「宙に浮いた年金」「消えた年金」が話題になり、日本年金機構(平成21年12月までは社会保険庁)は、もっと年金のこと知ってもらおうと、これまでの加入期間や保険料納付実績など記載した「ねんきん定期便」を平成21年4月から被保険者の誕生月に送付しています。
現在、よくある「勘違いの相談例」もパンフレットで発信しています。ただ、届く情報は増えても届いた情報をどれだけ人々が理解しょうとしているかは疑問です。今回は、年金相談でよくある勘違いについてお話します。
60歳から年金を受給すると年金が減る?
50歳以上に届くねんきん定期便には、現在加入している制度に60歳になるまで加入し続けた場合の年金の見込み額が以下のように記載されています。そこでよくあるのが、60歳で請求すると年金額が少なくなるから後で請求するという勘違いです。そこで既に年金の受給資格があるのに、まだ受給していないAさんの年金額をねんきん定期便のようにまとめてみました。Aさんは60歳で年金請求していれば、60歳から63歳まで120万円、64歳以降は199.24万円受給できます。
在職中のAさんの場合
(厚生年金40年加入予定・昭和23年4月2日生・男性)
Aさん夫婦(世帯)の年金額
専業主婦の妻 (昭和26年4月2日生・国民年金40年加入予定)
勘違いの理由として
勘違いの主な理由の1つは図表の見方が分らない、2つ目は65歳から受給できる老齢基礎年金を65歳前に請求すると、老齢基礎年金額が減額される繰上げ制度と混同(下図参照)、3つ目は、友人や職場の先輩から聞いたなどです。実際に面談して説明すると、「へーッ。知らなかった。そういうことだったんだ!すぐに請求しょう!」となります。
老齢基礎年金を60歳0ヶ月で繰り上げると、年金額は生涯55.4万円
(昭和16年4月2日以降生・国民年金40年加入)
在職中は年金が受給できないから、年金請求はしなくてもいい?
在職中は年金が受給できないからと年金の請求をしない人がいます。在職中の老齢厚生年金は給与など※で一部または全額減額されるから、在職中の年金を退職後まとめて受給した方がお得の勘違いです。しかし、請求を退職まで遅らせても、請求しない間の年金額が全額もどるとは限りません。実際に退職したとき、在職したとみなした期間の停止分を引いた年金額しか受給できないからです。
※標準報酬月額+直近1年以内の標準賞与額×1/12
60歳から年金受給資格のある方が、61歳まで働いたときの在職中の年金の扱いについて見てみましょう。
在職時の収入により、年金受給額が一部停止か、全額停止か変わってきますので、全額停止のケース(Bさん)、一部停止のケース(Cさん)についてまとめました。
61歳で退職後に請求した場合 (昭和24年10月2日生・男性)
Bさんの場合
在職中の年金は全額支給停止なので、退職後請求しても在職中の年金は受給できません。
Cさんの場合
在職中の年金は一部支給停止なので、退職後請求すると一部停止分を除いた金額を一時金として受給できますが、60歳で請求して受給できた年金額より増える訳ではありません。年金請求が遅れたことで受給時期が遅れただけです。
Bさん、Cさんいずれのケースにおいても退職時まで年金を請求しないとしても、年金受給額は増えることはありません。
年金の受給資格があり、年金を受給できる年齢になったら、退職していても継続して働いていても年金の請求をしましょう。請求が遅れると、夫婦の働き方や生年月日で、請求時の添付書類が複雑になったり、加給年金などの加算の過払いなどが発生したりして面倒です。
いつ退職したら有利?
高齢者は年金額に敏感です。そこでよくある質問が「いつ退職したら年金額が増える?」。
なぜなら、在職老齢年金が支給される月が月末退職と月途中退職で異なるからです。ただ、答えにはいつも迷います。在職中の年金や健康保険の保険料、給与などの収入、退職後の年金額、健康保険料や配偶者の年金の保険料など複雑に絡むからです。高齢者の年金に関する知識も格差が広がっています。
月末退職 (10月31日退職)
9月と10月分の保険料を納付するので厚生年金の月数は増えるが、退職後の給与が
低い場合、平均給与が下がるので年金額の増加は期待できない。
月途中退職 (10月15日退職 ・10月16日喪失日)
喪失日のある10月分は在職老齢年金だが、11月分から本来の年金が支給される。在職老齢年金の支給停止額が多いなら、本来の年金が11月から支給されるのは嬉しい。
豊かな人生は、「知識」と「暮らしの質」のバランスから
どちらがおトクですかと聞かれたとき、年金の一部だけを考えるなら答えは簡単なことも、暮らしの質を考慮した場合は答えにくいことが多々あります。何も知らないとソンすることも、知りすぎて迷うこともあります。最終的にはご自身で判断します。いずれにしても年金を含めた社会保険の知識、豊かな人生を送るためにこれから益々欠かせませんね。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/