最近離婚相談が目に見えて増えてきました。時代が変わり女性が強くなったとことは否定しませんが、それも夫婦が平穏に暮らしていることが前提かも知れません。年金の相談の現場ではまだまだ1人になった女性の立場は弱いのが現実です。老後の年金額から、離婚が多くの女性の老後の貧困化の一因といえる様子が見えてくるからです。今回は離婚からみえる現実についてお話しましょう。
離婚の統計から
平成14年の289,836組をピークに下がり続けていた離婚件数が21年は25万3000組(推計値)、平成20年の25万1136組より2000組増と推計され、離婚率(人口千対)は2.01となり、平成20年の1.99を上回りそうです。平成19年4月から施行された「離婚時の年金分割」や平成20年4月から施行の「第3号分割」制度が、長引く別居に区切りをつけたい夫婦の離婚に影響を与えているようです。
同居期間別離婚割合
5年未満 | 5年~9年 | 10年~14年 | 15年~19年 | 20年以上 | 不詳 |
34.00% | 22.10% | 13.20% | 9.50% | 15.80% | 5.40% |
厚生労働省 平成19年
年金額の男女比
厚生年金額は男女で大きな差があります。一般的に男性の方が厚生年金に加入した月数が多く給与が高い分年金額も多くなるからです。
離婚後の厳しさ
結婚して家庭に入った女性の再就職は容易ではありません。毎日の暮らしに追われ離婚後年金に未加入の人もいます。保険料の納付が困難なときは免除制度を利用できたのに、免除制度を知らなかった人も多いからです。運よく就職できても給料が低い場合もあります。結果、60歳(65歳時)の年金の請求時、自分が受給できる年金額の少なさに驚く女性がこれまででした。年金分割が成立したこれからの離婚は少し期待できるのでしょうか。
年金分割を安易に考えている人
「年金分割」の内容を調べもせず、離婚すれば受給できると思っている人がいるのが残念です。近日中に離婚といいながら、年金分割の存在すら知らなかった人や内容を誤って理解している人も多いからです。そのとき慌てないために、自分の場合はどうなのかを事前に調べておくことも大切です。
例えば、
(1)会社員だった男性(当時65歳)と再婚後、10年目に離婚予定の女性 (現在72歳)
→年金分割は請求できない {年金分割は、婚姻期間の厚生年金(保険料納付記録)の分割 }
(2)複数の会社に就職と退職を繰り返した男性の妻(60歳)
→分割年金額は少ない { 婚姻期間中の厚生年金の加入月数が短く給与も低い }
(3)離婚したら即年金分割されると思っている女性(50歳)
→分割年金の受給は、夫婦または裁判所で年金の按分割合(3号分割の按分割合は自動的に2分の1)決めた後、年金分割の請求が必要
(4)離婚すれば即多額を受給できると思っている、会社員と婚姻期間3年の女性(30歳)
→分割年金はごく小額を65歳から受給{ 婚姻期間3年分の夫の厚生年金を、女性が自分の年金を受給できる65歳から分割される}
(5)同じ会社員の男性と30年間暮らし(法律婚20年・事実婚6年・法律婚4年)、離婚した女性(55歳)
→事実婚6年と法律婚4年分、10年分の婚姻期間が年金分割の対象期間となる(法律婚から事実婚になったとき婚姻期間は一旦消滅する)
などです。
そのとき役にたってこそ、嬉しい「分割年金」
夫婦が離婚してもらえる分割年金は、(1)年金の受給資格期間を満たした人が(2)自分の年金をもらえるときから受給できます。(3)離婚後、原則2年以内に標準報酬月額の「改定請求」の手続きが必要です。離婚後も年金に加入して受給資格を満たすには、公的年金の知識とお金が必要です。離婚を決意したら離婚後の支出を見据えた自分のお金を蓄えておく才覚も必要という訳です。ゆとりがあるなら、世帯で増やすだけでなく、自分のお金を増やしておく才覚です。一定の金額の範囲で、自分(子)が確実に受け取れる保険などに加入しておくとよいでしょう。
契約者、被保険者、受取人を自分名義にします。イザというとき役にたつ加入の工夫も大切です。万が一のそのとき、本当に役にたってこそ保険や年金の存在価値があるといえるからです。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/