本人・お墓・高齢者施設事情も変わる
誰もが多少の違いはありますが、日々の暮らしの中で人間関係や世の中の常識も簡単に無視できず、ほどよく折り合いをつけながら生活しています。しかし、今の世の中、私たちが思っている以上に早いスヒードで私たち自身と私たちをとりまく環境が変化していることに気づくことも必要になってきました。やり直しの時間が限られている高齢期こそ早めの気づきが必要です。なぜなら、今までの常識が通用しない例が増えているからです。今回は、身近で経験した「お墓」と「高齢者施設入居のコスト」についてお話ししましょう。
65歳以上の者がいる高齢者世帯の約5割が単身世帯
65歳以上の者がいる世帯は2,242万世帯と全世帯の44.7%。65歳以上の者のいる世帯のうち単身世帯が573万人(高齢者世帯の49.3%)、夫婦のみの世帯が551.3万世帯(同47.5%)、単独世帯のうち男性は29.0%、女性は71.0%と圧倒的に女性が多いのが特徴です。
長寿時代を迎え、誰もがいつか介護が必要になる可能性の不安や万が一の場合のお墓の心配が頭をよぎります。ましてや着々と老いる現実に向き合う高齢者の不安は人ごとではありません。厄介なことに高齢の夫婦のみ、高齢単身者世帯の場合、不安は募るけど思いを行動に移せないことが多々あります。さらに高齢期は判断能力も衰えがち、人との交流も減りがちです。いつしか何も判断できない状況になったとき、もはや対策は支援者に任せるしかなくなります。支援の内容は自分が若いとき考えていたことと異なることがありそうです。た゛からこそ、現実をしっかり見つめ、元気な今だけでなく、自分の将来を見据えたプランづくりが今求められています。
※国民生活基礎調査 平成25年
お墓があれば安心?
以前はお墓さえあれば死亡しても行き先があるから安心と考えていましたが、最近、いろんな事例に接し、お墓に対する認識が少し変わりました。お墓があるから安心とは言えないこともあるからです。Aさんの場合でお話ししましょう。Aさん(75歳)独身、療養生活が長く現在気を許せない状況です。Aさんは唯一の身寄りであった姉が亡くなった15年ほど前立派なお墓を建てています(お墓代として△◯◯万円支払済み)。問題はAさんに墓守をしてくれる親族がいないことです。
そこでお墓のことが気になるAさんのために、お墓があるお寺さんに永代供養にするための費用をお聞きしてみました。お墓には他に複数のお骨が収められています。お寺さんのお話しでは、納められているお骨1体に付き80万円+今のお墓自体を更地にする費用+ Aさんが入院中の毎年の管理料未払い分の計△◯◯万円の支払いが必要とのことでした。
提示された予想外の高額に唖然としましたが、Aさんの病状も悪くお墓が必要な時期が迫っており、やむをえずある石屋さんの電話相談に相談してみました。相談に対する以下のお応えは目からウロコでした。
- お寺さんの提示した金額は相場の範囲内とのこと。
- 新しい永代供養先の紹介は可能だが費用は必要。但し、現在のお寺のお骨の移転など役所での手続きが煩雑で面倒。
- 一番手間とお金がかからないやりかたは、今のお寺に金額の交渉をしてみるとよい。
早速、緊張しながらアドバイスのとおりお寺さんに電話で率直に事情を説明したところ、当初の約5分の1の金額で複数のお骨を含めた永代供養と墓の更地費用などを引き受けてもらえました。いくら立派なお墓があっても墓守がおらず無縁墓になる運命だったAさんの最後の落ち着き先が決まりホッとしました。これで毎年供養していただけるとのことです。
お墓の移転費用も交渉次第だなんて予想外、お墓≒神聖なものというイメージがあったからです。立派なお墓をつくることが死者を敬う意識が高いと思いがちですが、そもそも後継者がいないと分かっている場合など、お墓のつくり方を考えておくことも必要だと再認識しました。
高齢者施設の入居一時金の払い方が変わる!
