生命保険の死亡保障額は、大黒柱の夫が亡くなったことを想定して妻や子が受給できる遺族年金額額などと、遺族が必要とする生涯生活費の差額を参考に決めるのが一般的です。妻が万が一の場合の死亡保障額までシュミレーションする人はあまりいません。
多分、その裏には収入の少ない、または収入がない妻が亡くなっても家計の体制に大して影響しないという発想があるからかも知れません。でも、本当に妻が亡くなったとき残された夫(子)の家計に影響はないのでしょうか。若い夫婦の事例でみてみましょう。
死亡保障額の考え方のイメージ
目次
会社員の夫が亡くなった場合 ~遺族は、妻と長男5歳・次男3歳
夫( 厚生年金15年・平均給与30万円) 妻(国民年金40年・60歳まで加入予定)
5歳と3歳の子どもがある妻に、遺族基礎年金と遺族厚生年金が支給されます。子どもが各々18歳(※)になると遺族基礎年金はなくなり、妻に遺族厚生年金(加算含)が支給されます。
会社員の妻(専業主婦・35歳)が亡くなった場合 ~ 遺族は、夫と長男5歳と次男3歳
妻の年金加入歴 国民年金15年
国民年金に15年加入していた妻は、結婚まではフリーランサーとして自身で保険料を払う第1号被保険者、結婚後は専業主婦だったので第3号被保険者でした。専業主婦の妻が亡くなった場合、遺族の夫と子どもに遺族年金は支給されません。但し、妻は国民年金の第1号被保険者期間が5年ありますので、夫に死亡一時金(※)12万円が支給されます。
子に遺族基礎年金の受給権が発生する。
但し、国民年金の場合、父(母)と暮らす子の遺族基礎年金は支給停止
若い父親のリスク
子どもが幼い場合、残された若い父の苦労は並大抵ではありません。家事全般のやりくりと、幼稚園や保育園の送り迎えなど子育ての責任が全て夫にかかります。
収入面からみると、残業も抑えざるを得ず収入は減りそうです。行政からの援助も父子家庭では母子家庭ほど恵まれていません。何より、公的年金収入がありません。
支出面からは外食が増えそうです。第3者に依頼せざるを得ない家事や子育て費用もかかりそうです。時間的、体力的にこれまで妻がこなしていたきめ細やかな家計管理は無理でしょう。
これでお分かりですね。妻の存在の大きさに。大黒柱が万が一の場合は当然ですが、妻か万が一の場合のリスクも金額でシュミレーションしておくと万全でしょう。
※ 死亡一時金
第1号被保険者期間のみで、保険料納付済期間(免除期間含)が36月以上ある人が亡くなったとき、遺族に12万円~35万円支給されます。参考(自営業者の遺族保障)
※ 遺族基礎年金の遺族に該当する子
18歳に達した年度末までの間にある子、または障害等級1級・2級の状態にある20歳未満の子で未婚の子。
共働き夫婦の妻が亡くなった場合 ~遺族は、夫と長男5歳・次男3歳
妻( 厚生年金12年・平均給与25万円) 夫(厚生年金15年・38歳当時)
会社員の妻が亡くなると、子どもに遺族厚生年金が支給されますが、遺族基礎年金はありません。遺族基礎年金は、子どもが18歳になるとなくなる有期年金です。
子に遺族基礎年金と遺族厚生年金の受給権が発生。
但し、国民年金の場合、父(母)と暮らす子の遺族基礎年金は支給停止
若い父親のリスク
共働きだった夫婦といえども残された若い父の苦労は専業主婦世帯と同じです。むしろ2人で賄っていた家計管理を1人でしていく苦労もあります。例えば住宅ローンを共有名義で契約していた場合、夫のローン支払いは続きます。家計に占める妻の収入が大きかった家庭ほどやりくりが大変でしょう。遺族厚生年金は子どもに支給されますが、子どもが18歳になればなくなります。遺族厚生年金額は42.84万円です。
自営業者夫婦の妻が亡くなった場合
妻 (国民年金 第1号被保険者15年)
若い父親のリスク
夫婦とも国民年金に加入して協力して商売などしている場合、家庭と仕事における妻の貢献度は計り知れません。即売上げに響きますし家計の支出も増えるでしょう。一方、国民年金から夫に支給されるのは死亡一時金14.5万円のみです。
妻の貢献度を形で評価しておきましょう!
家庭における妻の存在の大きさに気づいていただけましたか。意外と知られていませんが、妻は外で働く、働かないに関わらす、存在するだけで大きな経済効果を果たしているのですね。
夫が万が一の場合、遺族の収入の目減りや支出額はおよそイメージできます。しかし、妻が万が一の場合、妻が「存在」していたからこそ必要でなかった支出は後でジワジワと分かってきます。家計のマネープランを考えるとき、妻の日々の貢献度を形にしてみることをお勧めします。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/