとの会話から年金などお金の管理について疑問をもち表面化した例です。妻はずっと家計は夫任せでした。逆の立場の夫もいそうです。2ヵ月に1回の年金収入を計画的に使う楽しみは、高齢期だから味わえます。現役時から、夫婦や家族内で、お金としっかり向き合って理解しあっておくことが大切ですね。高齢期になり立場の弱い人が、いきなり理不尽さを論理的に相手に話す力は身につきませんから。


事例3. 全ての人と付き合いを濃くしすぎない!

高齢期こそ、遠くの親類より近所の人と付き合っておく大切さは皆さんご存知のとおりです。ただ、付き合い方のマナーも知っておきましょう。友人は「数」より「質が」大切です。本当に困ったときお互い助けあえる友人づくりをいつも心がけでおきましょう。ところ構わず誰にでも自分のことを話しすぎ、又は、相手の状況に配慮せず聞きすぎ詮索しすぎたばかりに、思わぬところで相手を傷つけたり、自分も傷ついたりすることがあります。

相手の大切にしている、または触れて欲しくないところに、土足で入りこむことのないようにしたいものです。また、高齢期は一般的にこだわりも多くなりがち、自分なりのプライドもあり、一度こじれた誤解を解くのに相当時間がかかることもあります。本当に信頼できる友人以外は、ほどよい空間づくりが付き合いを長続きさせるコツです。最近個人的に感じるのは、人と上手にコミュニケーションをとれるかどうかは、精神的なものを含めた基礎体力も関係している気がしています。


基礎体力が周りを気遣う心を養い、自分を活性化させる
 ~ 「生活がリハビリ」と割りきって楽しむのも、選択肢の1つかも

高齢者世帯は交際費、保健医療への支出割合が高いのが、以下の図から高いのがわかります。世帯主が高齢者の世帯と総世帯における消費支出を比較すると、※1「保健医療」が1.36倍と健康の維持・増進のための支出が高くなっています。また、※2その他の消費支出のうち、「交際費」が1.45倍と子や孫など世帯外への現金の贈与も多くなっています。


全ての世帯の平均における消費支出の構成比に対する比率(平成24年:総世帯)

※統計から見た我が国の高齢者 (65歳以上)  総務省


健康が高齢者の一番の関心事、介護と医療など高齢期の支出を抑えます。まさに豊かな高齢期の暮らしを送るためのポイントは「体力づくり」と言えそうです。体力づくりと言えば運動等で体を鍛え、いつまでもスポーツを楽しむイメージです。しかし、私が考える高齢期の体力づくりには、人と上手に交流しながら楽しく生きるための「基礎体力づくり」も含んでいます。年齢的に激しいスポーツは無理でも基礎体力があると、心と体にゆとりができ周りもはっきり見え、人に優しくなれ、人とうまく付き合える豊かな人生を送れる気がするからです。

「生活がリハビリ」と割りきって、手間暇おしまず楽しんで動くこともセカンドライフでは大切です。

構えて体操的なリハビリは勿論ですが、日常生活の中での動き全てをリハビリ、つまり「生活がリハビリ」と割りきって、手間暇おしまず楽しんで動くこともセカンドライフでは大切です。
歩けるなら、万歩計持参で外出すれば、地下鉄の長いホームも歩数が増える分楽しくなるでしょう。歩くのがおぼつかなくなった時、毎日親や友人などに便りを書き1つ遠いポストまで歩いてハガキを投函も、脳の刺激と気持ち元気づくり、足腰のリハビリに最適です。ずっと昔、寝たきりになった人が、毎日考えた碁の1手を書いたハガキを家族にポストに投函してもらい、兄弟でやりとりをして生き甲斐にされていたことを聞いたことがあります。高齢期の暮らしをよりベストにするには、あなたの上手な人づきあいと前向きな発想次第と言えそうです。快適にかつ自分が満足して長生きできるかも、日々の積み重ね次第、というわけですね。