高齢期の住まいとして介護付有料老人ホームなどを検討している人も多いでしょう。入居時の一時金の平均は約1,000万円前後が相場と言われています。入居一時金は住居費などの前払いなので、一時金が少なければ当然毎月の管理費などが高額になります。介護付有料老人ホームの場合、入居者の平均年齢は女性で85歳前後、入居一時金の償却期間はおよそ5年が相場でした。つまり、5年以上入居なら支払ったお金の元は取れる訳です。
ごく一般的なB施設の例でお話しします。入居一時金980万円を支払った場合、毎月の支払はその他の費用を含めても約24万円ほどです。実際の支払いは年金収入との差額になるので計画もたてやすくなります
【19.25㎡~20.13㎡・一人入居】(26.8.1現在 B施設の場合)
入居一時金 | 償却 | 月利用料 (30日分) |
内訳 | |||
初期償却 | 償却期間 | 管理費 | 食費 | 家賃相当額 | ||
480万円 | 138万円 | 36ヵ月 | 252,250円 | 89,250円 | 63,000円 | 100,000円 |
680万円 | 197万円 | 42ヵ月 | 227,250円 | 75,000円 | ||
980万円 | 293.6万円 | 48ヵ月 | 197,250円 | 45,000円 | ||
1,380万円 | 408万円 | 60ヵ月 | 177,250円 | 25,000円 | ||
732万円※ | 217.2万円 | 36ヵ月 | 182,250円 | 30,000円 |
●その他の費用:介護保険のサービス利用料1割自己負担(平成27年8月以降は一定の所得以上の人は2割)
医療費・オムツ代・レクリェーション代など。月利用料プラス約4~5万円必要。
※90歳以上限定
今後、払い方が変わります。
B介護付有料老人ホームから家族会に届いた資料を参考にお話しします。
従来の入居一時金の中には、月次償却と入居一時金償却がありました。いわゆる前受金ですが、これを受理してはいけないという法改正です。但し、入居一時金を受理しないと施設側の運営上負担が大きいので、入居一時金を受ける場合は、月払いプランを示すことを条件の料金設定も可能になりました(改正老人福祉法(平成24年4月1日施行・・・平成24年4月1日~27年3月31日までが猶予期間)。既にBの他施設では適用されており、契約の約8割が前受金0円を選択されているそうです。
【18.75㎡~20.13㎡・一人入居】(改正後のB施設の場合)
前受金 | 内訳 | 月利用料 (30日分) |
内訳 | |||
想定居住 期間分 |
想定居住期間を 超えて継続する ときに備えて 事業者が受ける額 |
管理費 | 食費 | 家賃相当額 | ||
0円 | 0円 | 0円 | 341,600円 | 91,800円 | 64,800円 | 185,000円 |
200万円 | 141万円 | 59万円 | 308,100円 | 151,500円 | ||
1,490万円 | 1,050万円 | 440万円 | 156,600円 | 0円 |
●その他の費用:介護保険のサービス利用料1割自己負担(平成27年8月以降は一定の所得以上の人は2割)
医療費・オムツ代・レクリェーション代など。月利用料プラス約4~5万円必要。
毎月の負担増 ~ ゆとりある家計づくりが必須!
何歳まで高齢者施設に入居と分かっていればマネープランも立てやすいのですが、人間の寿命はそう都合よくはいきません。改正後の上記の一人部屋の場合、ごく一般的な人の前受金の選択肢か減りました。仮に、改正前の入居一時金980万円、介護サービス1割負担を含めた支出を月24万円、改正後に前受金200万円、介護サービス1割負担を含めた支出を月35万円とした場合の年金収入を控除した支払い総額を比べてみます。共に80歳で入居、年金は月10万円とします。
【改正後は、長生きすると支払い総額が増える】
80歳末時 | 84歳末時 | 87歳末時 | 90歳末時 | |
改正前総額 | 1,148万円 | 1,820万円 | 2,324万円 | 2,828万円 |
改正後総額 | 500万円 | 1,700万円 | 2,600万円 | 3,500万円 |
【試算の前提】
年金 | 入居一時金 | 月支払額 (年) | |
改正前 | 120万円 | 980万円 | 24万円(288万円) |
改正後 | 120万円 | 200万円 | 35万円(420万円) |
入居時の一時金が少ないのはありがたいことですが、改正後の試算では長生きすると支出が増えます。寿命は都合よく訪れません。かつ年金収入は今後当分の間あまり期待できす゛、平成27年10月には消費税10%も予定されています。今後社会保険の負担は増えそうです。高齢期の収入が増えず支出が増えれば当然に持ち出しが増えます。かつ、本人の要介護度や状況が変われば、支出も変化します。さらに、高齢者が認知症になり、止むを得ず専門職後見人などの申し立てをした場合、後見人などへの報酬も必要です。
運営する施設も入居時の一時金でホッと一息つけたメリットが減ります。高齢者施設ラッシュで経営が苦しくなるところもありそうです。事前の施設選びも慎重にしたいところです。
入居高齢者側の問題は、ますます継続的に続く支出が高くなる高齢者施設の怖さに気づかないフリをしている人も少なからずいることです。今回はごく一般的な施設の例でお話ししました。今までそれほど高額でなかった施設でさえ毎月の支払いが高額になるしくみが分かりますね。今回は年金収入を120万円(月10万円)でしました。年金収入がもっと多ければ持ち出し支払い総額が少なくなります。長生きの時代だからこそ、公的年金や民間の個人年金、預貯金などを少しでも増やしておく効果に気づくことも大切ですね。