世代格差を意識したプランニングを!
企業などが主催するリタイアメントセミナーなども、キャッシュフロー表(収支表)を作成し、今後起こると予想される老後のお金などに関する問題点に、気づいてもらおうという趣旨の内容が増えています。概略的なお話しを受講し、「何となく分かった」ではこれからの時代を乗りきれないという危機感もあるのでしょう。
今、私達を取り巻く国内外の環境はめまぐるしく変わり、不安ばかりが募ります。例えば、イギリスにおけるEUに関する国民選挙(平成28年6月23日)でEU離脱派の勝利や、平成29年4月に予定されていた消費税10%増率への延期(平成28年6月1日・安倍首相発表)、消費税10%前提の年金の受給資格10年への短縮の行方は、微妙な立場の人にとって死活問題です。但し、年金においては、前倒しで検討も考慮とされており、当初の予定通り平成29年4月の開始に向けて準備される予定です。
今回は、漠然と抱いている将来の年金に対する不安を具体的な金額でお話ししたいと思います。すでに年金を受給している人生の先輩たちに比べ、かなり少ない年金額で暮らさざるを得ないこれからの人たちが現実を知れば、生き方や働き方、お金の使い方などにも工夫が求められることに気がつくでしょう。
モデル世帯の年金額の推移
厚生労働省は標準世帯 (モデル世帯)の年金額を毎年1月末に発表しています。モデル世帯とあるとおり、一定の条件に当てはめて算出した年金額なので実態と異なります。
例えば、夫は厚生年金に40年加入、妻は国民年金に40年加入で試算していますが、現実に妻が国民年金に40年加入しているケースはあまり多くはありません。さらに生年月日により先輩たちは国民年金に40年加入しなくても満額年金を受給可能でした。
では、年齢により将来の年金額はどれくらい異なるのか、モデル世帯の年金額で考えてみましょう。妻は3歳年下。一般的に収支表を作成するとき、夫婦共生存した額で作成しますが、今回は現実編で夫80歳(男性の平均寿命 80.50歳 平成26年簡易生命表)で死亡と仮定し、年金額は平成28年度価格で試算。
妻の生年月日で、65歳からの振替加算(1)と夫死亡後の加算(2)の合計約35万円が嬉しい。
国民年金40年加入で満額受け取れます。妻1人になり高齢者施設などに入居の場合は、不足分を預貯金などから取り崩すイメージです。
夫の生年月日の違いで事例1に比べ定額部分と加給年金の計約117万円(4年分で総額約468万円)減少。加えて妻に加算される振替加算(1)と夫死亡後の加算(2)の合計約9.6万円、事例1に比べ3分の1弱に減ります。
妻に加算される振替加算(1)と、夫死亡後の加算(2)合計約1.5万円とごく僅かです。
事例1から事例3を比べると、妻が1人残されたときの収入の目減りが大きく、将来民間の高齢者施設に入居したいと思ったとき、預貯金などの取崩し額の増加が予想されます。現在、介護付有料老人ホームに入居されている人の平均年齢は80代半ば、かつ大半は女性が一般的です。
つまり、これからの世代は、事例1より前の世代の多くが入居されている施設への入居は、かなり計画的にしないと難しくなりそうです。今でも、入りたい施設、空きがある施設はありますが、老後の生活のペースを支える年金額の減少をみれば、今後益々予算が合わないため入居できないケース、施設のレベルを落とさざるを得ないケースが増えそうな気がします。
65歳になるまでの5年間年金収入がないことに対する対策は早めに立てておきましょう。できる限り働く、今から積み立てる、節約する、投資で増やすなどやり方は人それぞれ。生存していれば、老後は静かに確実に誰にも訪れます。
なお、年金額は、民間会社に一定の条件で務めたことが前提の試算(※)です。在職中の給与などが高ければ当然に遺族厚生年金額も増えます。但し、妻に厚生年金などの加入期間がある場合は、遺族厚生年金額との調整がかかります。上記はあくまで参考ですから、自分の場合はどうなるかを考えてみるといいでしょう。
いずれにしても、15年前から年金を受給している世代(事例1)に比べ、年齢が若くなるほど、65歳前と妻1人である期間の受給年金額が少なくなり世代間の年金格差が見えてきます。
老齢年金は生存している限り受給できる年金なので、長生きすれば受給総額が増えます。
なお、単身の人の年金に加算はありません。本当の老後の真っただ中に複雑な年金の理解は無理、かつ対策が間に合いません。だからこそ、仕組みと具体的年金額(月額)を早めに知って、マネープランに活かしましょう。