子育てが終わった時間を利用してパートで働く妻から、収入を103万円以下にして会社員の夫の扶養のままでいた方がお得だから収入を増やしたくないという言葉を聞きます。
妻の狙いは次の2つ。1.妻の収入を103万円以下にして夫の税金を減らす、2.妻の収入を130万円未満にして夫の被扶養配偶者となり妻は社会保険料(厚生年金と健康保険)を納付しなくて済むことです。今回は、妻の収入を減らすことが夫婦にとり本当にお得なのか事例で考えてみます。
103万円の壁
パート収入(給与収入)から給与所得控除額(会社員などの必要経費と言えます)を控除した額が給与所得です。年収162.5万円以下の場合の給与所得控除額は65万円、本人の基礎控除額38万円と合計すると控除額は103万円。つまり、パート収入が103万円以下の人は課税所得が0円になり所得税も0円となるのです。合せて、夫の所得から配偶者控除額38万円が控除され、その分夫の税金も減ると言う訳です。パート収入が130万円の場合と比較したのが次の表です。
配偶者控除額と配偶者特別控除額
妻給与収入 | 配偶者控除額 | 配偶者特別控除額 |
103万円以下 | 38万(33万) | 0(0) |
105万円未満 | 0(0) | 38万(33万) |
110万円未満 | 0(0) | 36万(33万) |
115万円未満 | 0(0) | 31万(31万) |
120万円未満 | 0(0) | 26万(26万) |
125万円未満 | 0(0) | 21万(21万) |
130万円未満 | 0(0) | 16万(16万) |
135万円未満 | 0(0) | 11万(11万) |
140万円未満 | 0(0) | 6万(6万) |
141万円未満 | 0(0) | 3万(3万) |
※夫の合計所得金額が1,000万円以下の場合
※なお、配偶者控除などの廃止が話題に上がっていますが、平成23年2月現在実施時期は不透明です。
パートで働くとは
会社員や公務員などに扶養されている配偶者が国民年金の第3号被保険者になるには年収130万円未満が有名ですが、前提として1日または1週間の労働時間と1ヶ月の労働日数が一般社員の4分の3未満で働いていることが目安です(健康保険の被扶養者と同じ)。
妻の年金保険料と年金額~平均寿命88歳まで生存した場合
会社員や公務員などの夫に扶養される20歳以上60歳未満の妻は、国民年金の第3号被保険者になり自身では保険料を納付しません。第3号被保険者期間は納付済となり65歳から受給できる老齢基礎年金額に反映されます。第3号被保険者と厚生年金に加入し130万円の収入で働く妻で較べてみます。
60歳まで第3号被保険者だった場合 (妻・昭和36年4月2日生)
厚生年金に10年加入した場合(年収130万円)
上記は、夫婦が生存して年金を受給した場合です。仮に夫が先に亡くなった場合受給できる遺族厚生年金は、夫の条件が同じなら専業主婦の方が多くなります。
社会保険制度と税制、夫婦の関係も変わる
ともすれば、今の制度における収入と支出に目が行きがちですが、社会保険や税制の将来は不透明なのは皆さんがご存知のとおりです。仮に妻が夫からの控除額を増やす働き方をしても夫が失業又は夫の収入が減少したら節税対策の効果がありません。夫婦が離婚する、夫が長生きまたは早く亡くなることもありえます。誰にも将来は分かりません。
いろんなリスクを知った上で、ご自身が今どう生きたいかで判断して最終的な満足を得ていただくしかなさそうです。
執筆:音川敏枝(ファイナンシャルプランナー)CFP®
ファイナンシャルプランナー(CFP)、社会保険労務士、DCアドバイザー、社会福祉士。
仲間8名で女性の視点からのライフプランテキスト作成後、FPとして独立。金融機関や行政・企業等で、女性の視点からのライフプランセミナーや年金セミナー、お金に関する個人相談、成年後見制度の相談を実施。日経新聞にコラム「社会保障ミステリー」、読売新聞に「音川敏枝の家計塾」を連載。 主な著書に、『離婚でソンをしないための女のお金BOOK』(主婦と生活社)、『年金計算トレーニングBOOK』(ビジネス教育出版社)、『女性のみなさまお待たせしました できるゾ離婚 やるゾ年金分割』(日本法令)。
HP: http://cyottoiwasete.jp/