先日、何気なくみていた某テレビの特集で、介護事業に関わる女性がいいことを言っていました。
「一般的に500円のものを買えば500円払う。しかし、介護でサービスを受けて払う500円の本当のコストは5,000円だということを認識している人は少ない」と。さらに、年金やお金に関する相談を受ける立場からの実感は、その500円すら高すぎるというのが高齢者の言い分です。今回は、年金や医療、介護などで、私たちが実際に払うお金以外のコストがかかっている例をあげ、我が国の社会保険のありがたさについてお話ししましょう。
介護保険の自己負担額を考える
介護保険は、40歳以上の人が払う保険料と国などの負担金、私たちが介護サービスを受けたときの利用料で運営されています。利用者が実際に払う費用以外に9割の負担があるからこそ、安い負担でサービスを受けられるのです。例えば、在宅で身体介護を60分受けた場合、利用者本人の支払い額は4,310円の1割、たった431円(都内T市)の負担で済みます。
仮に、遠くに住む子どもに同じことを頼んだ場合と比較するとわかりやすいでしょう。子どもが実家に帰る交通費、仕事を持つ子なら仕事の負担、自分の家族への負担など心とお金と時間のやりくりや体力的にも大変です。
国民年金の免除制度
国民年金の保険料の納付が苦しいとき、一定要件に合えば免除申請ができます。保険料は全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除の4段階に分かれています。ただ、該当者に制度の説明をしようとすると、「どうせ年金額は少ないのでしょう」というお答えが多く残念です。
実は、免除制度は見えないコストを2分の1(平成21年3月以前は3分の1) 国庫で負担(税金)しており、弱者に嬉しい制度なのです。制度の全体を知れば国の配慮も見えてきます。だからと言って、極端にいうと国民の殆どが全額免除者なら収入と支出のバランスが崩れ破綻するでしょう。
免除期間の年金額はお得!
生活保護の生活扶助を受けている人、障害等級1級・2級を受けている人は国民年金の保険料を全額免除されます。要件に該当すれば当然に全額免除の対象になりますが、市区町村で全額免除の手続きは必要です。全額免除期間の年金額は本来の年金額の2分の1。4分の3免除、半額免除、4分の1免除期間の年金額は次のとおりです。
※平成23年度は、国庫負担分の縮小が検討されましたが、政府は現在の1/2を維持する方針を固めました。
今後の情報にご注意ください (平成22年12月2日現在)。
医療保険の自己負担3割 ( 70歳未満 )
実は先日車をよけようとして目をケガして運ばれた救急病院での診療費が18,200円。交通事故なので全額自由診療となり200%負担(大学病院)、健康保険は利用できません。窓口で支払った額の領収書を事故の相手方が加入している保険会社に請求すれば戻るとは言え、大変な金額です。
普段何気なく3割負担の診療費を払っている身には、保険のない世界の常識に驚かされました。
医療保険でも見えないコストを協会けんぽや組合健保が負担しているからこそ、私たちの生活が守られていることがよくわかりますね。
見えないコストを前向きに受け止めよう!
しくみは素晴らしい我が国の社会保険ですが、財源不足から今や公的な保障だけに私たちの老後を託せないのは誰の目にも明らかです。だからこそ、公的保障を補完する民間の介護保険、個人年金、医療保険などの存在が見直されています。ともすれば節約に走りがちな将来生活プランのイメージですが、生活の質をできる限り維持するために保険を活用する方法もありそうですね。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/