年金はどうしてこんなに難しく、複雑になったのでしょうか。年金を仕事にする私も、月3回以上勉強会に参加していますが、それでも毎回何かしら新しい発見がある状況です。巷に満ち溢れた情報から個々の内容を繋げ、自分の場合で正しく理解しなさいと言う方が無理かもしれません。今回は、情報の谷間の誤解から、自分の思惑に反し離婚後すぐに年金が分割されてしまった夫の立場からのお話をしましょう。
目次
離婚時の年金分割 (●参考)
平成19年4月以降夫婦が離婚した場合、夫婦の厚生年金(保険料納付記録)を分割することが可能になりました。年金額が多い人から少ない人に分割されます。分割を受けた人は、自分自身の年金を受給できるときから、配偶者の年金を受給できます。今回の間違いは、すべてここから始まっています。詳しくみてみましょう。
春夫さん63歳 厚生年金を受給中 ・冬子さん56歳 (厚生年金7年+国民年金33年加入予定)
自分の年金を受給できるときからとは?
春夫さんの厚生年金を妻の冬子さんが受給できるときは、冬子さんが自分の年金を受給できるときからです。自分の年金を受給できるときの意味は以下の2つです。
①冬子さんが自分の年金を受給できる資格があること。
②56歳の冬子さんが自分の年金を受給できる60歳のとき。
春夫さんの勘違い ~ 単純に、夫から妻に分割すると思っていた
厚生年金に1年以上加入した冬子さんは、60歳から報酬比例部分の年金を受給できます。自分の年金が受給できる60歳から春夫さんの分割年金も受給できます。このことが春夫さんの勘違いの原因です。春夫さんは、妻の春子さんが年金を受け取り始める4年後まで、今受給している年金額は減らないと思っていました。公的年金は、離婚したからといって単純に夫から妻に分割する制度でないことを知らなかったのです。
年金分割の請求後すぐに分割
年金分割は、これまで加入した厚生年金の記録(保険料納付記録)を分割します。離婚後請求すれば夫の記録の一部が妻の記録に移ります。分割請求の時点で記録が移るので、春夫さんの年金はすぐに減るという訳です。実は、個人から個人へ分割でないしくみは、年金が少ない女性に大きな効果があります。分割請求時で記録を移しておけば、仮に請求後春夫さんが亡くなっても、冬子さんは分割後の記録で年金を受け取れるからです。
年金分割に合意しなかったのに・・・
春夫さんは、すぐに年金額が減るなら、年金分割に合意しなかったと述べています。しかし、按分割合が話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所が決めてくれます。年金分割は、離婚した高齢期の女性の収入がまだまだ低いことなどから成立した制度だからです。背景に、家庭は夫婦が支えあってこその考えがあります。少なくとも、春夫さんの厚生年金のうち婚姻期間中は、妻冬子さんの貢献があったと言えるでしょう。どうやら、春夫さんは、妻の貢献度の認識も勘違いしていたかもしれません。
離婚の財産分与と同じ考え方 ~ 年金分割
離婚したとき夫婦で作った財産を夫婦の貢献度で分けるのが財産分与です。財産分与は、離婚後2年以内の請求が必要です。年金分割も原則2年以内の請求が必要です。ただ、裁判で財産分与の取り決めをした人でも、額は期待した程ではありません。だからこそ、離婚して分割の請求をすれば、生涯受け取れる年金分割に、多くの女性がこだわるのでしょう。
総数 | 100 万円 以下 |
200 万円 以下 |
400 万円 以下 |
600 万円 以下 |
1000 万円 以下 |
2000 万円 以下 |
2000 万円 超 |
総額未決定 算定不能 |
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5年未満 | 1395 | 672 | 259 | 207 | 61 | 44 | 23 | 29 | 120 |
15年未満 | 2,666 | 673 | 378 | 443 | 201 | 229 | 140 | 49 | 529 |
20年未満 | 885 | 145 | 95 | 116 | 82 | 123 | 75 | 29 | 220 |
20年以上 | 1918 | 148 | 142 | 258 | 194 | 284 | 268 | 144 | 480 |
司法統計 家事事件 平成19年
制度の浸透で、当初の予想外の質問も
年金分割制度がスタートして、平成21年度で3年目に入ります。春夫さんのように、当初考えもしなかった質問やトラブルも増えています。自分の思い込みで判断は禁物です。分割する人、受ける人の生涯に年金額が関係してきます。一度請求したあとの取り消しできないことを肝に銘じておきましょう。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/