「あのとき知っておきさえすれば、こんな失敗はしなかったのに」と後で悔やむ1つに国民年金から受給できる遺族給付があります。あのときとは夫が死亡したとき、国民年金から受給できる遺族給付とは、「寡婦年金」と「死亡一時金」をいいます。
自営業の夫がなくなったとき、どの遺族給付を選ぶかで金額が違ってきます。今回は、少し複雑ですが、中高年だからこそ知っておいて欲しいケースでお話しましょう。
寡婦年金と死亡一時金
自営業者などが死亡した場合、国民年金独自の遺族給付として寡婦年金と死亡一時金があります。寡婦年金と死亡一時金の両方受給できるときは、どちらかを選択します。寡婦年金はその名のとおり妻だけが受給できる年金です。
<寡婦年金>
第1号被保険者期間のみで、保険料納付済期間と免除期間を合わせ25年(300月)以上ある夫が亡くなったとき、夫が受け取ることができた老齢基礎年金額の4分の3を妻が受給できます。他の要件は以下のとおりです。
- 婚姻期間(事実上の婚姻関係可)が10年以上あること
- 夫が障害基礎年金や老齢基礎年金を受給していない
- 夫が妻を生計維持していたこと
<死亡一時金>
第1号被保険者のみで、保険料納付済み期間と免除期間を合わせ3年(36月)以上ある人が亡くなったとき、遺族が受けられる一時金です。
保険料納付済期間 | 支給額 | 保険料納付済期間 | 支給額 |
---|---|---|---|
3年以上15年未満 | 120,000円 | 25年以上30年未満 | 220,000円 |
15年以上20年期間 | 145,000円 | 30年以上35年未満 | 270,000円 |
20年以上25年未満 | 170,000円 | 35年以上 | 350,000円 |
※付加保険料を3年以上納付したときは8,500円が加算。免除期間は納付割合で期間を計算。
国民年金の被保険者の種類
第1号被保険者 | 20歳以上60歳未満の自営業者や学生など |
第2号被保険者 | 厚生年金や共済年金に加入している原則65歳未満の人 |
第3号被保険者 | 第2号被保険者の被扶養配偶者で20歳以上60歳未満の人 |
◆ ずっと自営業者の夫が死亡したケース (結婚25年・子どもは成人)
夫(50歳) 国民年金 30年(納付済)
妻(48歳) 国民年金 60歳まで40年納付予定
<選択のポイント>
一般的には、寡婦年金の方がお得です。但し、妻の状況によっては一概にお得とも言えないこともあります。考えられる主なものは次のようなケースです。
- 妻の経済状態が苦しいときは12年後受給できるお金より、今手にすることができるお金がありがたいでしょう。
- 妻の健康状態が思わしくないときも同じことが言えます。
- 将来、妻が再婚した場合、元夫の寡婦年金は受給できません。
- 将来、妻が厚生年金に加入して働いた場合、寡婦年金と妻の厚生年金(部分年金)は選択します(下図参照)。
◆ 中高年も様々 ~脱サラして独立開業者のリスク (結婚25年・子どもは成人)
夫(50歳) 厚生年金7年 国民年金 20年(納付済)
妻(48歳) 国民年金 60歳まで40年納付予定
※ | 夫の国民年金加入が25年未満なので、寡婦年金はなし。 |
国民年金に20年加入なので、死亡一時金あり。 | |
夫の厚生年金に加入した7年は給与が低い若いときなので、遺族厚生年金額が低い。 |
ある相談者(妻)からのメッセージ
「もっと早くセミナーを聞きたかったです」とは、ある日の私の年金セミナーでの女性の感想です。「こんな悔しい思いは私だけで沢山です。今まで真面目に保険料を払ってきたのにもらえた遺族厚生年金は10万円弱。どうしても納得がいきません。どうぞ、私のような女性を二度と出さないためにもいろんなところで広報をしてください!」と、女性からのメッセージを受けて、自営業者の遺族給付の不思議をお伝えしました(相談者の女性のケースは、夫が脱サラして独立開業のリスク)。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/