リタイア後のマネープランの危機
平成29年度の年金額が前年度比0.1%引き下げと発表されました(平成29年1月27日・厚生労働省)。平成29年度の年金額の支払いは、通常4月分の年金額が支払われる6月からです。 ジワジワと減っている年金額に不安を感じますが、意外と再婚事情による年金額の減少に気づく人が少ないのも現実です。 いざ年金を受けとって驚く前に、変わっていく年金額の危機に備えておくことも大切です。今回は再婚事情に絡めて、夫婦の一方が死亡した場合と比べて厳しくなる年金額についてお話しします。
標準世帯の年金額 (月額)の推移
厚生労働省は標準世帯(モデル世帯)の年金額を公表しています。あくまでモデル世帯の年金額なので実態より金額は多めですが、推移をみる参考にしてください。
標準世帯の主な年の年金月額の推移※1厚生年金は、夫が平均的収入(平均標準報酬・賞与含む月額換算42.8万円※2)で40年間就業し、妻がその期間すべて専業主婦であった世帯が受け取り始める場合の給付水準
※2 平成26年以前は、平均的収入(平均標準報酬36万円)
ワンポイント情報
① 年金額を決めるルールによれば、年金額は物価と賃金がマイナスかつ賃金が物価を下回る場合、物価で決まります。よって平成29年度の年金額は、
物価 △0.1% > 賃金△1.1% → 物価の△0.1%で決定
② 物価がプラスで賃金がマイナスの場合、年金額は変わりません。
年金改革法による年金額の改定のルール(平成33年4月施行)により、①と②の場合、賃金で年金額が決定されます。
経済環境により年金額が増えそうもないのが分かりますね。
長年年金に加入した人でも年金額は減少傾向にある現実は理解できました。では結婚状況の変化で年金額はどう変わるかみてみましょう。
夫婦の初婚・再婚で変わる年金受給額
統計によれば、夫妻とも初婚は減少傾向です。構成割合をみると「夫妻とも再婚又はどちらか一方が再婚」は、平成27年は26.8%と上昇傾向です。平均婚姻年齢も夫妻とも初婚の場合、夫は30.7歳、妻は29.0歳、夫妻とも再婚の場合、夫は46.5歳、妻は42.7歳となっています。
なお、離婚した人の再婚率は、いずれも男性の方が高く30歳前半で高くなっています。
晩婚化と若い世代の再婚率の高さは、夫と妻の受け取り年金額に微妙に関係します。
厚生労働省 人口動態統計特殊報告
<入社後7年の夫(30歳・平均給与等35万円) 子3歳・専業主婦の妻(28歳)の場合>
遺族年金は、夫死亡時、一定の要件が合えば婚姻期間の長短に関係なく遺族は年金を、受給できます。事例の夫は厚生年金に7年の加入ですが在職中の死亡なので、年金額は25年(300月)にみなして計算し、子が18歳の年度末を過ぎたあと58.45万が遺族厚生年金に加算されます。
夫が在職中に死亡のイメージ (妻は40年国民年金に加入予定) 配偶者と離婚離婚時の年金分割は、婚姻期間の夫の厚生年金(保険料納付記録)を年金が多い夫から妻に分割されます。妻は専業主婦なので按分割合は2分の1で請求できます。 但し、妻に分割されるのは妻が年金の受給資格を満たし年金を受給できる65歳からです。婚姻期間が短く夫が若く給与が少ないので金額も僅かです。夫死亡後即受けとれ、かつ子の加算と妻の加算がある遺族年金との違いです。
離婚分割のイメージ (夫妻とも併せて65歳から老齢基礎年金の受給可)
なお、夫は妻に厚生年金(保険料納付記録)を分割した分、夫の老後の年金額は減ります。
従って、夫が再婚した場合、保険料納付記録の年金である報酬比例部分×3/4の遺族厚生年金も減るため、再婚妻の遺族年金額は少なくなります。
事例の夫は厚生年金の加入期間が短く給与が低いときの保険料納付記録の分割なので影響は少ないとは言え痛手です。
仮に、事例の夫婦の妻が婚姻期間中に厚生年金に加入していれば、更に夫から妻への分割年金は少なくなります。婚姻期間や時期、夫婦の働き方などにより分割年金に差がでるしくみです。
按分割合 2分の1と仮定 婚姻期間中の夫の年金額10万円 妻6万円と仮定
▼分割年金額のイメージ
(10万円 + 6万円) ÷ 2 = 8万円
10万円 - 8万円 = 2万円 が夫から妻に分割
マネープランのボイント
・普通に働いても年金額は今後あまり期待できない時代、配偶者に年金分割をしたときの老後資金のイメージと備えはできているか?
・婚姻期間の時期と報酬、婚姻期間の長さなどで分割年金額が決まる。事前に年金事務所などで年金分割の話合いに必要な情報提供を受ける。
・情報提供を受けても「年金分割の請求」をしないと年金を受けられない。
・分割割合
①合意分割 上限1/2 (平成19年4月以降離婚))
分割割合は話合い又は裁判で決める(但し、統計上は殆ど1/2)
②3号分割 1/2 (平成20年4月以降離婚)
第3号被保険者期間は自動的に1/2
・請求手続きは、離婚した日の翌日から原則2年以内。離婚等が成立し配偶者が死亡した日から1ヶ月以内。
まとめ
晩婚化により、家計管理の準備時期が遅れがち、子供の教育費がかかる時期が遅くなり、老後準備時期と重なる人も増えつつあります。さらに再婚率が高くなった現在、一般的なマネープランではもはや通用しない時代になりました。
それぞれの家庭で置かれている内容は異なるので、こんな場合はどうなるのか疑問を持ち、窓口に質問する行動力と保険・貯蓄・投資などでの備えも求められます。
今回は生別と死別の受け取る年金額の差の一部についてお話しました。離婚・再婚が増え寿命も伸びている現在、万が一のときの備えは死亡・遺族保障だけではないこと心に刻んで起きましょう。女性が弱者と言われがちですが、長い婚姻期間を持つ男性も離婚で弱者になる可能性がでてきたと言えましょう。