定年退職時の年金相談で多い質問は、ズバリ「定年後働く場合、給料(または年収)がいくらなら年金は全額もらえるか?」。これまで年金のもらい方の損益分岐点が知りたいは女性が大半でしたが、最近はこの手の質問が男性に増えました。長期的な視点でなく、今を輪切りにして損得を考える人が増えてきたのは、それだけ経済的に深刻ということでしょうか。今回は、注目の「在職老齢年金」を貰いながらいくらで働くとお得なのか、事例で考えて見ましょう。
在職老齢年金 ~ 65歳前は28万円がポイント
60歳で定年退職後も厚生年金に加入して働いた場合、年金(賞与含)と就労収入の合計で年金額が一部または全額停止されます。これを在職老齢年金といいます。在職老齢年金のしくみは65歳前と65歳以降では異なります。65歳前のポイントとなる金額は、一般的に28万円です。
事例 Aさん60歳 (昭和24年4月2日生まれ・男性)の場合
報酬比例部分の年金額は月10万円
60歳から65歳未満の在職老齢年金の早見表 単位;万円
年金受給額(月額) | 総報酬月額相当額 | |||||||
9.8万円 | 13万円 | 16万円 | 18万円 | 22万円 | 25万円 | 28万円 | 31万円 | |
5万円 | 5 | 5 | 5 | 5 | 5 | 4 | 2.5 | 1 |
10万円 | 10 | 10 | 10 | 10 | 8 | 6.5 | 5 | 3.5 |
15万円 | 15 | 15 | 13.5 | 12.5 | 10.5 | 9 | 7.5 | 6 |
※年金受給額と総報酬月額相当額の合計が28万円を超える場合、年金受給額が減額となります。
ピンクは減額の目安
在職老齢年金説明後の反応
働くと年金額が減る場合もあると聞いたときの相談者の反応は様々です。
「働いても年金額が減るなら働く意味がない」と退職を決める人。
「給与が下がったら雇用保険からの助成金があるのでは」と知識を生かして説明を求める人。
「仮に、給与が○○万ならいくら年金がもらえるのか、知りたい」と試算を依頼する人。
「年金だけでは暮らせないから働きたい」と切羽つまった表情の人
「社長がどうしても残って働いてくれと言われたから」と続けて働く人・・・・など。先輩から聞いた具体的な情報持参で、皆さん、それはとても熱心な相談風景です。
退職時期を「ココロのままに」決めるために・・・
残念なのは、「私はこの仕事を○○歳まで続けたいから、年金額に関わらず働きたい」
「○○の暮らしを××までに叶えたいのであと○○年働きたい」など、将来設計を考えて自分の将来を決める人はあまりいません。ひたすら損益分岐点の金額が気になるようです。時に、預貯金などがかなりあっても「配偶者が働きなさい」というから、「老後が心配だから」だけで働き続ける人もいます。
せめて退職時期くらい、ご自分のココロのままに決められたら幸せですね。人生最大の贅沢と言えるかも知れません。そのために、どう暮らしたいのかなど「私の夢プラン=ライフデザイン」を描き、夢プランを叶えるためのマネープランともいえる「ライフプラン」とその延長上のリタイアメントプランを作成して実行するのもいいでしょう。マネープランには、貯蓄・有価証券・生命保険・住宅ローン・教育費・老後資金などが含まれます。
大切なセカンドライフ ~ これからが自由に使える時間
定年退職後の時間は、経済的備えが十分なら、ある意味家族にも束縛されないあなたの自由に使える時間です。どう過ごすかはあなた次第の「お宝時間」を、年金だけで判断はちょっと惜しい気がしませんか。但し、最後まで自分らしく生きるためにも、早めの備えが求められていることは言うまでもありません。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/