社会保険環境の変化と統計値の中身の理解から
少子高齢化の進展で、世代間における医療・介護・年金など社会保険の「給付と負担」の不公平感の話題が旬。そこへ世代間の年金格差の試算発表の報道が飛び込んできました。(平成27年9月28日発表・平成26年 財政検証結果レポート・第5章第2節)
マクロ経済スライド発動 (平成27年4月) により、今後年金額は物価や賃金の上昇ほど増えないしくみです。ただでさえ、公的年金への不安感を抱いている人が、払った保険料に対して、「生涯受け取れる公的年金額の倍率が世代で異なる!」の見出しだけみて、年金加入をソントクで判断する人がますます増える危機感を抱いています。今回は、統計の試算内容について皆さんと一緒に考えてみたいと思います。
親にゆとり(年金収入)があれば、子世代の負担も減少!
高齢者世帯の収入300.5万円に占める年金額、203.3万円と約7割。収入のうち公的年金のみの世帯が約6割。高齢者の暮らしの大半は、公的年金で成り立っていることがよく分かりますね。つまり、公的年金の有無、金額の多寡が高齢期の生活の質に関係してくることも。
表面的には見えにくく私たちもあまり意識していませんが、親世代に年金があることで子世代が私的に親の面倒を見る比率も減少します。昔に比べ寿命が伸びた分、親が年金収入のおかげで多少とも自立していることは子の家計にメリット大です。
資料:平成26年 国民生活基礎調査の概況
世代で異なる年金格差
~ 納付額比 70歳 ・5.2倍、30歳 ・2.3倍
年金相談で多いのが「私の年金、いつからいくら?」ですが、ときに私が払った保険料の総額はいくらという質問を受けます。多分、支払った保険料にみあった年金額かが気になるのでしょう。但し、保険料も年金額も単純に合計すればいいものではありません。いずれも当時の貨幣価値と経済成長などで変わるからです。平成26年 財政検証結果レポート(厚生労働省)で内容を確認してみましょう。
世帯における負担保険料に対する年金給付額 <標準的な成長ケース>
生年 | 厚生年金 | 国民年金 | ||||
---|---|---|---|---|---|---|
H27年・年齢 | 負担保険料① | 年金給付額② | 倍率②/① | 負担保険料 | 年金給付額 | 倍率②/① |
S20年・70歳 | 1,000万 | 5,200万 | 5.2倍 | 400万 | 1,400万 | 3.8倍 |
S25年・65歳 | 1,100万 | 4,700万 | 4.1倍 | 400万 | 1,200万 | 2.9倍 |
S30年・60歳 | 1,400万 | 4,600万 | 3.4倍 | 500万 | 1,200万 | 2.3倍 |
S35年・55歳 | 1,600万 | 5,000万 | 3.0倍 | 700万 | 1,300万 | 2.0倍 |
S40年・50歳 | 1,900万 | 5,300万 | 2.8倍 | 800万 | 1,400万 | 1.8倍 |
S45年・45歳 | 2,200万 | 5,600万 | 2.6倍 | 900万 | 1,400万 | 1.7倍 |
S50年・40歳 | 2,400万 | 5,900万 | 2.4倍 | 1,000万 | 1,500万 | 1.5倍 |
S55年・35歳 | 2,700万 | 6,300万 | 2.4倍 | 1,000万 | 1,600万 | 1.5倍 |
S60年・30歳 | 2,900万 | 6,800万 | 2.3倍 | 1,100万 | 1,700万 | 1.5倍 |
※それぞれの保険料負担額及び年金給付額を賃金上昇率を用いて65歳時点の価格に換算したものをさらに物価上昇率を用いて現在価格(平成26年度時点)に割り引いて表示したもの。端数処理上倍率が合わない場合あり。
意外と知られていない試算の前提 (平成26年 財政検証結果レポート)
- 平成27年度に20歳~70歳になる1945年~1995年生まれの世代で実施
- 加入期間
① 厚生年金(同年齢の夫婦2人分)
夫は20歳から60歳未満厚生年金に加入(平均標準報酬額42.8万円)、妻はその間第3号被保険者で、昭和61年3月以前は国民年金に任意加入していない。
② 国民年金(1人分)
20歳から60歳未満の国民年金第1号被保険者 (保険料納付済み)。 - 受給期間
男女とも保険料支払い終了時点の60歳時点における平均余命(平成24年1月推計)まで生存と仮定。厚生年金の場合、老齢厚生年金の受給者である夫が死亡した後の妻遺族厚生年金受給期間も含む。 - 保険料
厚生年金の保険料は本人と事業主で折半だが、本人負担分のみで試算。
◆従って、現実には厚生年金に加入した単身者や共働き夫婦の場合の納付額比の年金額の倍率は低下が予想されます。逆に国民年金の免除申請者の場合の倍率は高くなるでしょう。 あくまでも、倍率は前提条件のもとのものである認識が必要です。
賃金水準(1人あたり)が同じ世帯における公的年金の負担と給付のイメージ・参考
ともすれば支払った保険料と受け取る年金総額の倍率に注目しがちですが、試算の前提条件次第で試算のイメージは変わります。私たちは年金そのものの成り立ちを知り、長生きの高齢期の生活に欠かせない老齢年金の大切さ、万が一の場合受けられる遺族年金や障害年金の存在価値も含め、自分年金を育てていくしかありません。今後、年金財政は益々厳しくなると予想されますが、それでも年金収入の価値はまだまだ大きく無視できません。
年齢別にみた社会保障制度に関する情報に接する程度
平成25年社会保障制度改革に関する意識等調査結果
社会保障制度に対する関心度は、興味有りが50代60代が6割超と高く、29歳以下は3割未満と低い結果がでています。若い世代もいつか老後を迎えます。年金額の世代間格差拡大の新聞やテレビなどの見出しにショックを受けるだけでなく、自分の未来は厳しい時代になるからこそ、積極的に情報収集して今から自分年金を増やしていただけたら嬉しい限りです。