解決を阻む、顔なじみに弱い高齢者の特徴
一頃に比べ、専門家対象の年金セミナーを除き、一般生活者に対する年金セミナーの集客はあまりよくありません。最近の高齢者とその家族の関心は、長寿による「認知症」への不安から、様々な「高齢者支援」にシフトしつつあるようです。それも、制度そのものに理解を深めようと言うよりは高齢者を支援している成年後見人等の「不正」や、将来の不安から身元保証や葬儀・納骨等に関する「生前契約」をしていた法人の破綻等を通し、益々不安が募る感じです。
今回は、統計等から高齢者を取り巻く社会の環境変化についてお話しします。まずはトラブル内容を理解して、トラブルコースに自分から入っていかない生き方も大切ですね。
認知症の患者数は 2025年に約700万人 ~ 65歳以上の約5人に1人
高齢化の進展に伴い、認知症患者数は、2012年の約462万人(65歳以上の高齢者の約7人に1人)から、2025年に約700万人(65歳以上の高齢者の約5人に1人)に増加すると推定されています。 ここまで増えると、もはや支えきれないとみた国は、認知症の人が単に支えられる側のみでなく、認知症とともによりよく生きていける環境整備が必要と言っています。しかし、これが口で言うほど容易いことではありません。
認知症の有病率等
日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究等より 2014年度
成年後見制度での不正増加
「成年後見制度」は、認知症などで判断能力が不十分な人などに代わり財産管理や身上監護(病院への入院、高齢者施設など入所、介護保険サービス利用時などの契約など)をする制度です。近年、親族後見人や弁護士・司法書士・社会福祉士など専門職後見人の不正がマスコミで取り上げられています。
ちなみに、東京家庭裁判所委員会「近時の成年後見事件の実情」(平成26年12月18日開催)やマスコミ報道(毎日新聞・日経新聞など)によれば、 不適切な後見実務被害額などが以下のように増加しているとのこと。意外にも親族の不正が多いことも分かります。
最近の成年後見制度における不正件数
後見制度支援信託の信託財産額の平均約3,200万円 (2015年)
成年後見人等の増加で家庭裁判所の監督機能が十分稼働していない背景もあり、2012年(平成24年)2月より、不正を防ぐために「後見制度支援信託」が始まり、利用件数は順調に伸びています。
「後見制度支援信託」とは、親族後見人等が管理する本人(未成年被後見人含)の預貯金等のうち、日常的な支払いに必要な金銭(東京家裁は原則500万円上限・地域で金額は異なる)を後見人が管理し、常時使用しない金銭を信託銀行に信託するしくみです。
後見制度支援信託のしくみ
後見制度支援信託の利用者数の推移
最高裁判所事務総局家庭局 後見制度支援信託の利用状況等について(平成27年1月~12月)
確かに大金を成年後見人が管理しない「後見制度支援信託」は、不正を防ぐ効果はありますが、本人のお金を本人のために有効に使えないことも。なお、東京家庭裁判所後見センターレポート(平成25年1月)によれば、最高裁は、親族後見人に対し横領事案について刑罰を求め、適切に対応していく予定とあります。また、親族に限らず、最近は財産額などにより監督人選任も増えています。不正チェック機能が厳しくなるのは良いのですが、本来成年後見制度を利用した方がいい人が、制度の縛りを嫌って利用せず、親族の不正が表面化しない恐れもありそうです。
公益法人 日本ライフ協会 の破綻 ~2016年1月
日本ライフ協会は、将来高齢者施設に入所・病院に入院時の身元保証や葬儀・納骨などの費用として、高齢者から集めたお金のうち、将来の葬儀費用等にあてる預託金を人件費など会運営に使い事実上破綻したとのことです。
日本ライフ協会に限らず、高齢者の不安を利用し入会を勧誘し、契約 (生前契約) させる会の増加の背景の1つに、単身高齢者や夫婦のみ世帯の増加があります。「最期まで手続きの面倒をみます」と言う心地よい言葉を聞き、思わずすがってしまうケースもありそうです。
定款などをきちんと確認して契約された方はどのくらいいたのでしょうか。
入会者は、身寄りかない人が多いので、親身になって相談できる人が少なかったかも知れません。そんな中、親身になって入会を考えた方がいいとアドバイスした人がいたかも知れません。
しかし、高齢期は契約内容を検討して决定するよりも、紹介者がいい人らしい?と雰囲気で簡単に契約してしまうケースがあります。
高齢者は顔なじみの人を信用する
高齢期の特徴で、「顔なじみ」の人を信用するケースが多いのも現実。親しげに話しかけ、何度も自宅に通う人などを信用しがちです。業者などが、まずは高齢者に覚えてもらうことから入るのはそのためです。そして、すべてのトラブルはそこから始まります。
少し、事情が異なりますが、高齢者の成年後見人などしている私の例でお話しします。在宅で長いこと介護サービスを受けている単身高齢者の場合、良い悪いに限らずいつも会うケアマネジャーの言葉が第一。新しく後見人になった私の言葉は耳に入りません。しかし、月日がたち後見人に慣れてくると、全面的に後見人の私を信用してくださいます。そもそもケアマネジャーと成年後見人の仕事の区別を理解されていないこともあります。
判断能力の差は個人で異なりますが、だからこそ自分の不安が現実になりそうな高齢期になってから、事前準備もなく焦って動きだす怖さを知っておきましょう。誰しも、いきなり若者から高齢者になりません。限られた時間を上手にいかして、蓄えたお金の価値が分かるうちに行動しておきましょう。
満足できる老後には、それなりの意識と努力も!
将来の不安の内容を早めに整理しましょう。
ゆとりを持って考えられ、人を正しく見ることができ、信用ある相談相手がいる若いときから時間をかけて調べ検討していくとよいでしょう。それがベストの選択か、選択時の判断材料として、利用する・しないに関わらず周辺知識である成年後見制度なども学習しておいてソンではありませんね。